はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

医師との疎通

2017-09-29 16:11:14 | はがき随筆
 「この年になると同窓会の度に訃音を聞くね」「離れているので、時間がたってから偶然知ることが多いです」「生れは何処」「東京です。育ったのは武蔵野。先生はずっと鹿児島ですか」「小学校からだから同窓会も多い」「旧交を温める機会が多くていいですね」「もうすぐ誕生日だね」
 カルテの生年月日を見て言う。定期的に通院する医師との会話である。同じ年で、異常がなければ四方山話に終始し、聴診器を当てて終了。なんでも言えるし聞いてくれる。安心できるし元気になる。どっちが長生きするか楽しみなのである。
  志布志市 若宮庸成  2017/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載

目高

2017-09-28 12:20:45 | はがき随筆


 春先に川で見つけたメダカは、糸に目が付いただけの小さな魚だった。すいと進んでは止まり、角度を変えてはまた、つつと泳ぐ。不思議な動きはメダカそのものだった。初めは水替えの時にメダカを流してしまいそうで怖かったが、成長してくると思わぬ動きに肝が冷える。水流をつくると走性を示し、メダカの学校そのものになる。「誰が生徒か先生か」わからない状態だが、あえて言うなら「流れが先生」なのだろう。基本は自由だが、時流には乗る。世渡りの極意をメダカは知っているのだろうか。だから「お目が高い」のかもしれない。
  鹿児島市 堀之内泉 2017/9/28 毎日新聞鹿児島版掲載

町に行く― その2

2017-09-28 12:14:49 | はがき随筆
 「リキちゃん」。町への行き帰りに声をかける。彼はさびしがり屋の老犬である。生垣の外でお勤めに出たご主人を恋しがり長なきをしていた。慰めても以前は無視され続けた。
 そのうち、こちらを見てくれるようになった。おなじみさんになって久しい。
 真夏になり姿を癖ない。ご主人いわく「土を掘りもぐってます」。なるほど。わかるわかる。昨日、生垣の内側に足が見えた。声をかけながらのぞくと「だあれ」と言いたげにこちらを見ているリキちゃんと目が合った。「リキちゃん、猛暑お見舞い申し上げます」
  鹿屋市 伊地知咲子 2017/9/27  毎日新聞鹿児島版掲載

ウインク

2017-09-28 12:06:45 | はがき随筆
 プレハブの選挙事務所。初めて会ったとき、彼女はトイレ掃除をしていた。駐車場でオーライを繰り返していると、さっとお茶の準備をするのが彼女だった。立候補者が車から降り、椅子にぐったり倒れ込む。私がうちわであおぎつつ次の遊説地を指し示す。細い指が冷水のコップを手渡していた。応援に駆けつける人々。大皿には真っ白いおむすびが並ぶ。壁いっぱいに貼られた必勝の墨書。ベニヤ板の床は雑踏でたわんでいた。投票日の夜、静かに去りゆく人々を見送る彼女の潤んだ瞳。それはウインクしたままのダルマの色と同じであった。
  出水市 山下秀雄 2017/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

脱皮?

2017-09-27 19:23:24 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月26日 (火)
  
 岩国市  会 員   山本 一

 朝食の時の会話。「この食パンが一番うまいね」「そう」。妻は手作りパンを褒められてルンルン。
 在職中は「良いことも悪いことも正直に言う」「ウソは言わない、おべっかは使わない」ことに徹した。率直さは相手を傷つけるもろ刃の剣。当然、一部の上司とは摩擦が起きた。傷つく部下もいたであろう。相手の気持ちが分かり私自身もつらかった。
 退職後、気を張って人に対することはやめた。相手の良いところを積極的に褒めることにした。自分も、なんと気楽で気持ちが良いことか。少し後ろめたい気もしないではないが。
  (2017.09.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

パパになる時

2017-09-27 19:22:19 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月25日 (月)
     岩国市  会 員   貝 良枝

