はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆3月度

2018-03-31 10:47:20 | 受賞作品
月間賞に清水さん(出水市)
佳作には若宮さん(志布志市)、西窪さん(鹿児島市)


はがき随筆の3月度月間賞は次の皆さんでした。
【優秀作】7日「ツルの北帰行」清水昌子=出水市明神町
【佳作】14日「人生のご褒美」若宮庸成=志布志市有明町
▽ 24日「うれしい出来事」西窪洋子=鹿児島市谷山中央

「ツルの北帰行」は、ツルの北帰行が呼び覚ます、シベリア抑留から帰還したおじの記憶です。私たちは歴史というと、自分たちとはかけ離れたところで起こっていることだと考えがちですが、実は、むしろ一人一人の個人の中で起こっていることだということを、静かに考えされられる文章です。
 「人生のご褒美」は、老夫婦の「健やかで穏やかな時を味わう幸せ」が描かれています。春はまだ浅いが、朝の陽光、風の音、河津桜や梅のつぼみなどに、近づく春の足音を夫婦で探している心地よい文章です。この「ご褒美」が、壊されないで永く続くことを祈りたくなります。
 「うれしい出来事」は、車の故障で困っている老夫婦を、長男がとっさの機転で手助けし、感謝されたという内容です。往々にして嫌味がつきまとう身内褒めの文章でも、それが感じられないのは、長男の自然体の親切と、ご主人の一周忌の帰りで、それが何よりの供養になったと感じられたためでしょう。
 この他に3編をご紹介します。
 種子田真理さんの「心を読んだ犬」は、「おブスな犬」に出会ってその顔を見つめていたら、心を読まれたのか、吠えつかれたという内容です。よほど不細工な顔の犬だったと見えて、そのブスぶりに本気で感心しておいでのところが、文章を面白くしています
 宮路量温さんの「訓練」は、奥様の留守の間の一人暮らしが内容です。強がって送り出したものの、一人では家も広すぎるし、家事はいちいち電話で問い合わせ、奥様は何事も不測の事態に対しての訓練だと言われるが、それが大変でした。
 本山るみ子さんの「ヘアドネーション」は、髪を伸ばしたり切ったり、一人で髪のおしゃれを楽しんできた。しかしある年齢から、癌治療で髪をなくした人へ髪を提供する活動の、ヘアドネーションに関心が向き始めたという内容です。それまで髪は自分一人のものだったのが、他人のものでもあることに気づかれた心理がよく描かれています。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

古稀

2018-03-31 10:15:02 | はがき随筆
 団塊世代のぼくもついに古稀を迎えた。人口の多い世代。「お荷物」「高齢者」とも呼ばれ、ちょっとさびしい気もする。でも若い人と違うのは昭和の高度成長期を生き抜いてきたそれなりの人生経験があることだ。古稀を迎えビンタに浮かんだのが、母ちゃんの口癖「光陰矢のごとし」。何かにつけて行動が遅かったので「ハヨセ」と怒りながら、このことわざをくりかえし使って励ましてていた。まさに、あっという間の70年が過ぎた。ただただ母に感謝するだけである。たった一度の人生、この残されたいまからの人生こそが本当の人生だ。
  さつま町  小向井一成  2018/3/31 毎日新聞鹿児島版掲載

いのちを頂く

2018-03-30 10:51:37 | はがき随筆
 先日中学2年生の書いた「いただきますに感謝」という作文を読んだ。彼は、学校の講演会で牛を解体する仕事の方から話を聞いた。牛が死を察してか涙を流すことや、生きるためには多くのいのちをいただいて生きていることなどを学び感銘を受け「いのちをいただくことに感謝し、精いっぱい生きていきます」と結んでいた。
 世界中には食糧が不足し、命の危険に直面している人々がたくさんいる。それを知っていながら平気で食べ残している。私どもは毎日の食事について深く考えたことがあるのだろうか。立ち止まって考えてみよう。
  志布志市 一木法明  2018/3/30  毎日新聞鹿児島版掲載

お姉ちゃん

2018-03-30 10:31:56 | はがき随筆


 母が施設に入所して6年目の春。昨年の秋までは笑顔で名前を呼び歓迎してくれた。今「お姉ちゃん」としか言えない。娘だと認識できているのか疑問だ。記憶を手繰り寄せられずに困惑顔の母。誰だか分からないのか? 
 間違いを訂正すると、ばつが悪そうだ。思い出せなくて残念なのは当の本人なのだから、これ以上、反応を探るのはやめよう。面会の度に試され可哀そうになった。識別できなくてもよしとしよう。現実を受け入れると少しは気が楽になった。あと少し頑張ってほしい。母の好きな沈丁花、優しい香りが心地よく辺りを包んでくれた。
  鹿屋市  中鶴裕子  2018/3/29  毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆

