はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

読書

2007-01-31 23:05:42 | はがき随筆
 学校から帰ると読書三昧の小1、娘は本を借りに図書館に通っているという。
 ある日、読んでいるところへ行った。目で読むだけだろうと思ったが、音読にしてもスラスラと年老いた私など追いつかない。
 まるで食べるように読書している。2、3冊読み目がというとちょっとやめるが──。
 ひょっとして、本がおやつ役? と思うこともある。
 それ水を、それおやつをと、すすめにすすめると、われに返って水を飲むが、また読む。
   鹿児島市 東郷久子(72) 2007/1/31 掲載

写真は本文と関係ありません。

眠れぬ夜に

2007-01-30 11:11:21 | はがき随筆
 朝、目覚めることは何とありがたいことか。吐く息も白く、吹く風に身も凍える冬。でも、それがあるからこそ春の匂いが待ち遠しい。庭の赤い椿の蕾が日々ふくらんでいくのを感じながら、夜が明けるのを待つ。しんしんと冷える夜、ただ何か大いなるものに感謝しつつ、毛布をたぐり寄せる。かたわらには老いた父。そして妹が飼い猫2匹と寝息をたてている。すこしだけうらやましいと感じながら、私は私でいいのだ、と幸せをかみしめる。更年期に片足を突っ込んだ私。「負け犬」と呼びたい人は呼べ。1人、幸福感にほくそえむ私を黒猫がくすりと笑う。
   姶良町 福崎康代(44) 2007/1/30 掲載

写真はshige☆Hさんにお借りしました。

心残り

2007-01-29 16:59:08 | はがき随筆
 大阪の姉とは同じ干支。気が合う。新婚時代から実の妹のようによくしてもらっている。昨年10月に上阪した時には会いに行き、亡き兄や夫との思い出話に、泣いたり笑ったりして懐かしくも楽しいひと時を過ごした。
 今回は年末年始で慌ただしく、また遠いし会わずに帰ろうと思っていたら「会いに来てちょうだいな。かんぽの宿を予約するから一緒に温泉に入りましょう」と姉からのお誘い。
 足腰が弱って来ている姉にやはり会って帰ろうと決めた日に「母が肺炎」との知らせ。結局会わずに翌日の一番機に乗った。
   霧島市 秋峯いくよ(66) 2007/1/29 掲載

絶景の下で

2007-01-29 16:15:24 | かごんま便り


 海の向こうには開聞岳がそびえている。まさに絶景。思わず携帯電話のカメラで写真を撮り、その場から友人たちに送った。天の邪鬼の私も、頴娃町の番所鼻講演の景色には素直に感動した。
 松島(宮城県)、天の橋立(京都府)、厳島(広島県)は有名な日本三景。しかし、番所鼻公園は、それ以上の美しさなのであろう。江戸時代に全国を歩いて初めて実測地図を作った伊能忠敬が「けだし天下の絶景なり」と賞賛した場所という。
 同じ「絶景かな」の言葉でも、歌舞伎の舞台で石川五右衛門が京都・南禅寺の山門上で言う台詞「絶景かな、絶景かな、春の眺めが値千金とは小さなたとえ……」がある。これは芝居上の言葉である。それに比べて、忠敬の「けだし天下の絶景かな」は重みがある。測量の途中では当然、有名な三景も見たであろう。それよりも「けだし天下の絶景なり」と、最大級の賛辞を付けて番所鼻公園の景観を褒めたのは、本当であろうと思わせる。
 さらに早春の潮騒と海の色は、学生時代の伊豆半島の旅行を思い出させた。25年以上前になるが、伊豆で見た海の色に似ていたからだ。ちょうど今ごろ、節分の前だった。
 旅館の主人から節分の時の節分の時の掛け声「おにはそと、ふくはうち」の意味を聞いた。漢字で書くと「遠人疎途(おにはそと)不苦者有智(ふくはうち)」になるそうだ。 
 遠仁者疎途=おもいやり、いつくしむ事が「仁」。これを遠ざけている者は、人の途(みち)からはずれている。
 不苦者有智=「智」は物事の分別がある事。これを持っている人は、何があっても動じない。
 こんな意味だった。私に教えてくれた主人は、旅の禅僧から教えてもらったそうだ。
 節分は悪鬼を払う豆まきが定番である。太巻きを食べる人も多くなっているようだ。数年前に関西出身の同僚の音頭で職場で試してみた。何でも食べている時はしゃべってはいけないらしい。男が数人、その年の恵方を向いて黙って食べた。異様な雰囲気で一斉に吹き出してしまった覚えがある。
 伝統行事の本来の意味が忘れられている習慣も多い。最近は何かに付け「遠人疎途不苦者有智」を思い出すようになった。
 番所鼻公園の写真を送った友人たちからの返事は一様に「今度、連れて行け」だった。
 毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2007/1/29掲載
 
