はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆6月度

2012-07-27 05:38:10 | 受賞作品
 はがき随筆6月度の入賞者は次の皆さんです。
 【月間賞】19日「私は冷たい?」伊地知咲子(75歳)=鹿屋市
 【佳作】7日「キターッ」東郷久子(77)=鹿児島市
     29日「あしたもおいで」種子田真理(60)=鹿児島市

月間賞に伊地知さん(鹿屋市)
佳作には東郷さん(鹿児島市)、種子田さん(鹿児島市)

 「私は冷たい?」 臨終直後の母親の頬に触れた時感じた、その冷たさへの嫌悪感と、18年たった今もその感覚を悔いている心理がよく描かれています。遺体はなぜあのような独特の冷たさと重さとをもっているものでしょうか。その感覚が、たとえ母親の場合でさえも、別の感覚にならないところが、哲学的にいえば、人間の実在の不気味さというものでしょう。
 「キターッ」 鹿児島ならではの文章です。灰交じりの噴煙を逃げ回る模様が描かれています。降灰を迷惑なものとして暗く描くのは比較的楽ですが、降灰にもそれを逃げる自分にも距離を置いたところが、軽妙な文章になっています。噴煙を「黒いオーロラ」とは絶妙な表現です。
 「あしたもおいで」詩人の北原白秋はスズメが大好きでしたが、これほど人家の近くに住んでいるのに、なぜ人間になれないのだろうかと不思議がっています。そのスズメがいくらかなれた情景が実に可愛らしく描かれています。お米の餌をまき忘れると、ガラス戸からのぞき込まれて催促され、ついまたまきたくなってしまう気持はよく分かります。
 以上の他、3編を紹介します。
 吉井三男さんの「努力目標」は、子供の時も現在も目標達成は難しいという感慨が描かれています。子供の時の「方言を使わない」はまさしく鹿児島を感じさせますが、現在の、妻に小言を言われない、嫌われないは、ついおかしくなります。
 山室浩子さんの「6月に思う」は、夫君の命日が加わった6月は特別な月になり、虚無感に沈むご自分を励ます文章です。結婚指輪がきつくなったので、サイズを直すために梅雨のなかでも出かけようというのは、重大な決意ですね。
 竹之内美知子さんの「朝の報告」は、亡夫の好きだったクジャクサボテンの花が咲いたので、その写真を遺影のそばに供えたという内容です。花の描写とそれを見つめる生前のご主人の描写が、鮮明なイメージとして浮かぶ文章です。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

手間ひまかかる

2012-07-27 05:31:37 | はがき随筆
 県公立学校講師の委嘱状を受けた。小学校勤務1年半の経験はあるものの、一日中、学級担任の職務を果たすことになる。
 子供たちは、生き生きしている。元気もあり過ぎるぐらい。いつどんな時でも対処していく体力・気力を持ち合わせねばと思う。現実は50%も発揮できないざま。
 床掃きにしても、1歩2歩と気合いを入れるもののダウン。前に進まない。子供たちはメダカのようにすいすいと行く。暗記も短時間で済ませる。天才と凡才の差の現実か。老身は、あせる、あせる。効無しか。本当に手間ひまかかる。
  出水市 岩田昭治 2012/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

もらい風呂

2012-07-26 23:45:59 | はがき随筆
 父の許しを得ると五右衛門風呂から跳びはねるように上がり、風に吹かれてはしゃいでいる。さっぱりし、晴れ晴れした声でお礼を言った。父は杉の葉でカンテラに火を付け、雨上がりの小道を黙って歩いて行く。ぽっかりと揺れる灯をみつめ、とぼとぼと追う。
 雲もとかくれんぼする三日月。水たまりを避けるように時々止まって足元を照らしてくれる父。姉も手を引き合図するが、擦り切れたげたは、ぬかるみにはまる。たんぼからはケロケロとカエルの合掌。闇にはほっこりなった心のようなふわふわ蛍。
 戦後間もない頃の事である。
  薩摩川内市 田中由利子 2012/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

