はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

妻の意地

2017-11-29 05:35:16 | はがき随筆
 戦争を知らない私が聞いた話である。赤紙が届き、夫は幼い子2人と妻を残し出征した。昭和20年6月18日、沖縄で戦死した。届いた骨つぼには石ころが2個入ってた。戦友から夫の戦死の様子を聞いた。激しい米軍の攻撃のときも「俺には弾は当たらない」と防空壕から出て水くみに行った勇者だったという。妻の意地を貫こうと覚悟したときは28歳だった。手を合わせると遺影はやさしくほほ笑んだ。「恥ずかしながらただ今帰りました」と夫が帰って来る気がして待ち続けた。
気がついたら98歳になっていた。大先輩の偉業に私は目頭が熱くなった。
  出水市 古井きみえ  2017/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ある日

2017-11-29 05:14:16 | はがき随筆
 ボクは飼犬、名はコロです。秋田犬の血をもらっているといってひきとられたけど、多分雑種だろう。たくましくなるように、と庭半分の生活だ。
 夏の暑さには弱くて、ご主人は小屋を車庫の陰に移してくれた。
 そこで一匹のニャンコと知り合った。彼女はやさしい。時には鼻を突き合わせる。
 今日は大あくびをしていると目の前に彼女がいて、そのまま顔ごと口の中に入れてしまった。彼女は気にもせず、そのままコロンと横になった。ご主人はオヤオヤと眺めていた。世の中全てこともなし。
  出水市 松尾繁  2017/11/28  毎日新聞鹿児島版掲載

グラウンドゴルフ

2017-11-29 05:05:32 | はがき随筆
 先日、400人の大会で、所属する同好会の65歳の奥さま選手が快挙を成し遂げた。
 パー48をスコア23で断トツの優勝! ホールインワン4本、うちダイヤモンド賞(1ホール3本のイン)も獲得。後日、東京の協会本部より賞がおくられる。一打一打に一喜一憂。足腰の痛さや憂いを忘れ、和気あいあい。一瞬一瞬に生命が伸びる。老若男女ハンディなしの競技は高齢者にとって、特にかけがえのない終活となっている。
 ちなみに、同好会数、ダイヤモンド賞は全国一を誇る鹿児島県である。
 グラウンドゴルフ 万歳!
  姶良市 宇都晃一  2017/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

鹿児島での暮らし

2017-11-29 04:47:41 | はがき随筆
 日本に留学で来たとき、上海の空港で隣に座った日本人のおじいさんがわたしの忘れ物を届けてくれた。また、鹿児島に行く飛行機のなかで、隣の日本人のおばあさんが紙で折ったユリの花をくれた。鹿児島空港に着いたとき、大雨が降っていた。空気がじめじめだったけど、私の故郷・重慶の天気に似ているため、親しみをおぼえた。最初に来たとき、道に迷ったことがよくあった。商店街の案内係や通行人に聞いたら、地図に目印を付けてくれ、あるいは私の行く場所まで付き合ってくれた。みんながゆさしいということが一番印象に残っている。
  鹿児島市  胡蘭之  2017/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

親子リレー

2017-11-29 04:40:15 | はがき随筆
 運動会で思い出すのは、小学生の頃の親子リレーだ。
 スタートしたのは1年生の妹、白線でバトンを持つ3年の私。ところがカーブで転倒するアクシデント。
 早く早くと手長ザルのように手を伸ばして身を乗り出す。足を引きずり必死で走って来る妹のバトンをひったくるように握りしめ全力疾走する。
 バトンは母から父へ、突風のごとく走り抜けていくその速さ。息詰まる熱戦に妹は膝小僧の痛さも忘れて飛び跳ねている。黄色い声援は大空に吸い込まれ、ついに父は白いテープを切った。
  鹿児島市 竹之内美知子  2017/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

三つのふるさと

2017-11-29 04:33:41 | はがき随筆
 私には三つのふるさとがあります。一つ目は横須賀市。志願兵だった父の長男として海軍宿舎で誕生しました。二つ目は磐田市。幼稚園からお世話になりました。妻と出会い、長女の誕生、二つの事業経営も経験しました。
 そして三つ目が霧島市。52歳でリタイア後、「終の住み処」とすべく妻と2人でIターンしました。<ふるさとの天気予報を今朝も見る><二つ目のふるさとここに赤とんぼ>。入選した私の川柳と俳句です。ふるさとのみなさん、ありがとう。そして、三つのふるさとの一つ一つにありがとう。
  霧島市 久野茂樹  2011/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

直角と草

2017-11-29 04:26:17 | はがき随筆
 戦時中、空襲が激しくなると学校での一斉授業ができなく、各地域に分散しての授業だった。集会所や神社が教室で、弁当も持って行けなかったので午前授業だったろう。学年ごとに集められた。神社の拝殿の厚い板にじかに座り、前に小さな黒板があるだけだった。
 午後は神社の周りで遊んだり、防空壕に逃げ込んだりの生活だった。用語の「直角」と漢字の「草」を習ったことを覚えている。当時は勉強どころではなく、早く大きくなってお国のために働くことだった。いま神殿は改修されたが、入り口はなぜか鍵がかかり静かで寂しい。
  出水市 畠中大喜  2017/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載


たった一つ

2017-11-29 04:12:38 | はがき随筆
 


花から結実へとみつめたザクロが枝にない。朝あったのにない。
 庭の隅のプランターの除草を終えて部屋へあがり、椅子にかけたところへ娘より電話。話しながらいつものように見上げる枝に実がない。さっきから風がたち、木々は揺れていた。そのため熟して落果したの?
 拾いに行くとすぐ見つかった。両手に抱き、赤茶けた実をじっくり見るが、なり口は自然に熟し落ちた様子。でも、はじけていないはじめてのザクロ。たった一つ成熟した実。とにかくうれしく、ありがたい。計って供える160グラムに心湧く。
  鹿児島市  東郷久子  2017/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載


