はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

わかるかな

2014-05-30 18:40:23 | はがき随筆
 地元に住む知人がメモ紙を届けに来た。「中学校の同窓会が連休にあって、あなたに会いたい人がいたよ」と。読むと、小学校時代の同級生の名前と連絡先が記されているではないか。
 父の転勤で私は日置市の山あいの学校に変わり、4年に進級したばかりだった。昼休みに、1人ぼっちで校庭の鉄棒に寄りかかっていたら「遊びましょう」と、女の子4人が手をつなぎ誘いに来た。うれしかった。
 まさしくその内の2人と会える。連絡を取り合い、彼女らが住む日置市のスーパーで落ち合うこととなった。半世紀以上の再会に胸躍る思いが続く。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2014/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

突然変異

2014-05-29 20:34:51 | はがき随筆
 深紅のミニシクラメンを3年前いただいた。シクラメンの種が見たくて、1本だけ花殻を摘まずにいたら採種できた。次に種をまいたら発芽し、翌年の6月に葉の中から花茎を見た時、こんなに早く咲くとは驚きだった。花はかれんに咲いた。9月、葉は生気を失ったが11月には鉢が隠れるほど葉が茂った。今年1月、葉の間から花茎を伸ばし、芳香を放ちながら花は咲いた。次々に咲く深紅の花に混じって5月上旬、1本の白い花が咲いた。「突然変異」というのだろうか、その不思議さ。この花の採種ができたら種をまいてみよう。
  出水市 年神貞子 2014/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆とは

2014-05-29 20:28:47 | はがき随筆
 初投稿から10年余り、掲載された拙文も100編を超えた。その時々の心の動き、出来事、思い出などスナップ写真を撮る感覚で書いたつもりである。自分で書いたものが掲載され活字になって残る。しかも不特定多数の目に触れる。当初は半信半疑の自己満足であったが、月間賞で自分の名前が記事になった時の感動は、忘れられない思い出として今も残る。
 今では日常の一部としてはがき随筆に目を配り、拙文をひねり出すのは楽しみとなり、人生これからだと思っているぼくには、はがき随筆とは自分を撮り続けることなのだろう。
  志布志市 若宮庸成 2014/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ASKAあなたもか

2014-05-27 17:01:16 | ペン&ぺん

 覚せい剤取締法違反(所持)容疑で、男性デュオ「CHAG and ASKA」のASKA(本名・宮崎重明)容疑者(56)が逮捕された。昨年、週刊誌で薬物疑惑が報じられたが、名誉毀損で訴えることもなく、反論もなかったので、誰もが「もしや」と思っていた。当初、容疑を否認していたが「覚醒剤を使ったことがある」などと使用を認める供述を始めているという。「ひとり咲き」(1979年)、「万里の河」(80年)から知っていたので、事件が事実なら残念だ。心に残る歌詞で数々のヒット曲を生んだのに、あの警視庁組織犯罪対策5課に逮捕されるとは……。なぜ、覚醒剤に手を出したのだろうか。全てを明らかにしてほしい。
 県警がホームページで県内の薬物事犯(覚醒剤、大麻、麻薬)の検挙状況を公表している。覚醒剤をみると、2011年は51人、押収量66.189㌘▽12年の特徴的傾向について①検挙者の年代別は30.40代が約6割②覚醒剤事犯再犯者の検挙が約8割③覚醒剤事犯では暴力団関係者の検挙が約半数④一般市民層への浸透、地方拡散が進んでいる――と説明している。
 若い頃、警察官から薬物の怖さを教えてもらった。覚醒剤はその名の通り、精神が覚醒し、気分が高揚するらしい。でも薬が切れると、とてつもない脱力感、疲労感に襲われ、幻覚も。薬物を絶つのは難しく、次第に精神も肉体もむしばまれていく。入手するのに高額な金も必要で、生活はすさむ。乳児ら4人が殺害された「深川通り魔殺人事件」(81年6月)を覚えておられるだろう。服役中の受刑者も覚醒剤を使用していたという。
 芸能人、アーティストらが薬物犯罪に陥るのはなぜ。新作、創作へのプレッシャーか。どんな理由があるにせよ、薬の力を借りてできなラブソングなど聴きたくない。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