2018-03-29 19:09:47 | ペン&ぺん
 「はがき随筆」の掲載作品の中から、昨年の年間賞とペンクラブグランプリを先日紹介させていただきました。受賞者の話を伺っていて、たまたま共通した思いがあることに気づきました。
 一つは戦争へのこだわりです。ペンクラブグランプリの西尾フミ子さん(83)は、兄が通信兵として鹿屋の海軍航空隊に配属になったのをきっかけに「少しでも一緒にいたい」と願った母が、西尾さんら娘を連れて栃木県から鹿屋へ移ってきたそうです。やがて兄は戦死し、姉は鹿屋空襲で爆弾が降る中、防空壕の中で赤ん坊を出産しました。こうした戦争中の体験を「忘れることは罪だ」との思いでペンを握っていらっしゃるとのことでした。
 年間賞の伊尻清子さんの義母は25歳のとき、30歳だった夫が硫黄島で戦死し、その息子である伊尻さんの夫は父の顔を知らずに育ったそうです。ちょうど桜の時期、義母は霧島へ夫の部隊を訪ね、それが最後の別れになりました。それでも苦労を感じさせなかった義母の生き方を作品にしていらっしゃいます。
 もう一つ共通してしたのは、お二人とも60歳のころに夫をがんで亡くされたことです。ショックを乗り越え、やがて「自らの思いを多くの人に聞いてもらっている」という支えにつながったと話してくださいました。
       ◇
 毎日新聞は4月から鹿児島、熊本、宮崎の3県のニュースが互いに乗り入れる形で一つの地域面を製作することになりました。はがき随筆についても熊本、宮崎からの投稿が登場することになります。全体の掲載数をふやすため、3県の作品を集めた特集を週1回、右ページに新たに設けます。倍率は上がりますが、熊本や宮崎に負けない作品を少しでも多く掲載したいと考えています。引き続き皆さまのご投稿をお待ちしています。
鹿児島支局長・西貴晴


17年度のはがき随筆

2018-03-29 18:29:58 | 受賞作品
年間賞に伊尻さん
 母への切なる思い込め
 2017年に掲載された「はがき随筆」の年間賞に、出水市武本の伊尻清子さん(68)の作品「母の文章」(12月3日掲載)が決まった。また、はがき随筆など毎日新聞への投稿者でつくる毎日ペンクラブ鹿児島の会員が投票で決めるペンクラブグランプリに、鹿屋市新栄町の西尾フミ子さん(83)の「メリー」(10月24日掲載)が選ばれた。
【西貴晴】

ペンクラブグランプリに西尾さん


選評
 例年のように、12本の月間賞から、まず別府柳子さんの、劣等感の強い性格や傷害などを乗り越えての現在を描いた「大変身」(1月)、塩田きぬ子さんの、孫の服の墨汁の汚れをご飯粒でとってやった内容の「ひらめき」(7月)、小村忍さんの、「モンシロチョウの宿と夢」(9月)、若宮庸成さんの半睡の意識のままで、米軍の北朝鮮爆撃からの帰路かのジェット機音に驚いた「疑心暗鬼」(11月)、伊尻清子さんの、偶然見つけた母の文章で、子供から見たのとは異なる母親像に驚いたという「母の文章」(12月)の5本を候補として選びました。
 その中から「母の文章」を年間賞に選びました。「疑心暗鬼」の暗示する、現在の私たちにとって戦争の影のもつ不安は、非常に深刻なものだと考え最後まで迷いましたが、やや一般性に欠けるかとも考えました。その点で、「母の文章」が広く共感を得るかと考え、選びました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

自分史の意味込めて
伊尻清子さん
 たまたま自宅の机の中から見つけた母の同窓会報の中に母の思いがけない文章が載っていた。いま93歳になる母だが、当時は現在の伊尻さんと同じ年。そこには年とともに腰が曲がり、徐々に歩けなくなっていく我が身を嘆く切々とした母の言が並んでいた。
 母から愚痴を聞かされたことはない。母は勤めをやめてもシルバー人材センターで頑張っていた。今は寝たきりとなったが、四半世紀前の母はこんなつらい気持ちを胸に過ごしていたのか。「もっと大切にしてあげればよかった」という思いを込めて作品にした。
 伊尻さん自身は7年前の東日本大震災の年に67歳だった夫をがんで失った。「病窓から」と題し、闘病中の夫のことを書いたのが最初の投稿。同じペンクラブの会員をはじめ、多くの読者に作品を読んでもらっていると思うことが支えになった。
 「はがき随筆」というネーミングに魅せられ、今もはがきに定規でけい線を引いて作品をつくる。「その時々に自分が何を考えていたのか、自分史としての意味も込めてはがきに書き残していきたいのです」


