はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ヤッホー

2008-06-30 07:36:39 | はがき随筆
 同業の若者たちと行く研修旅行。今回で11回になる。新緑の阿蘇。肥後の赤牛たちが草をはんでいる。すばらしい眺望、絶景だ。バスは外輪山を通り抜け九重連山にたどり着く。そう、目的は日本一の大つり橋だ。
 月曜日で少ない人出だと思ったが、たくさんの観光客。長さ390㍍、高さ173㍍。ゆらり揺れるのでスリル満点。中央付近に来た時、突然大音声で「ヤッホー」と叫ぶ人がいる。連山と山びこ応酬。振り向いたら同業のS君だ。
 元気はつらつぶりにビックリ仰天。私共々若い10人の元気をもらった日帰り旅行だった。
   大口市 宮園続(77) 2008/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載

一匹のヤモリ

2008-06-30 07:20:40 | はがき随筆
 6畳間に古ぼけた応接台と座椅子が無造作に置かれ、書籍や雑誌類が散らばり足の踏み場もない。腰高窓の奥にはほの暗い竹林が広がり時々風にきしむ。私の隠れ部屋であり俳句工房だ。愛犬ビスが昼寝に来る以外、家族もめったに寄りつかない。
 その部屋を夜な夜な訪れる客がある。8時になると音もなく現れてガラス窓に張りつき、白いのどを見せて私をのぞく。ガラス越しに息遣いさえ感じる。
 風の音を聞きながら、静かな会話がはずむ。後期高齢者の称号を頂いた私には、かけがえないパートナーである。
 一匹の守宮と風の音を聞く
   鹿児島市 福元啓刀(78) 2008/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

梅雨の花

2008-06-30 06:51:35 | はがき随筆
 カイコウズの深紅の花が梅雨の風景の中に際だって咲いている。県木である。三十余年前、太陽国体を盛り上げるため植栽されれたと聞いた記憶がある。
 太陽国体の炬火リレーが県内を巡った時、中学生の自分は白はちまきに青、赤、黄、緑のライン入りの短パンとランニングで、同級生と地元を走ったことが鮮明に思い出される。
 あふれんばかりのエネルギーをクラブ活動や勉強に昇華していた自分と、カイコウズの深紅の花が重なっている。
 この花は、五十路にさしかかった自分を、奮い立たせてくれる「情熱の花」だ。
   垂水市 川畑千歳(50) 2008/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

蚊のいない国

2008-06-27 21:37:15 | はがき随筆
 シンガポールに蚊はいなかった。娘宅の庭でバーベキューを楽しんだ夕刻、一度も刺されなかった。出水とは大違いだ。聞くと定期的に駆除され衛生的で快適なまちづくりがなされている。観光客の評価も高い。熱帯の先進国にとって蚊や熱病の征圧は威信にかかわるのだろう。 
 ある朝、公園一帯に立ち上る濃い白煙を見たが、殺虫剤の散布と知った。規模も量も肩掛け噴霧器のレベルではなかった。結果、昆虫は死滅し、孫はオオクワガタ捕りの夢を早々にあきらめたようだ。鳥類も心なしか貧弱すぎた。次回は双眼鏡持参でしっかり確かめてみよう。
   出水市 花園勝政(65) 2008/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

すす

2008-06-26 20:43:37 | はがき随筆
他人の趣味には干渉しない主義。よって他人からも、とりわけ連れ合いからはあれこれ言われたくない。文学、音楽、絵画の趣味を持ったら生涯退屈しないというが、加えること映画、陶器、自然散策、写真と好奇心の塊のような人生。そして古美術骨とうにハマって十数年、連れ合いが黙っていること自体、不気味でもある。つい最近、うるしの花台を買った。すすで真っ黒に汚れている。壺にしても皿にしても汚れを落とすのも楽しみだがこの花台、なかなかすすが落ちない。ぼやきながら落としていると、連れ合いいわく「自分のすすを落としたらね」
   志布志市 武田佐俊(65) 2008/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度入選

2008-06-25 17:42:04 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入選作品がきまりました。
△いちき串木野市上名、奥吉志代子さん(59)の「生きる」(27日)
△大口市上町、山室浩子さん(61)の「日だまりの老猫」(29日)
△鹿児島市伊敷2、福元啓刀さん(78)の戦友忌(11日)
--の3点です。

