はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

万年筆

2017-04-29 11:21:17 | はがき随筆
 春の入学シーズンになると頭に浮かぶ。4人弟妹の長子である私に期待も大きく、うれしかったのか、入学祝に父が私には不釣り合いな高価な万年筆をプレゼントしてくれた。当時は若気の至りで、無愛想な返事しかできなかった。入学準備に負担も大きかったであろうに、あのとき素直に喜べなくて、悔いが残る。寡黙な、今は亡き父の優しさに気付くのが遅すぎた。今だったら心から「ありがとう」と言えたのに。万年筆はボールペンに取って代わり、細々と何かしら書き続けられていることに感謝し、研鑽を積んでいけたらと思うのだった。
  鹿屋市 中鶴裕子 2017/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載

モモ

2017-04-28 16:47:21 | はがき随筆


 東京暮らしの長かった姪が、ホーランドロップの耳たれウサギを連れて帰って来た。
 真夏の引っ越しとなり、鹿児島の暑さは高齢のモモへの負担が大きいだろうと、春から我が家で預かることになった。
 ペットのウサギなんて! と思っていたバアバに、モモは、なでて、なでて、抱っこしてと、すり寄ってくる。嬉しいときは横っ跳びで喜びを表現する愛らしさ……。
 思いがけなく楽しい里親体験をさせてもらった。油断するとケーブルを噛み切ったり、いたずらもいっぱいしたが……。
 モモはもう居ない。
  鹿屋市 西尾フミ子 2017/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

親バカ歴史

2017-04-28 16:40:51 | はがき随筆
 指宿から鹿児島市吉野に転居した娘家族に温度計を贈った。室内外の気温を同時に知ることができる。「吉野の冬は寒いと思う。1歳半のユキ君にカゼを引かせないようにね」
 その娘が4歳の3月、内之浦から入来町に転居した。11月の初霜に驚いた私は石油ストーブを入手して使い始めた。と間もなく娘とその妹2人ともカゼを引いた。室内の乾燥と内外の温度差によると判断し、火鉢に変えた。毎日の天気と最高最低温度などを記録していると、おのずと見えてくるものがある。知恵が生まれてくる。「気をつけて見ていてごらん」
  出水市 中島征士 2017/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

もうだいじょうぶ

2017-04-28 16:34:37 | はがき随筆
 この3月に保育園を卒園した男の子の孫が一人で我が家に泊ることになった。泊れそうで泊れなかった前回から久しぶりのチャレンジだった。
 同い年のいとこも泊るので喜々として床についたが、眠れない孫は0時を過ぎた頃「帰りたいよ」と泣き出した。私は途方に暮れたが、孫を抱きかかえて待つしかすべがなかった。やがて泣きつかれた孫は小さな寝息を立てながら眠り、時折私にしがみつきながら朝を迎えた。
 2日目、孫はまた一人で泊ることを決めて親に電話した後「もうだいじょうぶ」と大声を出した。頼もしい姿だった。
  姶良市 中馬和美 2017/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

あの橋で…

2017-04-28 16:19:23 | はがき随筆


 「あの、ウェストミンスター橋て゛テロ?」。信じられなかった。ビッグベン、国会議事堂の目の前。テムズ川かにかかる大きく、長い橋。バッキンガム宮殿、ロンドンアイなども歩いて行ける距離にある。ロンドンの中心部。
 娘と英国2人旅をした際、ウエストミンスター橋のたもとにあるホテルに宿泊。コッツウォルズ、スペインへ足を延ばした。それ以外はこのホテルを拠点に行動した。ウエストミンスター橋を何往復したことか。印象深い橋だ。今、欧州は、いつ、どこでテロが起きてもおかしくない場所になってしまった。
  垂水市 竹之内政子 2017/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

花見

2017-04-28 16:08:20 | はがき随筆
 世は浮世につれても花見は不変である。さて甲突川での花見は雨による会場変更でカラオケになった。川岸の桜を見るために周辺に足を運んだ。開花宣言は出されたが、まだ三分咲きの状態であった。
 それにしても桜を見ていると、儚い運命を感じるのは自分だけであろうか。特攻隊員として敵艦に突入した若者は、いかなる夢を持っていたのだろう。儚の字は人が夢を持つイメージである。
 桜の真実は60年前、校門の桜の木の前で母親と写した古ぼけた写真だけである。
  鹿児島市 下内幸一 2017/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ペンクラブグランプリ

2017-04-23 22:07:11 | 受賞作品


ペンクラブ鹿児島の総会は16日、鹿児島市内で開催され、ペンクラブグランプリの表彰式がありました。
2016年のグランプリに選ばれたのは、本山るみ子さんの「2人でお茶を」です。
二度目のグランプリ受賞となった作品は、歳月を経た、大人の恋を描いた味のある作品です。