 写真は本文と関係ありません。

小さな目標

2007-01-28 18:52:07 | はがき随筆
 私にもピアノが弾けるだろうか。昨年末、野田女子高での県民大学に入学した。私が一番興味があったのは、初めてのピアノ。恐る恐る鍵盤を押さえたら音だけは出る。とても嬉しい。
 先生に、和音を簡単にした「みかんの花咲く丘」の楽譜をお願いした。今年の11月の妻の誕生日には、かねての償いに、彼女の好きな歌「みかんの花咲く丘」を弾き贈りたい。
 早速、キーボードを買った。易しそうだが指が動かない。頭が混乱してメロディーが途切れる。だが頑張って、今年は妻を驚かせてみたい。どんな顔をするか楽しみだ。
   出水市 小村 忍(63) 2007/1/28 掲載

目標100枚に

2007-01-27 08:17:22 | はがき随筆
 原稿用紙50枚ほどの投稿であった平成18年。このままの状態ではプロにもノンプロにもなれぬ。まだまだ質的にも量的にも深めていかねばならぬ平成19年の目標、100枚ぐらいはと思う。創作の量も増やしていくと、1000編に1編ぐらいは掲載されてもいくことだろう。100枚を一気に創作するほどの技量も伴わない。あきらめずに創作への実践をして100枚に近づくと信ずる。100枚が目標である。必ずや現実にと……。今日も怠惰せずにコツコツと根気強くやっていくことに尽きるだろう。新春にふさわしい新たなる決意。自分自身を激励している。
   出水市 岩田昭治(67) 2007/1/27 掲載

写真はH.ozakiさんよりお借りしました。

廃駅慕情

2007-01-26 21:03:23 | はがき随筆
 旧改札を入りベンチに掛け、目を閉じる。思いは昔に、行き交う声に。「行ってくるから、キバレヨ」「今帰って来ぞ、オヤッサー」などと響き合った。ホームは綺麗に整頓され、春は南側の大きい藤棚に藤の花が咲き旅情をくれた。耳を澄ませると潮騒が心地よい。小さい島には荒平神社がある。晴れた日は錦江湾が広く、視界をのばし端麗な開聞岳を見る。地元の人たち、旅人も絵のように映る風景は深く記憶に残る。大隅線は大正7年7月に始まり91年に遡る。廃駅数33、距離90㌔は歳月の中に埋没か、透明な冬の日差しの中、人々の中に生き続けるだろう。
   鹿屋市 小幡晋一郎(74) 2007/1/26 掲載  

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孫は来てよし

2007-01-25 12:17:35 | はがき随筆
 正月に生後6ヶ月の孫を連れて、息子夫婦が帰省した。
 日ごろ1人で孫の世話をしている嫁を休養させようと温泉へ行かせ、私は子守り。じっとしているとぐずるので、だっこして歩き回る。腰は痛いが、孫の笑顔で帳消し。
 二十数年ぶりにおんぶもして肩はコリコリ。それでも背に孫の温かみが嬉しい。
 上げ膳、下げ膳で下にも置かぬもてなしで、姑1年生は頑張った。息子たちが帰って行き、私はぶっ倒れた。疲労困憊の極み。
 孫は来てよし、帰ってなおよし!
   出水市 清水昌子(54) 2007/1/25 掲載

写真は本文と関係ありません。

そば切り

2007-01-24 11:36:19 | はがき随筆
 ここ2、3年恒例となった。年越しそばを打つために新物のそば粉と麺棒を手にさっそうと母のお出ましである。この日ばかりは板前40年の私も形無し。「ほれほれ、方に力入りすぎ。そば打ちは力やない。気で打つんや!」「粉が多過ぎ!」
 いやはや、85歳にしてその手際の良さは驚くばかり。その技を盗み取る間もなく、そば打ち終了。後何年なるか。生きとるうちは続けるとは嬉しい言葉。そして耳元で師匠のばあさんは上手やなかったと、のたまう。代々伝わるわが家のそば打ち。今年はめでたく麺棒を1本いただいた。
   指宿市 有村好一(58) 2007/1/24 掲載

写真はmoxomさんよりお借りしました。

エアメール

2007-01-23 12:25:45 | はがき随筆
 大晦日にボストンからエアメールが届いた。海外から手紙が届くなんて私には初めての事。差出人は漢字で友人の名。開封してびっくり。大きな赤ちゃんの写真。英文でコメントが数行。バースデーと体重、身長、名前が読み取れる。友人はボストンで出産する娘の手伝いで渡米してクリスマスと正月も初孫と娘夫婦と共に過ごすという。彼女が帰国したら、ボストンで言葉に悪戦苦闘した話など聞いてみたい。
 自分も初めてお婆ちゃん(グランマ)になってデレデレになったチャーミングな笑顔に早く会いたい。幸せをいただきたい。
   鹿児島市 吉利万里子(60) 2007/1/23 掲載

写真は本文と関係ありません。写真は立風13さんからお借りしました。

オオゴチョウ

2007-01-22 23:27:22 | はがき随筆






 妹からもらったオオゴチョウの小さな花の苗。どんな花が咲くのか楽しみで、主人とのぞき込む毎日。小さな蕾を付けますますうれしくなり、開花が待ち遠しい。咲くまでの長いこと。蕾の先が割れ、初めて見る赤っぽい小さなオオゴチョウの花。「はじめまして。埼玉からようこそ我が家に!」。最後まで美しく咲いてね。1日1個ずつ開花し、1週間程しぼむまで楽しめる。後にはサヤが付き、種子を取るのも楽しめる。妹のは草丈150㌢あるのに、わずか45㌢。もう咲かないかもと言われたのに、よくぞ咲いてくれました。
   鹿屋市 三隅可那女(62) 2007/1/22 掲載