「戦争」にこだわり
西尾フミ子さん
 受賞作は戦争末期、空襲がひどくなって飼えなくなった愛犬との別れがテーマ。元々栃木県の出身だが、兄が鹿屋の航空隊に配属になり、母も一緒に鹿屋へ。兄は戦死したが、そのまま鹿屋に残った。以前から戦争にこだわった作品が多く、「体験したものが残しておくべきだ。忘れる事は罪だと思う」とその理由を語る。
 1991年に鹿児島版ではがき随筆が始まったころかりの投稿ファン。57歳のころ、戦争で苦労した義母のことを書いた作品が初採用となった。10年後にペンクラブ鹿児島が発足したときからのメンバーでもある。「年に1.2本であっても書き続けていきたい」と意欲はやまない。


◆ 年間賞作品
 ある時、母の文章を目にした。母は筆まめで、よく便りをくれた。達者な字で、いつも近況を添え私たちの健康や安全を気遣うものだった。
 しかし、その文は違っていた。「足、足、足というほど足が痛く……」「走ってみたい」「誰か治療法知りませんか?」とある。25年前、同窓会の会報に寄せられたもの。その頃から腰が曲がり、つえをつき、ついには歩けなくなった。私は見守ることしかできなかった。
 娘には言えなかった親の思い、苦しみが母の年になり深く骨身にしみる……静かに時雨が降り秋が行く。


◆ ペンクラブグランプリ
 線路わきの草むらを必死に嗅ぎまわるメリーの姿に驚き、思わず声をかけようとして、母に厳しく止められた。
 先の大戦末期、空襲が激しくなった街中では犬を飼うことが禁止された。その日私たちはメリーを預けた老夫婦宅を訪ね夢の再会を果たした帰りだった。
 子犬のときに別れたのに覚えていた。じゃれついて片時も離れない。大好きなおやつには目もくれずはしゃぎまわっていたが、帰りの列車の時刻も迫り、気付かれぬようにそっと駅に向かったのだった。
 列車の窓から小声でさよならしたメリーの思い出はせつない。




カエルの吸い物

2018-03-28 21:23:16 | はがき随筆
 出水の江戸時代初期の地頭・山田昌厳についての講演会が開かれた。
 昌厳は今から350年ほど前の人で、小柄だったが士風を作興して出水兵児の育成に生涯をささげたという。昌厳が出水に赴任するとき、肝だめしに出水の若者たちはカエルの吸い物を出したという逸話が残っている。ところが、彼は顔色一つ変えず大きなカエルをぺろりとたいらげたという。
 今、出水の仲町のある食堂でカエルの吸い物がでる。私も1回ごちそうになった。
 3月には、短歌の仲間5人でまた行く計画を立てた。
  出水市  小村忍  2018/3/28  毎日新聞鹿児島版掲載

カーリング

2018-03-28 21:12:51 | はがき随筆


 寒くてストーブ、甘酒、編み物の三点セットの日々に、ピョンチャンから聖火が飛んできた。目覚めた熊のように気合いが入りカーリングに夢中になった。ルールはうろ覚えだが時差もなくたっぷり見られ、ゲームに参加できるので面白い。作戦と駆け引き、そして正確なショットが勝敗を分ける。一投でハウスから3個出る音は暮らしのわだかまりも吹き飛ばされ気分爽快。お国柄で趣のある美男美女の表情がアップで迫り、若返りの秘薬になりそう。競技者の忍耐と努力に勇気とパワーをもらったオリンピックに感謝。次は北京だ元気でいよう。
  薩摩川内市  田中由利子  2018/3/26  毎日新聞鹿児島版掲載

ヘアドネーション

2018-03-28 20:49:14 | はがき随筆
 若い頃から髪を伸ばしては短く切ることを繰り返してきた。古い友人たちにはいつも長い髪というイメージがあるようだ。
 52歳で鹿児島市に来てからはショートヘアだったが、再雇用になったあと伸ばし続けた。夏はぎゅっと結び暑さに耐えた。
 65歳になりヘアドネーションについて調べ始めた。抗がん剤で髪をなくした人たちにかつらを寄付する団体があり、そこへ髪を提供する活動のこと。長さや切り方にはルールがあり、活動に賛同する美容室が鹿児島市内にも幾つかあるらしい。
 春になり仕事を辞めたら、思い切り短く髪を切るつもり。
  鹿児島市  本山るみ子  2018/3/27  毎日新聞鹿児島版掲載