シャクナゲ園にて

2012-07-26 23:34:37 | はがき随筆


 午前11時過ぎ、急に思い立ち、小雨の中を夫婦で都城市の山間地にある「シャクナゲ園」に出かけた。園の食堂でヤマメの塩焼きと山菜の料理を食べるのも楽しみの一つである。着いて間もなく最後の客が食事を終え、私ども二人になった。
 沢の際にある食堂にはせせらぎの音、しきりに鳴くウグイス、静寂を破るかのようなオオルリのさえずりが聞こえる。箸を止めてすべての音色を二人のものにして聴き入った。奥の方で食器を洗う音さえも心地よく聞こえる。
「また来年も来たいね」と会話を交わしながらシャクナゲ園を後にした。
  志布志市 一木法明 2012/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

悲しみの色

2012-07-26 23:29:09 | はがき随筆
 隣家のピアノの音を初めて耳にしたのは昭和35年ごろだった。少女が練習曲を弾いていた。たどたどしいその音に僕は妙に心引かれた。雨の日は特に染みた。降りしきる雨の中のピアノの音をじっと聞いていた。
 退職するまでの歳月を振り返っていたら、ふと気が付いた。ビアノの音に引かれていたあの頃から、僕の心の奥底に人生への絶望が芽生え始めていた。死のうとしても死ねない。だからあきらめたように欲も出さず自然のままに平凡に生きてきたのだ、と。今でもピアノの音色が好きだが、悲しみの色が一つ増えたような気がする。
  出水市 中島征士 2012/7/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ミカドアゲハ

2012-07-26 23:22:42 | はがき随筆


 今年で17年目。趣味でミカドアゲハの幼虫を飼っている。サナギで約11カ月。翌年の初夏に羽化したてのみずみずしいチョウを放すのが楽しみだから。今回は5匹放したが、庭に産卵に来た数は例年になく多く、次々と1カ月にも及んだ。その度に採取して45匹となり飼育箱3個になった。
 飼育は蚕より面倒だ。食草のオガタマの木の柔らかい葉だけを食うので、庭の木では足りず、知人宅にもらいに行く。飼い始めて35日目、1匹がサナギになった。数匹は死んだが残りがサナギになるまであと半月。来年を楽しみに世話を続けよう。
  薩摩川内市 森孝子 2007/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載

トルコ紀行4

2012-07-26 23:02:13 | はがき随筆


 世界に奇岩地帯は多々あるだろうが、この目で見たいとずっと思っていたのがカッパドキアである。写真で見ていたキノコ形に立ち並ぶ岩の間を気球ですり抜け、上昇して見下ろした時の光景には息をのむ。しかし、この奇岩地帯に続く地下都市は何層にもくりぬかれた生活の場であり、異教徒から身を、さらに心を守る迷路である。穏やかな景観とは裏腹に壮絶な歴史が秘められていた。凝灰岩の層がキノコのかさのように残る。この溶解の連鎖は今も繰り返されているという。僕は気が遠くなるような営みの真っただ中にいた。
  志布志市 若宮庸成 2012/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載

山々の虹

2012-07-26 22:54:49 | はがき随筆
 「わあ、虹だあ」
 雨上がり、緑の八重の山々を囲むように虹がかかっていた。
 大きなアーチ状の虹の橋。赤、黄、緑、青、紫……と、色もはっきり浮き出ている。淡い水彩絵の具で、空にアーチを描いたような大きな虹。
 八重の山々にかかっているその虹の橋を渡れば、向こうの山からこちらの山に遊びに行けそうな、そんな感じがする。山の動物たちも喜んで眺めていることだろう。
 緑の山々と虹の色が混ざり合って、何とも言えない美しい風景。それは、天からの山の神々様への贈り物かもしれない。
  屋久島町 山岡淳子 2012/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

「遺 産」

2012-07-24 21:04:43 | 岩国エッセイサロンより
2012年7月24日 (火)

