はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

投稿が健康の証に

2021-09-30 22:45:39 | はがき随筆
 エッセーを創作する同好会に出会って15年になる。65歳にしてはまったエッセー創作と投稿で、さまざまなことに関心が向き、気付けばメモや写真に残して題材にしている。
 入会して創作と新聞投稿を始めた。投稿は字数制限に苦労しながら、今も続けている。8年前には、掲載された100編をまとめて自費出版した。もうひと踏ん張りで300編になる。その時は2回目の自費出版をしたい。
 入会と同時期にブログを開設した。8年前からは1日も欠かしていない。1年ごとに印刷して自家製本にし保存している。今は15冊目の製本を準備している。
 投稿の何が面白いのかと友人たちに聞かれる。想い付いたことをどのように展開するか、かんがえることが好きだ。載るかどうかを持つのも楽しい。登校しないと分からないだろう。毎日書けることは健康のバロメーターと思っている。元気な限り、思いをつづって残したい。
 岩国市 片山清勝(80) 岩国エッセイサロンより

干支の壁飾り

2021-09-30 22:38:09 | はがき随筆
 お彼岸も終わり、前の神社の参道を走り回って遊ぶ子供の姿が絵のようです。秋が来たなあとしみじみ思います。その頃から私の年中行事の大事な仕事が始まります。もう10年ほど続いています。それは直径13㌢の丸い赤のちりめん布の台紙に綿を入れ、来年の干支をキリできめこんでいくのです。丸い壁飾りです。今年は寅を作りました。かわいい寅が出来ました。一つ一つにメッセージを送りました。行った先のお家の方をお守りしてネと言います。箱一杯になったら完了です。今年も出来た。感謝感謝です。これからも続くことを心から念じています。
 熊本県八代市 相場和子(94) 2021.9.30 毎日新聞鹿児島版掲載

小鳥

2021-09-30 22:31:24 | はがき随筆
 「ドサッ」という衝撃音が屋内まで聞こえました。玄関を開けると、小鳥が1羽身じろぎもせずにうずくまっています。どうやらガラス窓の存在に気づかなかったようです。頭部の毛はごっそりと抜け、ガラス窓に付着するほど。一瞬、手を伸べようと思いましたが……。やめました。
 「構わずにそっと見守りなさい」そんな声がしたからです。偉大なる自然に人間ごときが余計な手を出してはいけないと、少年の頃に教わったのです。小一時間してのぞいてみました。小鳥は自力で青空へと飛び立った後でした。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(72) 2021.9.29 毎日新聞鹿児島版掲載

母の出番

2021-09-30 22:12:41 | はがき随筆
 実家は母と、義姉のその息子2人の4人家族。義姉の入院で99歳の母が孤軍奮闘している。夕飯の支度に難儀している。ここ何十年も台所仕事は義姉に任せっきりだったので若者たちの食事作りは大変なのだろう。
 「今夜は何にしようかな」とよく言っている。時には出来合いを利用しているみたいだ。たまに私も差し入れをする。
 「昔取ったきねづかじゃが。張り合いがあっていいじゃろうが」とからかう。トンカツを作って持参したら「今夜はこれで決まり、揚げ物は好きだから」と喜んだ。「退院まであと1週間かな。また来てね。頼むよ」
 宮崎県延岡市 島田千恵子(78) 2021.9.26 毎日新聞鹿児島版掲載

免許証更新

2021-09-30 22:06:30 | はがき随筆
 免許証の写真写りを良くしようと、更新日当日は、スーツにネクタイ姿で運転免許センターに行った。しばらく皆さんと一緒に待たされたが、スーツを着ているのは私だけ、違和感があった。
 視力検査と写真撮影が済み、30分もすると新しい免許証が交付された。
 さて写真だが、「どなたですか」と聞きたくなるような老人に映っているではないか。いい年こいて、かっこよく写りたいなど、この魂胆が情けない。
 「徒然草」の吉田兼好さまから「見苦しき事」とお叱りを受けた気分だった。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021.9.27 毎日新聞鹿児島版掲載