おやつ

2018-03-28 20:41:45 | はがき随筆
 カーリング女子のおやつタイムが話題になり、テレビで放映された。イチゴやバナナ、洋菓子などを食べている様子は、話し声さえも聞こえてくるようで、これが女子会の一面なのだろう。自分の高校生時代、5時ごろに帰宅して3杯のご飯をおやつ代わりに食べ、夜食も3杯食べていた時代があった。そして現在、自分はイギリス風のティースタイルとして3時ごろにはビスケット2枚とコーヒーのスタイルになる。おやつは人や時代の変遷により変わっていくものだと思う。おやつどころか食べ物がない人々が世界に存在することも忘れてはならない。
  鹿児島市 下内幸一  2018/3/25  毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい出来事

2018-03-28 20:35:18 | はがき随筆
 主人の一周忌で帰省していた子どもたちと昼食をすませた帰りの寒い道端に、車を押してしる老夫婦の姿があった。
 真っ先に気付いて車から降りて駆け寄った長男の話では、車が故障した上に携帯電話も忘れて困っているということだった。ご夫婦の車の鍵に付いていた行きつけの修理屋さんに電話をして現場に来てもらうようお願いをしてきたという。私たちの車に向かってうれしそうに手を振ってくださったのを見て、安心してその場を離れた。
 長男の詩全体の信説が、亡き夫への何よりの供養になったとてもうれしい出来事だった。
  鹿児島市 西窪洋子  2018/3/24  毎日新聞鹿児島版掲載

子供時代

2018-03-28 20:29:19 | はがき随筆
 父が戦死したとき、わたしは1歳半、妹は母の胎内にいた。
 母、祖父母、まわりの者の愛に包まれて父のいない寂しさの入り込むスキはなかった。生身の父に触れ得ぬもどかしさを感じてはいても、それがかなしみだとは気づかなかった。
 父が恋しくて身をよじり、泣きたい日は訪れる。けれど泣けない。そんな自分に腹を立てる。八つ当たりして母を責める。「なぜ父さんを戦争に行かせたの」。母は絶句した。かなしみが意識の表に浮上したとき子供時代は終わった。父には夢があった。父の夢を奪った戦争について考えはじめていた。
  鹿屋市  伊地知咲子  2018/3/23  毎日新聞鹿児島版掲載

グッド・ジョブ

2018-03-27 17:21:09 | 岩国エッセイサロンより
2018年3月27日 (火)
岩国市  会 員   樽本 久美

 「外国人に、書を教えるイベントがあるんだけど手伝ってくれない」との電話があった。以前も手伝ったことがあったので、すぐOKをした。久々の外国人との交流。「好きな文字は何?」と聞くと、いろいろな言葉が飛び出した。
 半紙にお手本を書き、名前をカタカナで書いてあげる。それを見て、子供も大人も真剣そのもの。「幸」「桜」「犬」「骨」「土足厳禁」などの言葉を。左手で書く人も多く、いろんな形の文字ができ、見ていて面白かった。褒めてあげると、うれしそうな笑顔。私まで笑顔になり、書くことの面白さを再発見した。
(2018.03.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

毎日新聞鹿児島版掲載地方版の紙面見直し

2018-03-25 17:26:06 | アカショウビンのつぶやき
 毎日新聞は4月から、鹿児島と熊本、宮崎の3県の血を鵜版紙面を合体そせることになりました。特に若い人の新聞離れが続いている中で、どうやって新聞の発行を続けて行くか模索し、地方版の統合という方針を本社で決めました。

鹿児島版のはがき随筆はこれまで鹿児島の投稿者だけでコーナーをつくっていましたが、4月からは熊本や宮崎の投稿を含めて、3県で一つの作品しか載らないことになりました。

4月からは、隣県の方々の作品も、このブログでご紹介することになりますので、楽しみにお待ちください。

鹿児島の皆さんも、頑張って投稿よろしくお願いします。

by アカショウビン



楽しい一人居

2018-03-22 18:15:32 | はがき随筆


 立春の日寒気の厳しい中、町内一周駅伝が行われた。近くの辻でご近所の方々とおしゃべりをしながら30分寒風を浴びた。最後の走者が通り過ぎるまで「それ頑張れ! チェスト!」と声援を送った。帰宅して熱いお茶で一服、やっと人心地がついた。
 一人居は気の赴くままだ。今日こそおひなさまをお出ししよう。格好の小箱を組み合わせてひな壇を造る。お内裏様、三人官女、そして左右大臣、プランターのストックを一輪、散歩路の土手で菜の花を5本ゲット。おかげさまで小さなおひな壇の周りにはもう春が整った。
  鹿屋市 門倉キヨ子  2018/3/22  毎日新聞鹿児島版掲載