はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

三文の得

2015-10-30 21:11:36 | はがき随筆
2015年10月30日 (金)

岩国市  会 員   森重 和枝

リビングに入ると、黄色の四つの実をつけたフォックスフェイスが目にとまる。朝市でみつけ、買ってみた。出荷した人が「水を入れると実が腐るからね」と親切に教えてくれる。庭の花も少ない時だし、水替え不要なら、なお結構だ。 
 マジックで目と口を書いてみたら、かわいい狐の顔になる。フォックスフェイスは和製英語らしいが、納得できた。
 ふと、顔をあげると小さい目と合う。丸いのや長い顔、青白い小さな顔がみつめている。  

黄色は幸福な気持ちにさせてくれる。早起きして、朝市へ行って随分得した気分になれた。    

   (2015.10.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

小さな庭

2015-10-30 20:59:52 | はがき随筆


 真夏のあの猛暑がうそのような朝夕のしのぎやすさに、四季のありがたさを感じている。
 築山に2.3前にサンショウととマンリョウが生えてきたのだ。鳥のプレゼントなのか、この偶然を喜び、定着間違いなしの成長ぶりである。
 季節毎の花たちに癒される時間を持てる今がしあわせと思うこのごろ、毎日が休日の私にとって狭いながらも庭のあるありがたさを痛感している。1日に何度となく眺める庭の移ろい、この平穏な日々に感謝しながら、草取りの愚痴も聞いてくれる小さな庭。この庭に愛着を感じる。
  霧島市 口町円子 2015/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載

胸のランプが

2015-10-29 10:01:00 | はがき随筆
 検査結果を改めて突きつけられると、ちょっと気持ちが暗くなる。見て見ぬふりをし、いいかげんな生活を送ってきたツケだ。こどもたちが独り立ちするまでは元気でいたいと願ってきた。神さまはちゃんと願いを聞き届けてくださった。
 思い残すことはない、とは言っても地球はまだ私を必要としているかも。楽しいこともまだまだいっぱいありそうだ。この地球でエネルギーのチャージができればいいのだけれど。胸のランプが点滅を始めたウルトラの母は、生活の改善に取り組みだした。
 頑張れ、私の腎臓!
  出水市 清水昌子 2015/10/29 毎日新聞鹿児島版掲載

今ごろ

2015-10-28 07:18:44 | はがき随筆
 「昼食に行くけどどうする。行くなら11時40分に駐車場へおりておいで」と娘から電話が来た。このところ、いっときでもこの家族と一緒にいたいと思うので応じる。
 減塩・低カロリーの店へ行った。腹八分量だろう、まだ胃に余裕を感じる。昼食後、携帯電話店へ行くと言い出した。皆持ってるのに何故とついていくと、私のものを買ってやるという。近々検査入院を言いわたされた私のためという。ずっと拒んできたが、必要の機を得てついに私も文明人の一人になる。懸命にレンシュウ。でも、なんのことなく使えるようになった。
  鹿児島市 東郷久子 2015/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

花の名で脳トレ

2015-10-27 16:41:38 | はがき随筆
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 ピンクと黄色の花が隣り合わせで咲いている。昨年カミさんに教わって覚えた花の名前が出て来ない。「あのピンクと黄色の花は何ていう名前だっけ」と聞いて見た。「あれはね、ピンクの方が……ええと、ちょっと待って、あれ、出てこない」
花のことはなんでも聞いてと豪語するカミさんが空を見上げた。「じゃあ黄色の方は?」「あーあ、黄色も忘れたみたい」。直ちにパソコンで調べた。ピンクが「ベラドンナリリー」、黄色が「パキスタス・ルテア」と分かった。ところが1時間たったら忘れていた。花の名で脳トレ本格化の老夫婦でした。
 西之表市 武田静瞭 2015/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は武田さんのブログより

しぶとく生きる

2015-10-27 16:41:15 | はがき随筆
 芸能界のみならず、身近なところでも訃報が相次いだ。
 年頭、近しい友人のご主人が亡くなった。持病はあったものの、突然のことだったらしい。
 3月に人間ドックを受けた私は、初めて肺に影があるので要請密と言われた。3度も4度も検査を受け、やっと経過観察となった。父の家系にがんが多いので「いずれは私も」と思っていたが、いざとなると弱気になる自分がいた。
 更に、9月に2人の悲報に接し、たまらなく落ち込んだ。
 健診だけは毎年受け、とりあえず(でよいから)元気で生きていこうと思ったのである。
  鹿児島市 本山るみ子 2015/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載