札幌と種子島で

2014-05-27 16:51:32 | はがき随筆




 17年前、札幌に住んでいた頃に買い求めたアマリリスの球根が、今年も種子島で花を咲かせた。
 東京本社を56歳で定年退職。北海道支社で4年半、嘱託として勤務した。休日に行った中小屋温泉の帰り道、駅のそばの店先で目にとまった球根を買い、札幌でも鉢に植えて咲かせた。そして60歳で退職。種子島に来るときに持ってきた。
 かみさんは「お湯は茶色でヌルヌルだったわの……。また行ってみたい」と言った後、オレンジ色のアマリリスに「来年もまた咲いてね」と語りかけていた。
  西之表市 武田静瞭 2014/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

写真は武田さんのブログより

古里の山

2014-05-27 16:36:11 | はがき随筆
 「ふるさとの山に向かひて 言うことなし ふるさとの山はありがたきかな」と石川啄木が詠んだ。私も家から望む鉾立山を眺めるのが好きだ。生前、母が遊びに来た時、水田が広がる山並みに「良い所だ」と故郷をほうふつさせたようで、昔話に花が咲いたからである。程なく山の屋根伝いに送電線の鉄塔が並び、時の流れは環境を変えている。母に「鉄塔を木の形で緑色にしたら景観に抵抗ないかも」と言えば、「まだ山らしい山で見られる」との答え。思えば、環境が変わっても「自分らしく」と暗に母の声がする。今日も黙して古里の山を眺めている。
  出水市 宮地量温 2014/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載

虎の子が鳴った

2014-05-25 22:06:23 | はがき随筆
 1月初め、阿久根市のホームセンターで65歳以上の専用カードを更新した。カードで購入すると、総額の5%を返金してくれるのだ。海が近いから鮮魚がよく並ぶ。その日はまるまる太ったサバとマダイを買った。園芸コーナーでは県内産35万年前の貝化石粉を発見、我が家の微生物畑に35万年前の微生物を仲間入りさせようと購入した。
 返金レジには男女4人が並んでいた。見ると、小銭がしっかり準備してある。私に返金された68円が手の中で鳴った。歩きながら、拾い集めた地金を売って得た少年の日の虎の子の小銭を思い浮かべていた。
  出水市 中島征士 2014/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

パソコン診断

2014-05-25 22:01:06 | はがき随筆
 私の持病は、高血圧と不整脈である。血圧の治療は市内の医院に行くが、最近は娘の女医さんが診察してくれる。
 50代の彼女の趣味は古美術のようで、話題が豊富である。時々、仏像などのことを聞かれて会話が弾むこともある。
 一方、不整脈の治療は、市外の総合病院に約2ヶ月に1回通院している。採血をしたり、時には心電図を取ったりして、最後に主治医の診察を受ける。「お変わりありませんか」と笑顔で迎えてくれるが、後はパソコンを打ちながらの診察である。
 確かに、私の病状はパソコンの中にあるのだ。
  志布志市 一木法明 2014/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

ささやかに

2014-05-25 21:55:35 | はがき随筆
 航空ショーを見に行き、縦横無尽な動きに衝撃を受けた。頑張らなければとの思いに駆られた。震災の復興もままならない宮城県の松島基地から飛来したブルーインパルス6機。小柄でシャープなブルーの機体は大空をキャンバスに自由自在にアートを描く。過酷な訓練を経ての技術であるのは重々承知の上で自分の手足のように操れるとは驚き。翌朝4時に目が覚め、スイッチが入ったかのようにスニーカーを履き外に出る。まったく予定してなかったこと。校庭をウオーキングとランニングで大回りすること5周。私もささやかに頑張ってみよう……。
  垂水市 竹之内政子 2014/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

まず今日を

2014-05-25 21:48:55 | はがき随筆
 「はい、○○ですが……」。えっ、まさか本人! とっさに電話を切ってしまった。私のことが分からなかったら、どう対処していいか動揺したからだ。先日、何十年かぶりに訪ねた私に、彼の奥さんは「ごめんなさい。どんなにか考えたんだけど、夫の良いときだけを覚えていてほしくて……」と、彼に会うことを固辞した。私より年下の彼が若年性認知症。息子の顔も分からないという。風貌がどことなく歌手の前川清さん似の彼……。人生のゴールが見え始め、最近ひどく落ち込む。落ち込んで、落ち込んで……。まず今日一日を生きようと思う。
  霧島市 久野茂樹 2014/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

読み聞かせ体験

2014-05-21 18:45:47 | はがき随筆
 長男(4)が通う幼稚園で、絵本の読み聞かせをするボランティアを募集していたので、申し込んだ。自分で絵本を選んで持参するとのこと。当日はどしゃ降りだったので、雨にちなんだ1冊をと思い、赤川明さん作・絵「あそぼ!みずたまり」(鈴木出版)を選んだ。さすが雨の日だけあって、お話会は大盛況。いよいよ最後、5番目はわたしだ。緊張しながら前に出る。残り時間は少ない。声を張り上げ「ばしゃばしゃ」「どっぷーん!」。園児たちは食い入るように絵本を見つめ、聞き入ってくれた。ほんの数分間だったが、充実した気分だった。
  鹿児島市 津島友子 2014/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載