家庭菜園

2017-11-29 04:06:03 | はがき随筆
 家庭菜園は私に程よい運動になり、楽しんでいる。4月に植えたミニトマト、夏は真っ赤に熟れ、取れたてのおいしさを満喫した。そのトマトの脇芽を挿して植えた苗が、背丈ほどに伸び、花を付けたが実にならない。挿し芽では駄目かと思いながら花を眺めていた。9月中旬の頃、結実した。実は日ごとに膨らみ、4月植えより大粒もあり、色づいてきた。トマトは暑過ぎると結実しないと園芸雑誌で知った。試行錯誤、挿し芽による時期遅れの栽培は、梅雨期の長雨による病気を防ぐ効果もあった。まもなく熟れる。さて味の方は楽しみである。
  出水市  年神貞子  2017/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

一人前

2017-11-29 03:47:36 | はがき随筆
 ある人が言っていた。人の人生には一人前と呼ばれることが何度かあると。そして本当の一人前になるということは? と。
 まず乳離れして自分で食べられるようになると一人前になったと言われ、選挙権を得、成人式を迎えると一人前、就職して自ら生計をたてられると一人前、結婚して一人前、親になって一人前、昔の女性の場合、姑が他界して一家の実験を握ったとき一人前。
 そしていよいよ天命を全うしたとき、生物としてまた人間として初めて完全な一人前になったと言えるといっていた。
 小生半人前で結構である。
 鹿児島市  野崎正昭 2017/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載


生き方を探索

2017-11-29 03:39:16 | はがき随筆
 昭和21年、小学入学前の私と弟2人でいろりを囲んでいたら、登校中のT君が無言で部屋に上がり、いろりの灰をかぶせ消火を始めた。何事かと一瞬の出来事に呆然とする。「よし」と言ってT君は急ぎ学校の方へ。教職の父が早く家を出て、母外出で心配してT君に依頼したのかも。その後母はすぐ帰宅した。責任感の強いT君と、育てた両親の遠い昔が鮮明によみがえる。幾歳月が無事に流れ高齢者となった現在。感謝の念がみなぎる日々。孝行不足を反省するが声も届かぬ天国の彼方。せめて他の方の随筆掲載文を勉強し、生き方を探索したい。
  肝付町 鳥取部京子  2017/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

アルバム帳

2017-11-29 03:30:51 | はがき随筆
 ポケットカメラ、一眼レフ、デジカメとカメラも変遷してきた。自分の幼い頃のアルバム帳はなく、茶褐色に染まった写真が3枚あるだけだ。それが初めての子供の娘では約15冊、次の息子は10冊ほど本棚にある。
 あるとき妻がテレビで、あるお母さんが子供たちの写真をランダムに張った板面があるのを見て、さっそくボードを買ってきた。アルバム帳から厳選した23枚を貼って居間に飾った。それからは幼かった子供の笑顔やポーズ姿をボードで確認する日々になった。本棚のアルバム帳は、閉じられた扉から輝く思い出を照らすあかりになった。
  鹿児島市 下内幸一  2017/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

SKD48

2017-11-29 03:21:05 | はがき随筆
 マンションなどの1階あたりの標準的な階段は15段らしい。
 荷物のある夕方はエレベータを使うが、朝の出勤や買い物に出るときは外階段を利用する。我が家は4階にあるので45段と、地面との調整分3段を加えて48段となる。私はこれをSKD48と呼んでいる。S(そと)K(かい)D(だん)という訳である。
 下りは8.7.8と踊り場ごとに区切って数えるのに、登りは1から48まで通して数えるのは「何でだろ~」。朝、車に乗ってから忘れ物に気づいたときの落胆といったら……。膝にこたえる65歳だもの。
  鹿児島市 本山るみ子  2017/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

房総の山寺

2017-11-29 03:12:08 | はがき随筆
 久しぶりに千葉の息子宅を訪ねたら、房総半島の山奥の寺に連れて行ってくれた。秋も深まりつつある、静かな参道にひっそりとたたずむ杉の大木と寺に延びる石段を登り着く。岩に巌を重ねた水墨画に出てきそうな山寺にびっくり! 急な木造階段を上り岩に上に建つ寺の回廊から見下ろす景色に、福岡に旅立つ日の母の言葉がふっと浮かんできた。「ヒオコシの穴から見るような人にはなるな」と。あれから52年近い歳月が流れ第二の人生を歩いているが、あの日を振り返る機会を与えてくれた息子に感謝しながら由緒ある山寺を後にした。
  さつま町 小向井一成  2017/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

ロザリオ館にて

2017-11-29 03:01:56 | はがき随筆
 先日仲間たちと熊本城や水前寺公園を見学して、天草に一泊した。天草の「ロザリオ館」を訪ねたのは初めてだった。
 薩摩の仏教禁制に関心を持っていたが、ロザリオ館の資料や説明を聞いて、その弾圧の厳しさに驚愕した。1587年にキリシタン禁教令が発布されて以来、明治に禁制が解かれるまで厳しい弾圧に耐えながらも、およそ300年間、この地の信者たちは人知れず信仰の灯を守り続けた。その現状を学んだ。しかも、天草の乱で全滅したと思われていたキリシタン信仰の遺品が多く展示されていた。聞いて権力者の蛮行に憤った。
  志布志市 一木法明  2017/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載