 「僕のパパは、いつパパになったの?」。園児の突然の質問に驚かされる。気の利いた答えはないものか。私の脳はフル回転で言葉を探す。
 「それはね、○○ちゃんが生まれた時、小さくてピィピィ泣いていたから守ってやらなきゃと思ったの。その時、パパになったのよ」
 「ふ~ん」
 保育園では、ここで話が終わらない。「僕のパパは?」「私のは?」と続く。○○に子どもの名前やその兄弟の名前を入れて答えるとキャッキャッと喜ぶ。「じゃあ、パパになる前は何だったん?」「えっ?」
   (2017.09.25 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

さるすべり

2017-09-25 21:16:25 | はがき随筆


 庭に桃色のさるすべりの花が、きれいに咲いている。さるすべりの木の幹は、さわってみると、ろうをぬったようにつるつるしている。
 「さるがのぼろうとするのだけれど、つるっつるっとすべって、なかなかのぼれなかったそうな。それで、さるすべりという名前がついたそうな」
 と、優しかった祖母が、よく語ってくれた。子ざるたちがさるすべりの木の下で、キャッキャッと言いながら、のぼりっこをしている姿を思い描きながら聞いていた。さまざまな思い出をのせて、今年もさるすべりの花がきれいに咲いた。
  出水市 山岡淳子 2017/9/25 毎日新聞鹿児島版掲載

書生の間

2017-09-24 20:44:13 | はがき随筆


 あの猛暑もやや和らぎ、朝夕のプランターへの水やりが楽になった。葉鶏頭や花オクラ、クレオメ等の根元に生えた草を抜くのも心地よい。好天が続いたある日、突として雷雨に見舞われ休息を決意した。
 孫たちが帰省の折に好んで使っている玄関脇の六帖間を書生の間と長年呼んでいる。こんなとき、そこに籠り好きに過ごす。なかなかやまない午後の雨。「菜根譚」など再読していると雷鳴など気にならない。むしろ独り居を楽しんでいる自分に気づいたりして、ポジティブな思考が健在だったことがうれしかった。
  鹿屋市  門倉キヨ子 2017/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

身も心も別世界

2017-09-23 22:41:19 | はがき随筆
 標高が上がるにつれて暑さが薄れることを視覚でも感じながら、みやまコンセールへ霧島音楽祭のコンサートに出かけた。大学の管弦楽団に所属している長男の提案である。
 コントラバス以外はチェロのみ40台のオーケストラだ。11歳の受講生から75歳の日本を代表するチェリストが3曲を演奏した。チェロ単一でこれほど奥行きのある演奏が聴けるとは。なじみの「ウィリアム・テル」序曲では足でリズムを取る。
 更にはロビーコンサートで新進音楽家のバイオリンやピアノ演奏も楽しみ、日常からパラダイスへとタイムスリップ。
  垂水市 川畑千歳 2017/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載

夏休みは終わった

2017-09-22 19:36:24 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月15日 (金)
   岩国市   会 員   吉岡賢一

 父親の手ほどきで、孫は幼い頃からスキーを始めた。成長するとともにいっそうスキーの腕を磨きたくなって、スキー部のある高校を自ら選んで進学した。
 その高校は、親元から遠く離れた山間にある。最も近いコンビニへ行くのでさえ、自転車で片道30分はかかる不便な所だ。しかも「完全寮生活をしなくてはならない」と言う。
 生まれ育った街中とは異なる環境に、最初は多くの面で戸惑い、ホームシックにもなったらしい。
 高校2年になった今から思えば、逃げ帰るほどの不便さやストレスまでには至らなかったということだろう。環境になじむ努力をしたのだ。いつしか読書習慣も身に付け、いろんなジャンルの本をめくっているという。メールのやりとりもしやべり方も、間違いなく成長の跡がうかがえる。私も胸をなで下ろしている。
 そんな孫が夏休み、帰省した。荷物から自分の手で裾上げしたとみられる学生ズボンが出てきた。ミシンをかけたような丁寧な針の運びだった。慣れぬ手つきでしっかり縫い上げたのだろう。ところが、縫い目が表に出ていて、とても人前ではける代物ではない。
 初挑戦の針仕事「ズボンの裾上げ」の成果は見られなかったが、あのやんちゃ坊主が、寮生活を通して身に付けた「自分のことは自分でやる」という気持ちは大いに評価してやりたい。 裾上げは、妻がうれしそうに笑いながら、ちゃんと直した。
 孫の夏休みは終わった。