蝸牛

2015-10-27 16:40:26 | はがき随筆
 華奢な見かけの割に蝸牛は強い。鋭い歯は、根葉どころか、コンクリートまでかみ砕く。長い触覚を左右に振りながら前進する姿は大名行列の露払いのようだ。
 乾燥した日が続くと、殻口に障子紙のような膜を下ろして雨を待つ。晴読雨耕が身上だ。
 紫陽花の季節限定のイメージがあるが、意外なほど寿命も長い。我が家の蝸牛は同時期に飼い始めた青虫よりもカブトムシよりも長生きしている。
 それでもカルシウム製の殻はもろく、道ばたで踏みつぶされているのを見かける。蝸牛の天敵は人間なのかもしれない。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/10/25

さようなら母校

2015-10-27 16:39:52 | はがき随筆
 鰯雲の浮かぶ秋の日。母校泊野小の閉校運動会に、卒業後56年ぶりに恩師と教え子が集まった。運動会が懐かしく「サシカブイ ジャッタナー」とわんぱく坊主とおてんば少女の封印されていたものがどんどん開封された。師を囲んでの昼食では、先生が、「私の力不足で何も教えることはできなかったが、皆さんがこうして仲良き事は教師として幸せいっぱい」とご高齢の目に涙がにじんでいた。すると誰ともなく「♪兎追いしかの山~」の大合唱。
 母校は137年の歴史に幕を下ろすが「ふるさと」への郷愁を改めて強く感じた。
  さつま町 小向井一成 2015/10/24 毎日新聞

はがき随筆9月度

2015-10-27 16:34:41 | 受賞作品
 はがき随筆の9月度月間賞は次の皆さんです。

 【優秀賞】4日「風雪」伊尻清子=出水市武本
 【佳作】17日「象形文字」堀之内泉=鹿児島市大竜町
 ▽23日「彼岸花」古井みきえ=札幌市東区


 「風雪」は、義父が植えた榊の木を見ながら、30歳で硫黄島で戦死した義父や、その後の家族の苦節の70年を思いやった文章です。昨今まるではやり言葉のように戦後70年といいますが、その中にはいろいろの悲しみが多く籠もっていることを考えさせられます。
 「象形文字」は、息子の書いた「見」の字が昆虫みたいに見えるという、面白い発見です。成長して、まともな(?)字を書くようになるだろうが、象形文字さながらの字を書く感性は持ち続けていてほしいという、親心あふれる文章です。
 「彼岸花」は、子どもの頃は、矢筈岳から不知火海へ流れる米ノ津川の近くで育った。とくに彼岸花には思い出がある。死者は還って来ないという親鸞上人の教えもあるが、彼岸花にはなぜか両親の笑顔が見えるという内容です。彼岸花は何かを感じさせる不思議な花ですね。
 この他に3編を紹介します。
 的場豊子さんの「えべっさあ」は、いつも笑顔で怒った顔を見たことがない恵比寿さまのような方が、94歳で亡くなられた。最期は周囲の人に感謝の言葉を残されたと聞く。このような最期に憧れる一方、別の最期を望んだり、迷いの多い人生ではあるという内容です。
 竹之内美知子さんの「雲」は、秋空を見上げていると、浮かんだ雲が北海道の島々の形に見えた。と、見ているうちに形が変わっていき、サクランボがのった氷菓子に見えた雲で、冷蔵庫の白熊を思い出したという楽しい文章です。
 小向井一成さんの「ウカゼと停電」は、久しぶりの台風襲来で、停電程度で右往左往している。今は便利な生活に慣れきっているが、かつての台風には緊迫感があった。こういう機会に、便利になって失ったものと得たものとを、本格的に考え直してみたいという文章です。確かに、テレビで洗濯物の干し方まで教える喜劇的な状況は、改めてもう一度考え直してみる必要がありそうです。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)2015/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載

