はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「思い出の中で」

2010-08-23 23:11:38 | 岩国エッセイサロンより
2010年8月22日 (日)
山陽小野田市  会 員   河村 仁美

食べ物というのは思い出と結びつく。ふるさとの我が家を思い出す時、真っ先に私の目に浮かぶのは庭のゆすらの木だ。増築の時、母の里へ移植させたが子供のころよく食べた。真っ赤に熟れた小さな実を口に含むと甘酸っぱい昧がした。

 毎年この時期になると必ず父からゆすらの絵手紙が届く。誰も見たことがないので、写真を送ってと頼んだら今はないという。父が記憶をたどって描いていたそうだ。ゆすらには、もう思い出の中でしか会えなくなった。絵手紙をずっと見ていたら、ふるさとを思い出し、懐かしい昧が口中に広がった。
  (2010.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ごめんね

2010-08-23 23:03:34 | はがき随筆
 出水に住む友の電話は第一声から個性的。「おいおい、奥吉どん、あたいやが」「久しぶり、でも珍しい、日曜日に電話をくれて」「うーん、話すことが……」。ためらう気配に問いただすと、長男の訃報を伝えた。
 24歳で発病、14年の闘病の末に38歳で亡くなった。たまに近況を聞くと「家におっど」。深く聞かずにいた。お父さんの背中にもたれながら安らかに旅立ったとのこと。自分にも何か手だてはなかったか。
 鹿児島市の友と2人でお悔やみに。泣いたり笑ったり、1年ぶりの再会に話が弾む。「連絡して良かった。元気をもろた」
  いちき串木野市 奥吉志代子(52) 2010/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載