     (2017.09.15 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

そうめん

2017-09-22 19:34:23 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月10日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝

 夏の盛りには清涼感のあるさっぱりした食べ物が口に合った。私の好きなそんな一つにそうめんがある。ゆでて冷やし、わさびを利かせ、薬味を加えただしに絡ませるだけのシンプルな食べ方をしている。
 そうめんには、小学校低学年の頃のある夏の思い出がある。
 そろそろ昼食という時間に突然、複数の来客があった。わが家の昼食はいつも前夜の余り物である。母はどうするのだろうと、子ども心に心配した。母は台所に立った。
 そうめんを鍋でゆでる。その後、鍋ごと家の裏を流れる小川の冷たい水に浸して、しばらくそのままにする。冷めたころ、それを器に移し、来客用の昼食とした。即席の昼食を客と祖父母はにぎやかに話しながら食べた。
 しかし、そこに今もまぶたに残る光景がある。そうめんの入った器に南天の葉が数枚浮いている。葉の濃い緑とそうめんの白さという単純な対比だが、子どもの目にはそれまで見たことのないごちそうに映った。
 あの日の緑と白の絡みが私をそうめん好きにしたのかと思わないでもない。
 冷蔵庫などない昔、母がそうめんと即決したのは、3世代という大家族を賄う経験からきたのだろう。
 そうめんの元祖は奈艮時代にさかのぼるという。食べ方は変化したろう。最近は野菜などを盛り合わせた豪華な一品もあるらしい。私のは古い食べ方だ。が、麺の味はシンプルが最高に違いない。

    (2017.09.10 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

「生かされる命」

2017-09-22 19:31:48 | 岩国エッセイサロンより
2017年9月21日 (木)
  岩国市  会 員     吉岡賢一

「慢性副鼻腔炎」と診断されて全身麻酔による手術が必要となり、約30年ぶりに入院することになった。差し迫った命の危険を感じることもなく割と気軽に、7泊8日の予定表を示され入院患者となった。
 入院から手術までの1日半は、体調管理の数々の検査に加え、麻酔科の説明や抗体検査、看護計画書など多くの同意書に署名する時間となった。これほど多くの人々が、私一人の手術のために関わっていただけることにまずは大きな感謝を覚えた。無事手術を終えてからも、担当医や看護師さんはじめ多くの病院職員に手厚く見守られていることを実感した。
 術後の痛さも少し和らいできたころ、高台にある医療センター9階の自室から周囲に目をやると、数本の煙突から力強く煙を噴き上げる工場が見える。私の人生そのものとも言える40年近く働いたかつての職場である。
 懐かしさや感謝などいろいろな思いが交錯する特別な景色である。数えきれない多くの人との出会いに支えられ、会社と言う組織に守られて今日があることを思わずにはいられない。
 病室では完璧なまでに多くの人に見守られ、退院して間もなく「医療センター9階東病棟スタッフ一同」から届いた、退院後の病状を気遣う心優しい1枚のはがきに改めて感謝し、健康の有り難さを噛みしめている。まさしく人々の手によって生かされている命であることに改めて思いをはせ、与えられた命を全うしたいと思っている。

