はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

元日の入院

2021-03-30 09:43:13 | はがき随筆
 新年早々病院のベッドで目が覚めた。「ここはどこですか」「元日の午前3時ごろ救急車で運ばれましたよ」と看護師さんは言われた。年越しそばを食べた後、床に入ったまでは覚えているが、その後は全く記憶がない。夜中にけいれんを起こし、容体がわるくなったので救急車を呼んだという。
 この時期に息子の帰省を渋っていた私でしたが、もし一人だったらと思うと息子さまさまでした。お蔭で1週間で退院でき、感謝です。迎えにきてくれた娘が「雪が降っているよ」とマフラーを巻いてくれた。生きててよかったー。
 鹿児島市 竹之内美知子(88) 2021/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載

移籍選手の胸中思う

2021-03-29 19:41:30 | はがき随筆
 プロ野球の世界ではチーム強化のため、選手のトレードが当たり前のこととして行われる。対象選手の多くは、新チームで全力を尽くすとのコメントを残して去っていく。
 しかし、その本当の気持ちはどうなのか、報道されるたびに気になっていた。20日付オピニオン面の「潮流 エースの情念」を読んで、そんな気掛かりについての答えをもらった。
 40年余り前のドラフト騒動「江川事件」解決のために、巨人はエースだった小林繁さんを、阪神に「差し出す」形でトレードした。
 小林さんのその時の胸中は「許せないの一心」だった。陰惨ともいえる「暗い情念」が燃えたという。しかし、巨人戦で勝利を重ねるうちに怒りは静まり、「もう十分じゃないか」という感情が湧いたそうだ。
 今季も戦力外やトレードで多くの選手が他球団のユニホームを着た。胸の内はどのようなものだろう。古巣との対戦はプロならではの試練。そうした選手たちの一投一打に期待したい。
 岩国市 片山清勝(80) 岩国エッセイサロンより

誕生日に

2021-03-29 18:56:46 | はがき随筆
 電話が鳴った。「今日、誕生日ですよね」といつもの声だ。毎年、忘れずに電話をくれる。小学生だった彼も、もう高校を卒業する。進路が決まったことも報告してくれた。
 昨年、水色のハンカチをプレゼントしてくれた。5年2組の学級通信が「水色」というタイトルだった。大事な仕事のときに、お守り代りに必ず身に着けていることを伝えた。「ホントですか」と照れくさそうに喜ぶ声が返ってきた。
 最後に「頑張ります」という彼に、「頑張りなさいね」と返しながら、いつも私が勇気をもらっている。
 宮崎県都城市 平田智希(45) 2021/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

敢えて考える

2021-03-29 18:46:29 | はがき随筆
 進化する機械で、破壊はいとも簡単。地下にも空にも自然にも侵食する人間。小粒だが、空間も歪む力持ち。地球だけでは事足りず宇宙までも采配を振る。だが底知れない違世界まで飛び出して、何処まで知り尽くしたいのだろう。 宇宙は謎に満ち、ゆえに探究。宇宙開発。名目で全てを許せる。しかし人の吐き出す汚濁に満ちていないのか。美しい科学の夢とは裏腹に、先陣を競い、新たな戦争利用にもなり、果てない欲望の標的にも見える。だが、誰も異は唱えない。何故? そのあまりの浪費ゆえ……か?
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

日曜日の散歩

2021-03-29 17:14:47 | はがき随筆
 目的のない散歩は苦手な私。「昔の通学路を歩きたい」という娘の提案に孫娘と3人で出かける。昔ここにK君の家、Мちゃんの家もと懐かしい名が出てくる。様変わりして新しい屋並みの中、用水路だけは変わらず流れている。小学校の近くまで来たので同僚だったTさん宅まで足を伸ばすことに。一人暮らしの長い彼女、米寿と言われるもグラウンドゴルフを週2回されていて元気そのもの。若々しく前向きな先輩に大いに元気をもらう。一人では実現しないことも連れがあるとできてしまう。1時間あまりの日曜日の濃厚な時間に感謝の散歩だった。
 鹿児島県霧島市 口町円子(81) 2021/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

桜の花びら

2021-03-29 17:08:07 | はがき随筆
 今年の春、僕は卒業を迎えた。毎朝見てきた玄関の風景も、桜のピンク色に染まっていた。
 僕は何気なくクラスメートとの時間を過ごしていたような気がする。コロナのせいであまり実感がもてなかった「卒業」という言葉だったけど、新しい扉を開けて振り返れば確かにそこに「卒業」があった。違う中学校へ進む友達との別れに寂しさもしっかり感じた。
 目の前に桜の花びらがひらひらと舞い落ちてきた。ジャンプしてぎゅっと握りしめてみた。手のひらにある桜の花びらを見つめてたくさんの思い出が浮かんできた。ありがとう。
 宮崎県都城市 平田壮一朗(12) 2021/83/28 毎日新聞鹿児島版掲載

阿蘇の野焼き

2021-03-29 17:00:42 | はがき随筆
 毎年、阿蘇外輪山で行われ千年も続いている野焼きは、春の訪れを知らせてくれる。私は10年間、その活動に参加した思い出がある。阿蘇の米塚一帯から放たれた火は短時間のうちに原野を真っ黒な平野にした。時には、炎の中からウサギやシカが飛び出し逃げ惑うこともあった。真っ黒になった原野は、春の訪れと共に新緑で覆われ新しい大地になる。
 今年は、熊本地震から5年を迎える。新阿蘇大橋が開通した阿蘇に再び、本来の活気が戻ってくることを願う。阿蘇の野焼きは、我々に自然の素晴らしい営みを教えてくれる。
 熊本県大津町 小堀徳廣(73) 2021/3/28 