街頭詐欺

2021-09-30 21:56:13 | はがき随筆
 昔は村で春に蓑笠市、歳末には年の市が開かれた。私はおもちゃのピストルが欲しくて市に行った。男が「坊や、どちらかが当たり」とくじを2枚出す。何回引いても全部はずれくじだった。後年、手品を習っていかさまの手法をつぶさに知った。文芸春秋のベストエッセイ集に載った武弘道さんの「大通り公園の詰将棋」は、若い頃、街頭賭博にだまされた体験記である。武さんは高校、大学の1年先輩。鹿児島市立病院長を務めた後、関東で活躍された。先輩との街頭詐欺の対談は、武さんが早く亡くなられて実現しなかった。
 鹿児島市 田中健一郎(83) 2021.9.26 毎日新聞鹿児島版掲載

音読の勧め

2021-09-30 21:49:27 | はがき随筆
 「音読の時間よ」と妻が新聞を広げた。音読の方がストレス解消になるからとのこと。
 「じゃ始めるか」と読者の投稿文から読む。佳境に差し掛かると、ぐっと胸が詰まった。「最後まで読んでよ」と妻にはやし立てられても声にならない。「もうだめだ」と諦めて中断。「感動してるの?」と茶々を入れるが、「ちょっと黙って」と涙をこらえた。
 うまいなあ、この文は。音読のいいところは、居ながらにして、書き手の心情がつかめること。妻の言う通り、黙読より音読の方が、よりストレス解消になるかもしれないなあ。参った。
 宮崎市 原田靖(81) 2021.6.25 毎日新聞鹿児島版掲載

谷内六郎

2021-09-30 21:39:54 | はがき随筆
 若い頃、昼休みに職場近くの書店でよく立ち読みしていた。そのなかに、童画風だが幻視の風景画とも言える谷内六郎の絵が表紙を飾る週刊誌があった。
 我が家には和紙5枚に書かれた谷内自筆の書がある。東京で編集社員をしていた義姉が、彼の原画を無くした。母親まで上京し謝罪したことへの、謝意の手紙文である。谷内が亡くなる2年前のこと。その肉筆が素晴らしかったので、義母は5枚を横に並べ額装にした。
 今年は谷内の生誕100年、没後40年。義姉が見失った絵は、今も見知らぬ街の空を漂っていそうな気がする。
 鹿児島市 高橋誠(70) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載

ポケットの中に

2021-09-30 21:32:23 | はがき随筆
 コロナ禍で出かけるといっても、病院と近所のスーパーくらい。気が晴れない日々の中、毎朝の新聞連載小説が楽しみだ。
 今は「無月の譜」。将棋の駒師だった、大叔父の遺作と思われる駒を追ってシンガポールへ。国境のジョホール海峡を渡り、隣国マレーシアへ。
 派手ではない、節度ある心地よい筆の運びにすっかりはまってしまった。一緒に異国を旅し、熱帯の風と人情を感じている。
 次の旅の行き先は決まった。夢はしばらくポケットの中に。時々触って確かめ、たまに取り出し、にんまりしよう。今日、さぼっていた散歩を再開した。
宮崎県日南市 矢野博子(71) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載 

「ことば」が好き

2021-09-30 21:09:03 | はがき随筆
 先に投稿したはがき随筆「91歳の大スター」を読んだ映画ファンの方からおはがきや電話をもらった。もうびっくり。お礼を伝えると「黒田さんの文章が好きだから」とのこと。私の中で色鮮やかな手毬が跳びはねた。お義理の挨拶だったらここまで心が弾むことはなかったろうに、何よりの褒めことばに大感激。新聞やテレビで好きなことばを見つけるとすばやくキャッチして引き出しにしまったておく。ことばとことばをつないで形の見えないものづくりの魅力にひかれ、自然流の綴り方教室の時間です。老体のほころびも忘れて。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載