     2017.9.21 毎日新聞「男の気持ち」掲載

はがき随筆8月度

2017-09-22 19:26:29 | はがき随筆
 はがき随筆の8月度月間賞は次の皆さんでした。
 【優秀作】29日「薄翔天牛」堀之内泉=鹿児島市大竜町
 【佳作】2日「海外旅行」高橋誠=鹿児島市魚見町
  ▽18日「干しブドウ」畠中大喜=出水市高尾野町

 「薄翔天牛」は、夜間昆虫採集で採ったウスバカミキリなどの昆虫が、多くの白い卵をうみつけて翌朝には死んでいた。子供さんはその産卵に驚いたが、自分は、人間の育児と違う昆虫の成長過程を考えさせられたという内容です。確かにちょっとしたことから、生命現象の不思議については考えさせられます。天牛をカミキリと読むのも不思議です。
 「海外旅行」は、昭和30年ごろでしょうか、テレビを見ながら海外旅行の話を一家でしていると、いきなり祖父がソ連に行ったことがあると言いだし、家族を驚かせた。でもそれは、シベリア出兵のことだと、祖母が種明しをしてくれたという内容です。海外派兵を官費旅行だとシャレて
言いましたが、家族で戦争の歴史を話合うことも少なくなりました。
 「干しブドウ」は、戦時中徴用工の父親が、職場でもらってきた干しブドウの味が忘れられず、今でも店先の干しブドウを見かけると立ち止まるという内容です。この干しブドウの味には、戦争、窮乏生活という時代の影が染みついているから、ひとしおでしょう。
 中島征士さんの「古釘と少年」は、子供の頃は古釘も大事にして、集めておいて何度も使った。妻が、畑で五寸釘を見つけてくれたのを見ていると、少年の日がセピア色に思い出されるという内容です。過去を呼び起こすきっかけには興味深いものがあります。
 一木法明さんの「玉音放送」、昭和20年8月15日の終戦の日、ラジオから流れる玉音放送の記憶です。多くの戦死者も空襲も敗戦も今では忘れ去られようとしていますので、このような記憶は語り続けるべきだと考えます。
 秋峯いくよさんの「出会い」は、羽田空港までのモノレールで感じのいい若者たちと乗り合わせたという内容です。自分はフィリビン慰霊の旅のことを、青年の一人は知覧の記念館の特攻隊員のことを話し、話題は暗かったが、これからを背負う好ましい青年たちに出会えた快い旅でした。
  鹿児島大学名誉教授  石田忠彦

物音

2017-09-22 19:04:19 | はがき随筆
 早暁の居間。届いたばかりの新聞を読み始めると、どこかであやしげな物音が……。「ガリガリ、ガサゴソ」。また例のイノシシがごみ箱をあるる音か? いや戸外ではない。息を潜めて音の出どころを探る。
 なんと用済みのトレーの中から一匹のコオロギが顔を出した。「おいオマエ、どこから入った?」。優しく話しかけながら庭へと放す。「カマキリやムカデは即息の根を止めるのに、バッタやコオロギにはその態度かよ」。そんな声が聞こえる。<蟻踏んで天国逝きをあきらめる>脳トレ川柳の私の優しい入選句を思い出していた。
  霧島市 久野茂樹 2017/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載

かぼちゃの栽培

2017-09-22 18:36:58 | はがき随筆


 かぼちゃがゴロゴロ実った。今は大抵冬から栽培しているが、温度調整が毎日大変だ。
 母が昔、かぼちゃは春の彼岸にまくと言っていたので彼岸にまいた。有機肥料をびっくりするほど施し、敷わら、除草、芽かき、つるの誘導、受粉などした。梅雨期はうどん粉病が発生したが、その後は病気はなくゴロゴロなり、花も次々咲き、葉も大きく輝いていた。戦時中腹を満たしてくれたかぼちゃ。適時期を守るとうれしかったのだろう。しっかりおいしいかぼちゃになった。ありがとう。
  出水市 畠中大喜 2017/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載