写真は木々の移ろいさんからお借りしました。

はがき随筆12月度入選

2007-01-22 22:28:58 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入選作品が決まりました。

△ 出水市大野原町、小村忍さん(63)の「埴生の宿」(21日)
△ 志布志市志布志町、小村豊一郎さん(80)の「年の瀬に」(29日)
△ 志布志市有明町、西田光子さん(48)の「私は亀」(12日)

の3点です。

 小村忍さんは、瓦がずり落ちてきそうな親の廃屋があると言います。これは少年時代を過ごした家で、柱には妹や弟と背丈を測った跡があり、家族みんなで楽しく暮らした思い出があるのです。いいですね。小村豊一郎さんは80歳です。「年の瀬に」では、癌を手術し白内障の治療もしながら生涯現役を目指すと言います。しかし、この人のいい点は、窓が明るくなってきた。生きていることは素晴らしいから、それに答えて努力してゆきたい、と言うところ。心のゆとり、人間はこれが大切。そして文章の味は、ここから生まれると思うことでした。
 味と言えば、西田さんの「私は亀」の味もいいです。専業主婦の西田さん、家事に熱中してふと気づくと自分の姿を亀のようだと思い、くすりと笑うことがあるとか。このゆとりが面白い。亀の暮らしが心地よいので、そろりそろりと前に進んで行くつもり、というこの心のゆとりを大切にと申し上げますよ。
 さて、面白い文章をまとめて3作。川端清一郎さんの「皿ば! 皿ば!」。お父さんが釣ってきた魚を刺し身にして贈り物にし、皿はいつか取りに来ると言った数日後、通り掛かったら、そこの奥さんが皿を返そうとして「皿ば、皿ば」と叫んだとか。前の事を忘れていたお父さんは、ピンと来ないで「さようなら」と返したという面白さ。武田静瞭さんの「以心伝心」は、俳句を作りながら奥さんと来客とケーキを食べる話を、吉松幸夫さんの「律儀な居候」は、お兄さんの家に居る13匹の猫の話。暮らしの中の面白さ、愉快な場面を感じ取って語る力は大変に必要なものです。豊かな人生を作る、人生を変える力になりますよ。大いに書きましょう。
   (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

釣り師だけの至福

2007-01-21 18:24:04 | はがき随筆
 寒波が襲った日曜日の朝。このような日は鯉の食いが異状に活発になる。27年の鯉歴の勘が走る。秘伝の練り餌の爆弾を川に投げ込み、待つこと2時間。けたたましい鈴の音が、私と鯉と格闘の序章の幕開けだった。上流に下流に走ってジャンプを繰り返す。その度に糸を繰れては巻き、巻いては繰れる。海老のように竿が曲がりリールがきしむ。互いの持てる知恵を振り絞る熱闘は、私に凱歌が上がった。15分の鯉とのファイトが緊張とスリルの満足感に体が火照る。計量後の放流する瞬間に、神々しいまでの清々しさに包まれる。釣り師だけの至福。
   出水市 道田道範(57) 2007/1/21 掲載

写真はこうすけさんよりお借りしました。

図書館で

2007-01-20 10:13:36 | はがき随筆
 日曜日、図書館は利用者でごった返していた。閲覧席が一つ空いていたのですぐさま座った。対面席には2人の小さな男の子が一つの椅子にちょこんと腰掛け、新聞の縮刷版に熱中していた。顔を見るとそっくりだ。「君たち双子ね」と聞くと、一緒に「はい」と答え、「小学生ね」と聞くと、また一緒に「はい」と答える。「そんな小さな字の新聞を読むってすごいね」と言うと黙したまま。帰り際「さようなら」と私に一礼した。またまた一緒にだ。話には聞いていたが、双子って何もかも一緒? 双子の動作を長い時間目の当たりにした驚きの一日だった。
   鹿児島市 川端清一郎(59) 2007/1/19 掲載 

写真は本文と関係ありません。

暖冬野菜

2007-01-19 08:29:19 | はがき随筆
 ビデオの撮り初めに青果市場に行った。広い売場には果物から各種野菜まで整然と並べられ、鐘が鳴ると競り人の威勢のいい声が響き渡る。
 某スーパーの仲買人の一団が次々と競り落とす。一人目を引いたのは八百屋のおかみさん。市場職員に赤カブとキヌサヤを一箱ずつ伝票に記入させて、手押し車に積んでいた。
 正月明けで入荷が少ないが、ピーマンもキャベツも値を持ち直していた。野菜は体によいと産地直売や朝市などでも人気だが、いつぞやは、無人販売所で「白菜は無料」の張り紙を見て複雑な気分だった。
   鹿屋市 上村 泉(65) 2007/1/19 掲載

写真はridiaさんからお借りしました。