はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ただ今青春

2019-07-29 18:15:27 | はがき随筆

 今日は、半年待ったコンサートの日だ。体調が悪く、都城市まで行けるか不安だったが、久しぶりの青空と、若い演歌歌手の声が間近に聞けると思うと急に力が湧いた。

 開演のベルが鳴り、ステージに黒の燕尾服姿で現れると場内は歓声であふれた。

 3列目の席にいた私は「カッコイイ」と叫んでいた。歌声は力強く心を打つ。ペンライトの光は宝石を散りばめたようで、心ひとつになり、揺れると夢心地。曲と合わせた衣装は心憎いばかりだった。

 同行の娘よ、ありがとう。私は生歌をもう一度聞きたい。

 宮崎市 田原雅子(85) 2019/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載


マニュアル化

2019-07-28 07:14:58 | はがき随筆

 「ご注文の品はお揃いでしょうか」と配膳を終えたところで尋ねられた。なんか妙な感じがする。注文したものを揃えてもらい、それをいただくのがお店での食事と思っているからである。

 虫の居所が悪い時は「私はこれとこれを注文しましたが、揃えていただきましたか」逆に聞いてしまう。

 コンビニ、ファーストフード店などのマニュアル化された言葉遣いには、なじめないことや疑問を感じる時がある。「ご注文の品をお揃えしました。ゆっくりお召し上がりください」と言われると納得するのだが。

 熊本市北区 西洋史(69) 2019/7/28 毎日新聞鹿児島版掲載


バラの花束

2019-07-27 11:15:24 | はがき随筆

 

 世界中の小5の中で、妻がいちばん好きな男子の手から花束が贈呈された。主役は妻。「63歳の誕生日おめでとう」。みなさんからの拍手と歓声。場所はふるさと浜松。義母の一周忌の昼食会会場のうなぎ屋の奥座敷。

 このサプライズの演出は私。「バラ? それも全部黄色で?」「そう、内緒でね」「この時期(3月)高いわよ」「20本ぐらい。予算は3000円~5000円くらいかな」……。

 そんな段取りでの1週間後のぶっつけ本番だった。さて、サプライズ後の8000円の請求に私は……。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載


ふるさと

2019-07-26 07:51:01 | はがき随筆

 およそ半世紀ぶりに故郷を訪れた。記憶にある街並みはすっかり様変わりしていた。久しぶりに会った友の家は港に近い石段を上がったところにある。懐かしい潮の香りがした。「子どもの頃は石段を駆け上がったのにね」と息を切らしながら上がった。帰りのバスは途中下車をして生家のあった通りを歩いた。駄菓子屋も貸本屋も幼い頃に通った店はなくなっていた。母も。私をかわいがってくれた周りの大人たちももう誰もいない。

 私のふるさとは、あの場所ではなく、幼少のあの時代なのだ。一抹の寂しさを覚え、ふと見上げた空の青さが目にしみた。

 宮崎市 石崎八千代(64) 2019/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載


チェンジ!

2019-07-25 21:00:17 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月23日 (火)

岩国市   会 員   片山清勝

 月1回、日曜日のくらし面に掲載される「チェンジ! なりたい自分になる」を楽しく読んでいる。昨年6月から始まった、読者をファッションで変身させる企画だ。米子市の理容師・Hさんが登場したこともある。投稿欄でよく名前を拝見する方で企画への親しみがぐっと増した。

 自分はどんなふうに変身したいのか、200字ほどにまとめ、写真と合わせて応募する。イメージコンサルタントによる外見診断でチェンジが始まる。
 毎回、「なりたい自分」に変身した満足そうな登場者の顔がいい。Hさんの「古希超えて渋く格好良く」は、帽子に手を置いた姿。仕事着のイメージが湧かない。ファッションとはこうも気分を変えるのか。
 わが装いを振り返る。
 高校を出て定年まで化学会社に勤務した。職場では会社貸与の作業服、通勤は車なので普段着、外勤や出張では無地の紺かグレーのスーツで困らなかった。着る物にさほど気遣いをせず仕事一筋、そのため着る物へのセンスが育たないまま定年を迎えたようだった。
 妻はクローゼットにある色や柄とは違う物を何度も見立て、勧めてくれる。悩んでも結局は私好みの地味系に落ち着く。昔ながらの着る物から脱却できない。
 まもなく八十路。老け込まずに少し粋に装ってみるか。派手でも華美でもなく自然風。仕上がりは年相応と「なりたい自分」を考えてみる。だが、具体的には示せない。諦めず紙面を見ながらじっくり考えよう。
  