薩摩の志士なら

2014-05-21 14:27:42 | ペン&ぺん
 

4月20日、私立鹿児島高1年、勝みなみ選手が日本女子ゴルフツアー優勝に輝き、最年少記録を塗り替えた。15歳。まさに「時の人」となった。将来が楽しみだ。
 「政治とカネ」を争点に6候補が論戦を繰り広げ、同27日投開票された衆院鹿児島2区補選。安倍晋三首相ら与野党の党首、代表らが相次ぎ来県し、てこ入れした。安倍政権への「信任投票」として捉えられ、全国注視の国政選となった。
 5月10日、桜島が噴火し、噴煙は4500㍍まで上がった。大量の灰が鹿児島市中心部に降った。昨年8月を思い出した。昨夏も今回もこの噴火は全国ニュースとなった。天高く噴煙を上げる10日の桜島を撮った津島史人記者の写真はヤフーでネット配信された。
 6月に開催されるサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本代表メンバーに県ゆかりの遠藤保仁、伊野波雅彦、大迫勇也の3選手が選ばれた。23人の中からの3人だ。代表選手とは縁のない県もあるだろう。それを思えば3人を輩出したことは「サッカーの鹿児島」を県外にアピールする絶好の機会だ。代表チームが21日から指宿で合宿する。W杯では厚い選手層、練習環境、良好な季候など鹿児島のサッカーへの熱い思いを全国に伝えたい。川内原発の再稼働問題もそうだ。伊藤祐一郎知事の発言も含め、本件は常に注目の的となっている。
 安倍首相は15日、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する方向にかじを切った。皆さんもそれぞれの考えを持っておられるでしょう。毎日新聞を含め各紙をじっくり読み比べてほしい。そもそも、これは私たち有権者(国民)が1票を投じて託した代表が集まる国会で議論するべきではないか。幕末、日本を動かした薩摩の志士たちは150年後をどのように見ているだろうか。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

車両違い

2014-05-21 14:18:00 | はがき随筆
 随筆の表彰式で読者の心を打つ文章の書き方を学び、新幹線に乗る。座席はなぜかがら空きだ。通路を挟み窓際の席に座った男性は出水駅で朝、見かけた人である。川内を過ぎると車掌が検札に来た。その男性は切符を見せた後に謝っている。どうしたのだろう、気になる。
 次は私の番。切符を見た車掌はここは自由席ではないと言う。慌てて車両の表示を見ると「指定席」とある。「すみません」とわびる私に、ここでいいと車掌は笑顔で許してくれた。
 向こうで男性が自分も、という仕草をする。車両違いをした老人2人は頭をかき笑った。
  出水市 清田文雄 2014/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

衣替え

2014-05-19 16:36:31 | はがき随筆


 川べりのセンダンの木がシックな茶色の衣を脱ぎ、淡い紫色のベールをふうわりまとい始めた。
 目に見えぬ不思議な力に促されたこの衣替えには、いつも圧倒される。感嘆詞を幾つ重ねても足りない。
 うっとり見とれているうちに、ふと思った。目にみえないものを見たい。特に世界の歴史が編まれていく様を。世界各地のもめごとに、今を生きているのに関われないもどかしさが、こんなことを思わせる。夜気に潤ったセンダンの花から、かすかな香りが降りてくる。万物をつかさどる方の気配がする。
  鹿屋市 伊地知咲子 2014/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

故郷讃歌

2014-05-18 18:20:58 | はがき随筆
 美しいもの、きれいなものがいっぱいだ。4月、満開の桜。校舎から見える町並み、青い空、青い海、真っ赤な夕日。子供たちのにこにこ笑顔。良かったですね。ありがとうございます。よろしくお願いします、という喜びの笑顔。レンゲ草でいっぱいの田んぼ。広々とした平野。青々とした雄大な紫尾の山々。道路沿いに咲く季節の花々。
 5月、健やかに育てと大空を泳ぐこいのぼり。新緑の木々。
 みんなみんな、喜んで迎えている。温かく優しい穏やかな故郷の春。それが、うれしい。さあ、新たな一歩、ありがとうの心で進んでいこう。
  出水市 山岡淳子 2014/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載