流石

2017-04-23 18:38:46 | はがき随筆
 ある日、左の脇腹に鈍い痛みを感じた。生きていればこんなこともあるかと気にしないようにしていたが、だんだん痛みが中央寄りに移動して恥骨のあたりまで来たとき、居ても立っても激痛、あ、尿道結石、病院と思ったが、ふとテレビで見た残尿を流す方法を思い出し、試してみた。数回繰り返したときポトリと音がした。見ると1㌢弱の細いハート形の物体があった。
 流石と思ってしばらく見て流した。ヒリヒリ感が尿道にあったが、痛みはとれていた。石はとっておけばよかったのにと人に言われたが、後の祭り。
  南九州市 林修一 2017/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

平安の姫君

2017-04-23 18:32:38 | はがき随筆
 今、私は鹿児島市のY病院にいる。大けがで搬送されたのだ。私の平安の姫君的生活が始まった。今までなにも考えないでちゃちゃっとやれていたことが、何一つできなくなった。半径1㍍だけが、私が一人で動ける範囲。冷蔵庫のお茶も取れない。ベッドから落ちたペンも取れない。誰かの介助なくば、生きることができない。
 だからあえて、今ばかりは思おう。私「平安の姫君」なのだ、と。彼女たちは、館の奥の帳のなかで、ほぼ一日横たわって暮らしていた。生きるための全ての業を、人任せにして。私はいま、平安の姫君。
  鹿児島市 奥村美枝 2017/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

「山」を登る

2017-04-23 18:25:50 | はがき随筆
 初めて合田雄一郎を見たのは、映画「マークスの山」だった。白いスニーカーを風呂場で無心に洗う刑事である。
 奄美に出張した11年前、宿で機内で文庫を貪るように呼んだ。巻末に「文庫化するに当たり、かなり手を入れた」とあり、初版本が欲しくなった。程なく古本市で見つけて即購入した。
 長く手を付けなかったが、昨年末から読み始めた。細かい文字がびっしり2段組みで並び、結構てごわい。峻険な「山」登りに2ヶ月を要した。高村薫女史の筆致に圧倒されっぱなし。古びた文庫本(上下)にもう一度戻って読み比べてみよう。
  鹿児島市 本山るみ子 2017/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2017-04-23 18:18:46 | はがき随筆
 夕飯を孫娘と一緒に囲んでいると、早くお茶を飲みなさいと、口では表現しないが目で大人じみた合図をくれた。夕飯のメニューはイチゴサラダ。焼き魚、おみそ汁、デザートにリンゴケーキ。後でキッチンに自分用の食器を運んだ。
 湯上りの老母体の腰や膝に湿布を貼ると、そばに座り手伝うと言う。初めは腰にべったりとひっついた。不思議そうな顔して今度は手ぎわよく貼れた。もみじのようなかれんな、いとおしい手のひらと、しわくちゃの手のひらは熱い握手を交わした。優しい孫よ、ありがとう。つぶらな瞳が愛らしい。
  姶良市 堀美代子 2017/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載

おや? まあ?

2017-04-23 18:11:40 | はがき随筆
 大相撲春場所は、19年ぶりに日本人横綱、稀勢の里が誕生し盛り上がっている。
 風説に便乗しテレビ観戦中に、妻が「あの人、義父さんに似ている」と声をあげた。西方花道沿いの前方に、一回忌を過ぎたはずの父? が映っている。
 はげ具合、顔、輪郭の仕草まで似ている。いずこの人か。世の中に3人は似た人がいるというが、画面の人はまるで月が川面に映るかのようにそっくりさんだ。早速姉弟、娘に「父が相撲観戦してる」とメールを送る。「似ている」との返信に15日間は父と会える気分だが、胸奥に母も見たい思いが湧く。  
  出水市 宮路量温 2017/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

川内川の話

2017-04-23 18:03:48 | はがき随筆
 3月13日、「川内川と人々」という題で話をした。場所は「はがき随筆」の総会や研修会がよくある、キャンセビルの会議室。聴いてくださる方は、約40名だった。
 私は、何に焦点を絞ればよいのか不安だった。川の流域で取れる米の量や、文化と歴史。カッパと間違えられたというアカショウビンやトラツグミの声などもテープに録音して聴いてもらった。
 会の後の質疑では、河口付近の原発の温排水などが多く話題になった。
 失敗の巻だったかもしれない。やれやれ、疲れた。
  出水市 小村忍 20174/18 毎日新聞鹿児島版掲載

健さん追悼展

2017-04-23 17:53:59 | はがき随筆


 北九州市立美術館分館で催された高倉健追悼特別展へ。入った途端、壁、天井の6面のスペースに「網走番外地」「昭和残俠伝」の予告編が渦巻くように映し出され,ドスを片手の健さんが迫ってきた。展覧会はデビュー作から遺作となった「あなたへ」まで、205本の名場面を会場に投影するのが目玉。
 特別展は他都市でも開催されるが、北九州展では地元とあって、オリジナル書籍「そこに、健さんがいた。」が発行された。この書籍に私の拙文「『俺は後輩』心の支え」も載った。健さんの面影を追いかけ、記念書籍も購入できた追悼展だった。
  鹿児島市 高橋誠 2017/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載