はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

方言の今昔

2020-05-27 20:06:56 | はがき随筆
 「おひさあをかるっきおしたなら、あちかした」(お日さまをおぶってきたなら、暑かった)と、腰を伸ばし、額の汗を拭くおばあちゃん。
 状況から、お日さまを背中に浴びながら歩いてきたので、暑かったのだと理解できた。なんとステキな表現。方言ならではのほっこり感。私はしばしポエムの世界へ。
 買い物が終わると、お日さまに向かってシルバーカーを押し、ゆっくり帰っていかれた。
 その昔、方言をよしとせず、教室の黒板に「努力目標、標準語を使いましょう」と書いてあったことを思い出した。
 鹿児島県垂水市 竹之内政子(70) 2020/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

閑居の恵み

2020-05-27 19:59:19 | はがき随筆
 終日家でゆっくりし、散歩すらしなかった日は「犬以下の日だった」などと焦る性格。
 先日、一日がもったいないと思いつつも風邪で寝ていたら、少しずつ回復する喜びを感じ、外の小鳥の声や流れる雲、時間の流れが心地よく受け入れられた。これまでにない経験で、不思議なくらい心が洗われた。
 宝は自分の中のゆっくりとした生き方にあったことになる。人生は奥深いとともに、畏れ多いものである。だから急いでいては見つけることはできない。蔓延するコロナ禍に「正しく恐れる」ことも、地に足着けた慌てない生き方である。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2020/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載

おふくろの味

2020-05-27 19:52:14 | はがき随筆
 妻の入院で、一番困ったことは毎日食べる三度の食事であった。これまで毎日、朝食を欠かしたことはないが、一人で食べると簡単になってしまう。
 阿蘇から熊本市内に通学した高校時代、母が早朝から作ってくれた味噌汁の味は忘れることはできない。そこで今回、妻が退院した機会に味噌汁の作り方にチャレンジした。早速、里芋、ニンジン、玉ねぎなどを購入し、味噌味を加減して作った。たくさんの具を入れた味噌汁は、孫たちにも大変好評であった。味噌汁は日本人の味であり、おふくろの味である。亡き母を思い出すこのごろである。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2020/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

父のこと

2020-05-27 19:45:25 | はがき随筆
 7月に90歳を迎える父は、ひょんなことから今まさに命の崖っぷちにいる。持病もなく認知症も寄せ付けず、すこぶる元気だった父。昨年薫風の頃、ガスが出ないと大腸の異変を訴え、そこから水ぼうそうウイルスによる発熱、坂を転がるように床に就いてしまったのである。
 秋口転倒、膝打撲。半月板にひびが入った。入退院を繰り返すと脚の筋肉はみるみる縮小し、一人では歩けない立てないという状態に。ベッドの中で骨と皮になり枯れていく父を、涙のあふれる目で見守るしかない無力さ。「老い」の現実。父の最後の教えなのか?
 鹿児島県霧島市 白坂功子(62) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

賞味期限

2020-05-27 19:39:03 | はがき随筆
 わさびのチューブは冷蔵庫の内ポケットに転がっていた。賞味期限を調べると、数字が小さく薄れている。拡大鏡を当てると、もはや期限切れ。
 香辛料などスーパーで手に入り、料理にも便利だとあれこれ買いそろえているが、その割には使いきれないまま期限切れもある。それでも庫内だから大丈夫と置いている。いい加減なものだ。
 他の食品もチェックしてみると、アウト品も多い。バターは2箱も入っていて、しかも賞味期限ギリギリだ。「お急ぎください」とカットバターは言いたそうだ。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

緑のグラテーション

2020-05-27 19:31:32 | はがき随筆
 「コロナ」騒動で外出が抑制される中だったが、書類手続きで日向市役所へ出かけた。
 日向路を走るのは5年ぶりだったが、道路幅も改良され、快適にドライブができた。しかも、佐土原の町外れ辺りから、山肌が緑の濃いあり、淡いあり、と見事にグラデーションを見せていた。
 普段は緑一色で何の変哲もない山の景色も、新緑の時季にだけ雑木林が見せる光景だ。杉の植林がひしめく日南海岸では見ることはない。
 運もよかった。が、それも「コロナ」騒動が収まれば、気軽に出かけて見られる光景だ。
 宮崎市 日高達男(78) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔のききめ

2020-05-27 19:24:36 | はがき随筆
 珍しくまた食べたいというのでパンを買いに出かける。先ほどは駐車場には多くの車があったのに今は2台しかない。少々不安。店に入るが人の姿は見えない。この前の場所に1個だけ目的のパンが残っていた。
 ひと回りしてレジに向かうと、ご主人らしき男性が笑顔で対応して下さる。言葉がとても丁寧だ。それ以上に満面の笑顔に人柄を想像する。こんなステキな笑顔には久しぶりに会ったとうれしい。パン作りもさぞ丁寧だろうと想像してしまう。美味しいはず!
 試食用のメロンパンをいただき店を出た。ちょっと冷たい風にパンの香りが。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

新茶

2020-05-27 19:18:28 | はがき随筆
 亡き母が愛飲していた新茶の深むし茶を、妹が持ってきてくれました。母の月命日に封を切り、母のように濃い緑色のお茶を淹れました。
 そのお茶を飲んでいた時、母に散々迷惑をかけていた頃を思い出しました。
 母はどれだけ小言を言いたかったのか、心が痛みます。
 さらに母の死後、私の別れた妻が私の借金をすべて払ってくれ、それで暗かった私の空が急に明るくなりました。
 母はどう思ったでしょうか。今度母に会えたらお茶を飲みながら、本当の気持ちを全て聞きたいと思っています。
 宮崎県日南市 宮田隆雄(68) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