    岩国市  会 員   吉岡 賢一

熱いおかゆに熱いみそ汁。何十年も続いている我が家定番の朝ご飯。おふくろがおやじさんにずーっと作り続けてきた。引き継いだかみさんが今もその習慣を守ってくれている。風邪気味でも二日酔いでも、すーっと喉を通る。とたんに元気が出る。お陰で目下病気知らず。
 遺産らしきものはなかったが、おかゆとみそ汁という胃に優しい朝ご飯の習慣と、この健康体を残してくれた。ささやかなことではあるが、大きな遺産をもらったと心得よう。兄妹が争うほどの遺産をもらってもねー。あったらあったで邪魔にはしないだろうが。
 (2012.07.24 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

やっと復活です

2012-07-24 19:36:26 | アカショウビンのつぶやき
長い間、ブログの更新ができず申し訳ありません。
1年前は何ともなかったことが、とてもしんどい…。
つくづくオトシを感じた旅でした。

甥っ子の結婚式場は幕張の大きなホテル。
化粧室、更衣室、控え室、式場、写真撮影と広いホテル内を相当歩かされました。
でも幸せいっぱいの二人を見ていると、疲れは吹っ飛びましたが、
翌日は娘のところでぐったりでした。

式の後は、別の甥っ子と夜のドライブ。
ライトアップされたスカイツリー、ゲートブリッジ、それに懐かしい東京タワーまで、美しい東京の夜景を堪能しました。

交通至便な娘の新居では、ただただ、のんびりと、ほねやすめ。

最後は、不思議な出合いで結ばれた旧友5人。大阪からも駆けつけて楽しい一夜を過ごしました。
泊まったホテルはなんと「グランドプリンス高輪」。
さすがにロビーも庭園も立派です。更に客室は15畳と10畳の和室二部屋。
一泊朝食つきで一人6500円という友人の話に、
「間違いじゃないよね」と、いいおばさんたちが、フロントまで確認に。
「通常料金は7万のお部屋ですが、季節により変動します、更に会員割引も適用されて、この料金です」
会員資格をもつ、友人に感謝でした。

当日は朝からはとバス、ランチは帝国ホテルのバイキング。
さらに東京湾クルーズで、おやつを食べ通しだった私たち。
「お腹がすかないねぇ…明日はまた、豪華なバイキングだし」と、
コンビニで弁当を買い込み、豪華な部屋で食べました。
みんな主婦感覚はバッチリです。

このグループは、おひとり様の仲間で、17年前に出会った時は10人でした。
現在7人になってしまいましたが、私が上京すると、
大阪、静岡、名古屋からも駆けつけてくれる仲間です。

グループの名称は「蔕の会」と言います。
(名前の由来はいつかお話ししましょうね)

配偶者を失い、涙の中で出会った私たちですが、
今は、それぞれがボランティアなどで、いきいきと輝いています。
秋には長崎で再会の予定です。

あぁ周りを見回せば、部屋の中はまだ散らかったまま。
ブログの更新はいつになるんだろう…
ゴメンナサイ。


「そうだったのね」

2012-07-20 21:22:42 | 岩国エッセイサロンより
2012年7月20日 (金)

    岩国市  会 員   中村 美奈恵

「最近、揚げ物ばっかり」。鶏の空揚げを作っていると、中1の三男が言う。「うん、お兄ちゃんの好物だからね」
 1人暮らしをしている大学生の次男に送るため、喜びそうな料理を冷凍庫にストックしている。多めに作っては、夕食のおかずに回す。昨日のコロッケもそうだった。「家にいないお兄ちゃんのことばかり言っている」。おやつに「一つだけよ」と冷凍庫からドーナツを出したのも気に入らなかったらしい。

「ねぇねぇ、それってやきもち?」「うん」。思わぬ返事に、私の方がドキッとした。

(2012.07.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

プランター野菜 美味

2012-07-18 18:25:45 | 岩国エッセイサロンより


2012年7月17日 (火)