オータニさん

2021-09-30 21:00:24 | はがき随筆
 「トョウヘイ」と叫ぶ声が居間のテレビから聞こえてくる。朝食の用意をしている手を止め、大リーグ中継の大谷翔平選手の姿に目を細める。
 ホームランの快進撃が続き、わくわくして、どんどん大きくなっていく彼に感動する。
 珍しくチャンネル争いがなく、夫婦の共通の関心事になった。「どんな嫁さんをもらうかな」と夫が言えば、「ハニートラップに引っ掛かりませんように」と心配して答える。
 放送が始まると「オータニさん」「ショウヘイ」とまねるのが癖になってしまった。唯一の願いはけがのないことだ。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(67) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載
 

残すものは

2021-09-30 20:52:32 | はがき随筆
 「今思えば」の多いこと。母にはもっと料理を習っていれば。父には庭づくりや畑のことをよく聞いておけばと後悔している。若い頃は土に触れず、庭木の剪定、草取り、まして畑などまったくやる気なし。そう、昔はそうだった。それが意外にも今では楽しく、見よう見まねで始めて、はまってしまう。家を守る(古い言葉だなぁ)というでもなく身に添ってきた。だが次の世代はどうだろう。継ぐ者もなく、木は伐り庭は潰すだろう。家屋はどうするだろうか。昔の人が愛おしんだことなど頓着せず、ただ重荷に感じるだけかもしれないな。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載

日本人と体操

2021-09-30 20:45:21 | はがき随筆
 30年以上も前、東京にいた頃、職場の仲間数人で仕事帰りに泳ぎに行った。東京体育館の屋内プールだったと思う。外国人も結構来ていた。30分ほどたつと全員プールから上がらされる。監視員たちが水中の安全確認をしている間、ラジオ体操の音楽がスピーカーから流れてきた。
 すると日本人は一斉に体操を始める。周りの外国人たちの戸惑ったような顔が印象的だった。私たちには自然な行動だったが、日本で育っていない人には異様な光景だったかもしれない。
 彼らの顔を思い出すと、ちょっと笑いたくなる。
 鹿児島市 種子田真理(69) 2021.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載

トム君

2021-09-30 20:34:59 | はがき随筆
 とっても立派な髭、端正な顔つき、見事な豹柄の猫がそっと近づいて来る。手招きし、ゆっくりしゃがんで待つ。逃げる気配はない。そっと小さな頭を撫でる。すべすべして気持ちがいい。トム君が体をすり寄せて来る。「かっこいいね。ありがとう」と声をかける。
 以前、向かいの家には猫と犬がいて、朝夕の散歩の時、一緒に仲良く歩いていた。きっと可愛がられたいたのだろう。その家には今も3匹の猫が飼われている。そのうちの1匹がトム君。今朝もわが家をのぞきに来るかなと玄関を開ける。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021.9.24 毎日新聞鹿児島版掲載

愛国行き

2021-09-23 20:54:39 | はがき随筆
 「♪幸福行きを二枚ください 今度の汽車で出発します」の歌に引かれ、幸福駅を訪れたのは学生時代。無人駅だった。愛国駅⏤⏤幸福駅の汽車に乗ろうと考えていたのだが、1日に何本しか走らないとのこと。あきらめる。売店で、愛国行き2枚と幸福行き8枚を買った。1枚110円なり。「愛の国から幸福へ」。切符を持っていると、何か良いことがありそうな気になる。愛国駅も幸福駅も昭和62(1987)年に廃止になった。幸福より愛の国を選んで残した切符は、今でも財布の中で息づいている。あせてなほ愛国行きの空澄めり。
鹿児島県霧島市 秋野三歩(65) 2021.9.23 毎日新聞鹿児島版掲載