国民文化祭

2015-10-26 22:14:11 | はがき随筆
 今年は鹿児島県が国民文化祭の会場。里の出水市では俳句、日本舞踊、太鼓の会場市となり、関係者は準備に大わらわのようである。
 霧島市では、みやまコンセールを主会場として、音楽が催される。ところが、思いもかけないことに、5月ごろ霧島市を中心とした混声合唱団グリーンエコーの団長I氏から「あなたの作詩曲の『川内川』を国民文化祭会場で演奏していいですか」と電話をもらった。うれしかった私は「光栄です」と答えた。
 作曲者のN・R氏のお陰だ。宝くじに当たったような幸運。11月14日が楽しみだ。
  出水市 小村忍 2015/10/23毎日新聞鹿児島版掲載

管理されてます

2015-10-26 22:13:09 | はがき随筆
  一人だと、アッタモンですますテゲテゲな私と、少しずつ多くの種類のおかずを食べたい主人との組み合わせ。作らされ、食べさせられて、私まで健康でいられるわけ。先日、主人が健康診断で基本的な検査を受けた。
 先生は、賢い奥さんでいろんな面で気遣っていると思われたらしく「よく管理されてますね」と言われたとか。おもわず笑ってしまった。「先生、管理されているのは、私なのです。毎日作らされ、食べさせられているのですから」と言いたい。外面のいいわたしですから、チョットいい気分になりました。
  阿久根市 的場豊子 2015/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載


何歳に見えるの

2015-10-25 18:41:31 | はがき随筆
 先日、近くのスーパーで、2㍑のお茶3本とミルクなどを買った。レジの方に「大丈夫ですか。ゴロゴロは持ってきてないんですか?」と聞かれた。「えっ! ゴロゴロって……」。店員さん、ニッコリ。「はい、あのゴロゴロです」と、引く格好。
 私はショックで荷物が持てなくなりそうだった。買い物した物などを入れて引いて歩く車は、失礼ながら私の頭では70代以上の方のものだった。
 帰ってから、じーっと鏡を見て考えた。「母ちゃんは何歳くらいに見えるの?」。18歳の娘に聞いたが「グフフ」と笑われた。
  鹿児島市 萩原裕子 2015/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな生命

2015-10-25 18:39:39 | はがき随筆
 がん健診に行った。椅子に順々に座って待っていた。
 ふと足元を見ると、小さな黒い糸トンボが疲れたように床に横たわっていた。指で羽をそっとつまむと、かすかに足を動かした。
 「生きている」
 となりの人も
 「本当、生きていますね」
 そのまま外に出て、そっと離すと、トンボは羽をばたつかせて、静かに飛んでいった。
 小さな生命が救われた。がん健診も命を救う営みだ。よかった。よかった。
  出水市 畠中大喜 2015/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会

2015-10-25 18:37:59 | はがき随筆
 秋、運動会のシーズンです。心ワクワクする人が大部分じゃなかったでしょうか? しかし私は徒競走が大の苦手、いつもビリでした。親もそれを見るのが心苦しいみたいで、昼前に弁当を持ってきて、食べ終わったら、こっそりと帰りました。高学年になって、ビリがいるからトップがいると開き直り、気にならなくなりました。
 もう一つ嫌だったのは、戦後、十七里遠行の復活。貧乏でそれどころでない私は、サボりの言い訳に苦労しました。
 それが今では、スポーツ大好き人間になっています。不思議です。
  鹿児島市 津田康子 2015/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

取り越し苦労

2015-10-25 18:37:25 | はがき随筆
 旅行にでも行きたいと思う秋日和。これも平和に暮らしているからだと思う。だが、なぜか取り越し苦労が先に立つ。
 飛行機にはトラウマがあり、不安な気持ちや心細さを味わった私は飛行機での旅行を逡巡している。そんなとき娘に「何を迷っているの。考え過ぎじゃない。行くなら今でしょう」とシャレで背中を押され、気持ちは段々と変わっていった。
 〝歳月人を待たず〟。今だからこそできる楽しみに出てみようと意を決したのです。何事もその気になれば決断できるものだと、余力を振り絞り航空券の購入に出掛けた。
 鹿児島市 竹之内美知子 2015/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載