春を待つ心

2021-03-29 16:52:55 | はがき随筆
 如月の風は少し肌をさすが、こよなく晴れた青空がいい。
 五ヶ瀬川に目を移すと2羽の可愛いかいつぶり。つがい? 親子? 仲良くていい。ヤヤッ、1羽が潜った。そして思わぬ所に浮かぶ。春が近くにきている。引き寄せたい。
 男性が私の顔を見に店に来たと言う。なんで? でも訳は告げずすぐに帰った。
 春待ちの2月は一年のうちで一番淋しい月である。早く弥生の春が待たれる。草花は芽吹き、小鳥がさえずる。
 川のせせらぎの優しさは、はや春の詩をうたっている。待たせずとも春はそこに。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(94) 2021/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

生命の詩

2021-03-29 16:45:44 | はがき随筆
 父の没後、本紙を購読し始め、今の「はがき随筆」になる前の「みに随筆」にもかなり投稿してきた。
 文章は、短ければやさしいものでもないから苦労したが、読書の数では人後に落ちないと投稿を続けた。
 現在スクラップしているのが134編、3冊のノートに分割しているから、これを一冊の本にしたいと、各方面にあたってみるが、どうしてもうまくいかない。
 1冊100~200円で、100~200冊ではどうかと言っているのだが。
 熊本県苓北町 中原賢二(85) 2021/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

その一口が……

2021-03-29 16:38:30 | はがき随筆
 常日ごろ痩せたいと思っている。料理も一品ずつ皿に盛り、2人でつついて食べていたが、コロナ禍で小皿に分けて食べることにした。
 もともと小食な主人には私より少なめにするのだが、それでも残すことがある。ラップを掛けて冷蔵庫に入れても食べないと思うと私の口へ。
 そのときいつも思うこと。「その一口が死を招く」「その一口を我慢でききたら」と。食べた後の後悔は、捨てるのモッタイナイからと言い訳に変わる。
 だから痩せない。分かっているけど、だから元気。私の人生、わけのわからない堂々人生。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2021/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

あなたはだあれ

2021-03-29 16:31:53 | はがき随筆
 眠れぬ夜が続いて気がついた。あの方が肩をたたいておいでだ。避けていたことに向き合う。やっぱり不愉快な思いをする。けれど、もう一歩踏み出そう。その結果、現状が好転したら感謝しよう。好転しなくても憤らない、しょげるまいと誓う。
 気持ちが少し軽くなったら気がついた。小ぶりな黄水仙が咲いている。
 「おはよう」と声をかけながら数えると花は17。黄色はお日さまの色。「お日さまのような人におなり」とおっしゃっているの? 
 いつもそばにいてくださるおなたはだあれ?
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(84) 2021/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

論語人生

2021-03-29 16:19:09 | はがき随筆
 この歳になって論語を思う。十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず五十にして天命を知る……。「ウーン?」。いずれも首をかしげるばかり。お恥ずかしい限り。
 六十なして耳順う。「ン!」。これは何とか実践。仏道で言えば声聞界あたりか、と自己納得、自己満足。
 ならば「七十にして心の欲する所に従って、矩をこえず」を目指してみよう。
 ところで八十にして、九十にして、まして百にして……。孔子なら何と教えただろう。
 まずは「八十にして」を自分なりに探してみよう。
  宮崎県延岡市 太田充(67) 2021/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

改めて、ありがとう

2021-03-29 16:11:17 | はがき随筆
 友人のお母様が亡くなられて1年、百歳の誕生日を目前にされての旅立ちだった。お洒落でユーモアを解されるチャーミングな方だった。実の娘である友人は長らく自宅介護を続け、そして見送った。彼女はあれもこれもしてあげたかったと後悔をし、何もする気になれなくて、喪失感の中にいた。私はと言えば、くも膜下出血で倒れた夫の自宅介護が始まり、体力も技術も知識もなく、全く戦力になれない自分の不甲斐なさを思い知らされて落ち込み、涙を流し、取り乱していた。そんな私を抱きしめ、励ましてくれた彼女に改めて「ありがとう」。
 熊本県菊池郡菊陽町 有村貴代子(74) 2021/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

料理

2021-03-24 22:22:46 | はがき随筆
 母に料理を出す。甘いとか辛いとか、どんな言葉が飛び出すか。「これはうまい」と言うものなら私はうれしくて、天にも昇ったような心地になった。
 母に気に入ってもらおう、褒めてもらおうと、母の好物を一生懸命に作った。その母も逝き、今は我が好物だけを作って食べる。うまいはずなのに、これがなんとも味気ない。家族でワイワイ言いながら食べるのが一番だ。
 両履歴16年で腕が格段に上がっても、食べてくれる母はもういない。母の喜ぶ料理をと、店員に笑われながら料理本を買ったことが懐かしい。
 鹿児島県出水市 道田道範(71) 2021/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

静電気

2021-03-23 20:18:29 | はがき随筆
 ある朝水道の蛇口に手を近づけると、指先にビリッと痛みが走った。静電気だ。私は静電気がたまりやすい体質で、冬になるときまって金属などに触れるとビリッとくる。
 一方、静電気を帯びたものに触れても同様。冬は両手をポケットに入れ、なるべく周囲の物に触れないようにしている。
 妻に話すと「その体質、何か役に立たないかしら」と言う。人間静電気センサーとかいろいろ考えてみたが、冬の間の湿度が低い所でしか役立たない。何かいいアイデアはないものかと考えながらドアノブに触れた途端、バチッ! 火花が散った。
 宮崎市 福島洋一(65) 2021/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載