      (2019.07.23 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)


一宿一飯

2019-07-25 20:57:56 | はがき随筆

2019年7月13日 (土)

  岩国市  会 員   上田 孝


 夕暮れ、道路上に小さな灰色の物体が動いている。近づいてみると小鳥のヒナ。このままではネコにやられると持ち帰った。すり潰した雑穀を与えるが口を閉ざしたまま。仕方なく虫かごに入れておいた。
 翌朝ピーピー鳴く声で目を覚ました。玄関の扉に掛けると、たちまち親がやって来た。蓋を開けると、なんとヒナは落ちるように飛んで出た。
 親は鳴きながら周りを飛び回る。ヒナはそれにつられて休み休み飛び、やっとの思いで木の枝に到達。それを見届けて一安心。ヒナの命を救ってやったと思うが、恩返しはいいよ。
   (2019.07.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


梅いろいろ

2019-07-25 20:56:33 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月 8日 (月)

        山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 「今年からあなたが漬けなさい」のしゅうとめの一言で始まった梅干し作りも四半世紀。買うのはもったいないと庭に梅の木を植えてからは、サボりたくてもサボれなかったのが本音だが、毎年の恒例行事となった。
 昨年、自分の家の梅でさえ持て余しているのに、主人が梅をもらってきて3年分ぐらいの梅干しを漬けた。しめしめこれで少しは休めると思っていたら、今年は梅酒と梅ジュースを作ってみたいと主人が言い出した。とりあえずへたを取ると主人がいそいそと作り始めた。
 今年の夏は、主人お手製の梅ジュースで乗り切れそうだ。
      (2019.07.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


お礼参り

2019-07-25 20:54:57 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月 6日 (土)

お礼参り

  岩国市  会 員   沖 義照

 奥さんと庭に出てガーデンランチをとっていた。その時「あっ、シジュウガラが鳴いているわよ」と指を差す。見ると、フェンスの上で、1羽のシジュウガラが「ツッピン ツッピン」と鳴いている。「あのシジュウガラに違いないわ」と断言した。
 前日のことである。手作りした巣箱の中でかえり、2週間がたっていた8羽のヒナが忽然と姿を消した。めでたい巣立ちなのに、何の挨拶もなく飛び立たれたことが胸に引っかかっていた。きっとお礼参りに来てくれたのだと思い、「ヒナロス」に陥っていた私は吹っ切れた気持ちになった。 
  (2019.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


梅粥と祖母

2019-07-25 20:40:20 | はがき随筆

 幼い頃、風をひいて発年した。祖母は梅粥をこしらえた。

残りの麦飯を小鍋に移し、梅干しの肉をほぐし、削り節を添えた。雅な梅の香りが漂う。やがて梅粥ができ、お椀についでもらい「頂きます」。熱いので息を吹きかける。舌やのどがお粥の味を覚えた。頬や背中、手足まで温まった。梅干しの香りと薄塩の味がなじんだ。精根込めた祖母の味に「ありがとう」。

 せまい額、頬の縦横のしわは絹糸のような光沢で気高く見える。手拭いを濡らし、つげの櫛ですいてくれた。風邪を引くと、いにしえの祖母の梅粥に思いをはせる。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