   岩国市   会 員   片山 清勝

 プランター菜園3年目。 トマトにキュウリ、ビーマンなど丈夫そうな苗を選んで植えた。

 キユウリ、ピーマンの取りたては、ちょっと生臭いが、みずみずしさが伝わる。トマトはつやのある赤色に染まり、完熟のシグナルをくれる。ミニと小型の2種類、十数個取る日もある。

 トマトは冷蔵庫で冷やし、丸ごと食べるのが私の食べ方。市販のそれより少し皮が厚めだが、酸味と甘みが濃厚で、市販の味に勝っている。

 キュウリとピーマンは妻の料理に委ねる。時には棒状に切ったキュウリに好きなしょうがみそをつけて食べる。パリバリとした食感が爽やか。

 プランターでも成長は速い。倒れないように支柱を立てる。我流で見栄えはよくないが、よく伸びる。それに連れて収穫も増えるから楽しい。

 本格的になった節電の夏。色濃い自作の野菜で体力をつけ暑さを乗り越えたい。そんな願いを話し掛けながら水やりをしている。

  (2012.07.17 中国新聞「広場」掲載)
写真はtatu_no_koさんのブログより

しばらくお休みします

2012-07-12 20:53:45 | アカショウビンのつぶやき
 梅雨末期の激しい雨が降り続いています。
とうとう大雨洪水警報が発令されました。
幸い我が家は高台にあり、水の心配はありませんが、近くには一級河川・肝付川が流れています。
被害が出ませんようにと祈るばかりです。

私は、その雨の中、明日から上京の予定です。
空港までの道路に崖崩れなどありませんように。

今回は甥っ子の結婚式なのですが、ついでに娘の新しいマンションを訪ねたり、懐かしい友人と逢ったりして18日に帰ります。

しばらくブログをお休みします。(すでに数日前からお休み状態ですが…)

東京スカイツリーは下から眺め、ゲートブリッジも電車から眺めるだけ…

でも素晴らしい旅となりますよう願っています。

お越し下さった皆様、ほんとにゴメンナサイ。



「むつまじさ」

2012-07-08 17:06:24 | 岩国エッセイサロンより


2012年7月 6日 (金)

 岩国市  会 員   片山 清勝

錦帯橋そばの吉香公園に「美しき天然」の作曲者で岩国市出身、田中穂積の銅像がある。その前を通ると曲が流れ始める。
 年配の観光客の男性。右手で拍子を取り、リズムに合わせ体を左右にゆっくり振りながら聞いている。その姿は何かを回顧しているように見える。背後から連れ合いがその姿を撮っている。主人が何を思い出しているのかよく分かっている、そんな仕草を感じる。
 訪れた地で夫婦共有の思い出に出会えるとは素晴らしい。そんな目の前の温かな雰囲気に、穂積の海軍帽にひげの軍人顔が少しほほ笑んでいるように思えた。

(2012.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

ユースホステル存続を願う

2012-07-08 17:04:08 | 岩国エッセイサロンより
2012年7月 4日 (水)

  岩国市 会 員  樽本 久美

地元、岩国のユースホステル(YH)が閉館となった。広島市のYHも閉館に追いやられそう、という報道もあった。何とかならないものかと思っている。私はかれこれ30年、「青春18きっぷ」を使って旅し、YHを利用してきた。独身のころは年8回はYHに泊まっていた。

YHは、宿泊者のミーティングがあって、旅の情報を教えてもらえるし、友違もできる。泊まったYHで押してもらったスタンプも私の宝物だ。活動的な性格になれたのは、きっとYHのおかげだ。

山口県下関市や長崎市など印象に残るYHは数多いが、特に広島県府中市のYHでは、「母」と慕われる経営者から、明るさや、優しい言葉遣い、「相手のことを思って行動する」など多くのことを教えてもらった。いろんなYHの利用者減のニュースを聞き、私も久しぶりにぶらっと泊まりに行ってみようと思った。

(2012.07.04 朝日新聞「声」掲載)岩國エッセイサロンより転載