或る物語から

2020-05-27 19:09:59 | はがき随筆
 昔、バビロニアでは王と貴族が民の苦しみをよそに逸楽に耽っていた。宴の夜、不思議な手が現れ壁に文字を書いた。賢者ダニエルが読み解いたのはメネメネ・テケル・ウバルシンという神のお告げである。間もなく王は殺され国は滅びた
……。
 子供の頃に読んだ本のおぼろげな記憶をたどるとその言葉は人の悪行を量り数え滅ぼすという意味のようだ。新型コロナ肺炎に世界中が慄く今この物語は示唆に富む。核兵器廃絶は進まず地球温暖化対策も又然りで、大国は自国第一主義に走る。コロナウイルは人類への神の警告の使者か。神は残酷である。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

80点の壁

2020-05-27 19:01:36 | はがき随筆
 久しぶりに漢字検定を受けようと思っている。初回はまだ昭和の頃、京都にある検定協会が独自に実施していた。高卒・一般の受験目安は、1級または初段。1回目で初段合格。翌年二段の合格証をもらった。
 平成になると、主催団体名も要領も変わり、過去の二段は2級相当。2級と準1級を同日受験し、2級だけが合格だった。
 昭和・平成を経て、4回目の挑戦(あくまで予定)は令和になった。準1級と1級の問題集に向き合っているが、合格ラインの80点に今一つ届かない。
 自信を持って受験申し込みができるのはいつのことやら。
 鹿児島市 本山るみ子(67) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

日常

2020-05-27 18:09:03 | はがき随筆
 3月、突然全国の学校が休校になった。私の地域ではコロナウイルスの感染者は出ず、4月に学校が始まった。朝、学校近くを通ると、制服姿の中学生が連れだった談笑しながら登校している。夕方には運動場や体育館で部活動に励む生徒たちの姿が。元気な息づかいが聞こえてくるようだった。だが、またそれが消えてしまった。日常が奪われてしまった。誰かが奪ったのでなく、誰の所為でもない。
 「欲しがりません、勝つまでは」の時代をを知らない。しかし、絶対に自分たちが、このような日常を奪うことをしてはならないと肝に銘じたい。
 宮崎県日向市 福島重幸(66) 2020/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

不要不急の散歩

2020-05-27 18:00:02 | はがき随筆
 新型コロナウイルス感染拡大で「不要不急の外出は控えましょう」と声高に叫ばれる。寝転がって本を読んだり居眠りしたりで時間をつぶすものの、けっこう持て余し気味の日々。
 ふと気付いたら、しとしと降っていた雨がやみ薄日が差している。家にこもりっぱなしでもしょうがないと外に出た。思い切り伸びをする。つややかな緑を眺め、町内をほぼ一周して足取りも軽く帰宅。30分の散歩に過ぎなかったものの、いい気分転換ができた。どなたにも迷惑をかけたわけじゃないけど「不要不急の外出、自粛しなきゃ」と誰かに言われるケースかな。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2020/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

老いを生きる

2020-05-27 17:42:15 | はがき随筆
 あと数カ月で85になる。以前から私は私に期待していることがある。それは何年生きられるか分からないけれども、せめて老後は清貧で孤高の老いを生きられる人でありたいという期待である。
 日々の生活の中で、活字にも親しみたいし、物も書きたい。僧侶として法話も続けたいし、服装にも気を配りたい。もちろん体調を整えることも老後の生活には欠かせない。
 人生は何年生きたかではないと思う。大切なことはいかにして生きるかではないだろうか。自分自身に対する期待。期待があるかぎり私は生きられる。
 鹿児島県志布志市 一木法明(84) 2020/5/21

父に似る夫

2020-05-27 17:35:38 | はがき随筆
 「お父さん」。そう呼びそうになった。庭を歩いているのは夫である。父が着ていたジャンパーを着ていたからだろうか。散髪したての、トップが少々薄くなってきた白髪交じりの横顔があまりにも父に似ていた。
 義母にも義兄にも似てきた夫である。年を重ねると皆似てくるのだろうか。
 父は生前、夫のことを「明知さんでよかった。一緒に暮らしても優しくて気を遣わんでいいからありがたい。いい人じゃ」といつも言っていた。
 私はその優しい夫と、父をはじめ私を守ってくれる皆に生かされて暮らしていると思う。
 宮崎市 高木真弓(66) 2020/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

友からの便り

2020-05-27 17:29:28 | はがき随筆
 「俊ちゃん」で始まる友からの便りが届いた。ふるさと宮崎を離れて熊本で暮らす私を、この地で「俊ちゃん」と呼ぶ人はいない。この一言でジーンと胸が熱くなる。
 先月、「友への便り」としてはがき随筆にわが家の庭の花たちのことを書いた。それを読んで、スイートピーや金魚草の花が大好きだった父親の「思い出の花」であると綴ってあった。
 私も花を見ると、その花を好きだった人を思い出す。子や孫はどの花で私を思い出してくれるだろうか。桜の散った庭に立ち、行く先を思う友からの便りであった。
 熊本県宇土市 岩本俊子(70) 2020/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載