間に合った

2019-07-25 20:28:02 | はがき随筆

 ディズニーの実写版映画「アラジン」を娘と観に行った。

 第一番の字幕版に間に合うよう準備したつもりが、出遅れてしまった。車の中で娘がイライラしつつ「お母さんがサッサ着替えんからやがね」と注意した。素直に謝ればいいものを「だって~」と私。「もう間に合わない。今、何分」と娘はさらに苛立った。

 映画館にギリギリで着いた。席に座るや始まった。お互い顔を見合わせ自然に笑みがこぼれた。実写版はアニメ版に比べて期待外れが多いが、今回は見応えがあった。結果オーライ、至福の一日となった。

宮崎県串間市 林和江(62) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ゴリラパパ

2019-07-25 20:15:29 | はがき随筆

 常連の多い居酒屋で、妹家族と食事に行った。旦那抜きで。

 カウンターでは、常連さんたちとおかみさんで話が弾んでいる。カウンターの上にあるテレビでは動物の番組が流れていた。

 やっと動物の名前を覚えた姪っ子は、うれしそうに「パンダ!」「キリン!」などと大きな声でしゃべっていた。

 すると今度はゴリラが出てきた。姪っ子は瞳をキラキラさせながら「パパ」「パパがいるぅー!」と大声で叫んだ。店内は爆笑。妹は恥ずかしそうに笑っていた。

 熊本市中央区 阿部のぞみ(37) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


雨に咲く花

2019-07-25 20:04:54 | はがき随筆

 

 

 今日も雨か……。思わずこんなつぶやきが出る。そんなジメジメした気分を晴らしてくれるように、玄関脇の鉢植えの中から花火が開いたように、赤いハエマンサスが咲いていた。

 「今年は1輪だけだったけれど、肥料が行きとどいたようで、大きく咲いてくれたのよ」とカミさんも満足げ。

 少し先にいくとゼフィランサスが風に揺れている。ポツンと離れたところでカサブランカが2輪、存在を主張している。

 カミさんはドリップで入れたコーヒー、私はインスタンスコーヒーを手に、雨の庭に咲く花々を眺めながらのひと時。

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


あいさつ

2019-07-25 19:57:47 | はがき随筆

 夏の甲子園を目指した高校野球の観戦が忙しい。

 自分のミスで相手チームに加点された選手の気持ちはいかばかりかと察する。家族や学生がスタンドを埋めている。

 でも、その裏で相手のミスから加点して同点となりホッとする。勝負は、必ず、紙一重のところで大きく作用しているような気がしてならない。

 勝てば甲子園。負ければ来年こそと希望は残るが、厳しい練習の日々が走馬灯のように脳裏を過ぎることだろう。ここで気持ちを切りかえ。行き交う生徒のあいさつの爽やかさ、来年もあいさつのため、また来よう。

 宮崎市 黒木正明(86) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


小さな造船技術

2019-07-25 19:48:14 | はがき随筆

 「ママ、このひもどうやったらこの枝にくっつけられるの?」。テープ、木工用ボンド、ホチキスなどを前に5歳の息子。自分で調達してきたらしい。

 「何を作るの?」「大きなヨットを作ろうと思って」

 世界に向けて虚心に見開かれた幼い瞳はきれいだ。

 「木工用ボンドでくっつけてみたらどうかな?」

 私は操縦までの糸口を小さな造船技師に託した。「分かったありがとう」。

 こちらこそありがとう。試行錯誤している息子の頑張る姿に感動を覚えた朝だった。

 熊本市東区 山下裕里(32) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


利用再び

2019-07-25 18:42:23 | はがき随筆

 朝4時から7時まではラジオ、7時から8時15分まではテレビ、が私の従来の朝のパターンだった。ところが半年にわたる入院で、テレビは別だが大事がある以外は聴きたくても聴けず状態で、不満の募ること多々であった。

 しかし、半年ぶりに自由あふれる我が家へ戻った。ありがたく、うれしい日々。不自由な足腰ながらのラジオ体操、朝ドラ、ニュース、それにしても多い気象情報と、まんべんなく見て知ることができる。孫の出勤を門に出て送るため見そこなうこともあるが―—。やっと半年前に戻れた。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載