 「ホトトギス」を主催する高浜虚子が、「山会」という文章の朗読会を開いたことがあります。文章には「山(クライマックス)」がないといけないという考えで、この名をつけました。ここで朗読されたのが、有名な夏目漱石の「吾輩は猫である」の第1編です。「はがき随筆」のような短い文章でも作文法は同じだと思います。優秀作を紹介します。
 奥吉さん「生きる」は、排水口が詰まったので業者に来てもらったら、3㍍もあるサザンカの根が出てきたという話です。何が出てくるかという期待が、気の根っこであったという意外性によってピークに達し、人も生活する、木も生きるという題のつけ方はうまいと思いました。
 山室さん「日だまりの老猫」は、友人の話で、愛猫の治療代がかさんだのでしばらくは「粗食」だというユーモアもいいし、高齢のご母堂を看取り、子供は独立し、今度は愛猫の最期を見届けることだという人生設計(?)も面白いと思います。それを知ってか知らずか、「うらら」はひねもす眠りこけています。
 福元さん「戦友忌」は、飛行学校で訓練を受け、それぞれの任地に別れて行った友に、15歳で戦死されてしまった経験を、毎年5月13日を「戦友忌」として懐かしむ話です。「わが戦友永久に15の八重桜」の句が添えてあります。死者は永遠に若いといいますが、そのようにしか生きられなかった青春もあったのですね。
 印象に残ったものを列挙します。宮園続さん「バトル」(4日)は、電柱に巣をつくる鳥とそれを壊す電工とのいたちごっこが同情をもって描かれています。花園勝政さん「ジャズ再入門」(9日)は、60歳を過ぎたご夫妻がジャズに解放される話です。アート・ブレイキーは私も大好きです。道田道範さん「クサガメ」(26日)は、2人の男の子とクサガメとりに奮闘する、ほほ笑ましい内容です。
(日本近代文学界評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)

係から   入選作品のうち1編は28日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
   2008/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

1人の入学式

2008-06-25 17:31:37 | はがき随筆
 数年前に母校の小学校の学校評議員を仰せつかった。
 保護者だけでなく、地域の代表が学校の教育内容について理解を深め、地域との連携を密にしていこうということで、評議員の会合だけでなく学校の諸行事の案内を頂く。今年も卒業式、入学式に招かれて出席した。
 小さな学校の卒業生は6人だったが、なんと新入生は1人だった。年度によって波はあるが、それでも確実に児童数が減少していく。学校の存続そのものが危ういと真剣に思うようになった。地域を見つめれば高齢者ばかり。
 これで良いのだろうか。
   志布志市 一木法明(72) 2008/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載

モコモコ

2008-06-25 13:20:34 | はがき随筆
 車の中から山々を指さして妻に「モコモコ」と盛んに言っている。孫が3、4歳のころのことである。目は珍しいものを見るように輝いている。
 ちょうど今の季節。若葉、特に楠がきれい。山一面に地からはい出した花のようにきれい。大人なら別な表現、モクモクとかワクワクとは。モコモコは何を見て表現したのか。見たまま感じたまま、若葉が勢いよく生まれるのを見てだろうか。
 21歳になった。伸び伸びと素直に育っている。よいお婿さんがモコモコと現れるのを楽しみに待っているこのごろ。
 幸せになってね。
  薩摩川内市 新開 譲(82) 2008/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はネロさんより

ターシャの庭

2008-06-23 17:48:01 | アカショウビンのつぶやき
 6月18日、米国の絵本作家で園芸家のターシャ・テューダーさんが92歳で永眠された。
 およそ30万坪の広大な「ターシャの庭」。
 そこで数え切れないほどの花や果樹を栽培し、自給自足の生活を実践し、19世紀の生活様式を続ける「スローライフ」で注目された。

 「ターシャ・コテージ」で、コーギー「メギー」や山羊、鶏、はとなどの小動物と暮らしながら、絵本作家、人形作家としても活動を続け近くに住む長男のサポートを受けながら、最期まで自分の信ずる生き方を全うしたという。

 ターシャさんの遺した言葉は、私たちが忘れてしまった大切なものを思い出させてくれる。

 「今がいちばんいい時よ」
 「楽しみは創り出せるものよ」

ターシャテュータ゜展
   


ひ孫自慢

2008-06-23 17:20:41 | はがき随筆
 1歳半になる孫娘久遠(くおん)の言葉はなかなか理解しがたいが、久遠は我々の言葉を理解できる。
 息子家族が帰省し、まず3人そろって仏壇にお参りした。興味深げに両親のすることを見ていた久遠は、パパやママが茶の間でくつろいでも、仏壇の前に居座ってチンの連打。ひいばあちゃんは、せがまれるまま線香に火をつけ「(ひい)じいちゃんにまんまんさいしてね」と渡した。すると久遠はくるっと向きを変え、茶の間にいた自分のじいちゃんに向かってその小さな手を合わせたそうな。ひいばあちゃんは今、会う人ごとにこの話をして悦に入っている。
   出水市 清水昌子(55) 2008/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

みそ汁

2008-06-22 19:18:39 | はがき随筆
 1本の注射液で10時間余の眠りにつき、目が覚めたら11本のマカロニ管につながれて1ヶ月余り。不動の姿勢と痛みとの戦いに明け暮れ、今朝すべての装着器具から解放される日なのです。待ちこがれた常食が食べられるのです。老化に配ぜん車の音が近づいてきます。間もなくベッドの端先でみそ汁の芳醇な香りが漂い始めました。手を差しのべて口に運び、一口すすった時、この世のものとも思えぬ味わいに感激して思わず涙がにじんでくるのでした。長い闘病生活を終え、ようやく得た今日の生命の尊厳に改めて感謝、合掌することでした。
   鹿児島市 春田和美(72) 2008/6/22 毎日新聞鹿児島版掲載

魔の3時

2008-06-22 19:10:16 | はがき随筆
 私は普段、11時ごろ床につく。しかし寝付きの良い方ではないのでななか熟睡できない。
 うとうとして時間が過ぎる。すると夜中の3時に目が覚める。さあそうなると、今度は目がさえて仕様がない。右に左に寝返りをうつが、頭はますますさえわたる。昨日あったことを考えたりエッセーのネタを探ったり、はては人生談義にまで行き着くともうだめだ。悶々としてのたうち回り、6時ごろ寝入ったと思うけど定かではない。ハッと目覚めると大概10時だ。
 こんな夜が頻繁にある。しかし、なぜ3時なんだろう。「魔の3時」と呼ぶしかない。
   鹿児島市 高野幸祐(75) 2008/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

添い歩き

2008-06-20 17:00:51 | はがき随筆
 小糠雨の中を、どこかの子犬が首ひもを付け、道の中ほどにいて通る車を困らせていた。
 そのそばを父は歩いていた。私は父に腰ひもを付けてもらい、ぴったり寄り添って歩いていた。ふいに父は子犬の方に近寄ろうと向きを変えた。危ない。私は腰のひもを握り、止めた。
 父は怒らないものと私は思い込んでいた。が一瞬、父は平手で私のほおを張った。
 父はアルツハイマー病を患い、私は父の徘徊(はいかい)を受け入れ、付き合っていた。
 知を失った場合、どうやってその尊厳は守られるのだろう。父の「自然」に添いたかった。
   出水市 松尾 繁(72) 2008/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載

手術から3年

2008-06-19 22:10:26 | はがき随筆
 胃と前立腺のがんを手術して3年4ヶ月が過ぎた。両方とも早期で完全に摘出。転移もなく抗がん剤は使用しなかったが、やはり再発の危険はあり、検査は続けていた。先日、執刀医の先生が一度診せてほしいとのことで大学病院に出かけた。結果はOKということで安心した。
 平均寿命を越え、まだ現役で開業医をつとめているのだから何も言うことはないのだが、死ぬことは誰だって怖い。死の怖さは、死に直面した人にしかわからない。いつまで生きられるか分からないが、いただいた命、最後まで人のため自分のために頑張ってゆきたい。
   志布志市 小村豊一(82) 2008/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載

黒い小さい

2008-06-19 21:51:38 | はがき随筆
 見つけたとき、コジュケイの卵1箇は割れていた。卵の中をのぞくと、充血した目のように血管が縦横に走っていた。
 「この巣に親鳥はもう帰らないと思う」と妻が言う。残った2個の卵を綿にくるみ電気スタンドの熱で温めることにした。時々卵を回したり、霧を吹いたり、妻とともに注意を払った。
 何日目か、ひよこの声がした気がして行ってみると、卵にひびが入ってゆく。そっと手伝い、じっと見守る。くり返す。と、やがて真っ黒いものが現れ、両方とも立ち上がり、元気に鳴き始めた。それは、燃えだした黒い小さい炎のよう──。
   出水市 中島征士(63) 2008/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はridiaさん