はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

決別

2020-03-31 11:00:50 | はがき随筆
 大衆理容に行った。私は千円のカット仕上げ。一番安いコースである。在職中は七三分けだったが、退職を機に前髪を切って分けない髪形でお願いした。
 刈られた髪が落ちて行く。薄い髪がこの髪形に耐えられるのか……。不安が湧いたがもう後もどりはできない。「終わりました」の声に、メガネを掛けて鏡の中の自分と向き合った。
 前髪がないので、額があらわになった。また全体的に短めで心細い。だがこれでサラリーマンを脱ぎ捨てられたという決意にも似たすがすがしい気分になった。これからはこの髪形にふらわしい生き方を見つけたい。
 宮崎市 福島洋一(64) 2020/3/31 毎日新聞鹿児島版掲載

友への便り

2020-03-30 17:00:12 | はがき随筆
 お元気ですか。
 桜の花もそろそろという頃になって、新型コロナの影響で生活が一変してしまいました。休校になった小学生の孫2人がやって来て、その宿題、食事、おやつ作りと大変な毎日を送っています。
 そんな中、庭の花たちは頓着なく一斉に咲いています。やってきた乙ちゃんはハサミを持ってパチンパチンと切って花束にして、テーブルに飾ります。赤や白のアネモネ、黄水仙、ムスカリが大きく笑っています。
 早く元の生活に戻りたいと願っているところです。お花見もしたいですね。 かしこ
 熊本県宇土市 岩本俊子(70) 2020/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載


相合い傘

2020-03-30 16:48:50 | はがき随筆
 冷たい雨の降るある夕方、小1ぐらいの男の子2人、相合い傘でキャッキャッと笑いながら跳ねている。黄色い雨靴で水たまりを蹴とばしながら。おしゃべりが楽しいのか、弾ける水が面白いのか。後ろ姿を目で追っていると、また相合い傘が私を追い抜いていく。今度は低い声。近くの市役所勤めだろうか、20代ぐらいの男性が2人。これまた楽し気に話しながら歩いている。大人の相合い傘はさすがに狭くて、はみ出した肩がぬれている。そんなことは気にもせず笑いながら2人。男の子の相合い傘2組。私は心の中でクスクス笑っていた。
 鹿児島県姶良市 福崎康代(57) 2020/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

夕暮れの良寛さん

2020-03-28 16:52:07 | はがき随筆
 夕方前、新コロナ休校で溜まった孫のストレス解消に大淀川河川敷に散歩に出掛けた。
 4人の小学生が堤防で草スキーをしていて、そばで年配のおじいちゃんが見守っている。熱中していたが夕方も近づき、しばらくすると帰って行った。
 しかし、彼らは再び堤防に戻って来た。おじいちゃんが、まだ遊びたいという子供たちの希望を叶えたのだろう。今度は波乗りみたいに立って滑るなどの工夫をして更に楽しんでいる。私も近寄って拍手をした。
 夕暮れまで精一杯楽しんだ彼らは、良寛さんみたいなおじいちゃんと仲良く帰って行った。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2020/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ウオークラリー

2020-03-28 16:42:42 | はがき随筆
 霧島市横川町、丸岡公園を通り過ぎて、さつま町境を右に曲がると、山ケ野金山を支えた「高木」地区がある。幼少の頃祖父母に育てられた住居跡に梅を数本と、河津桜を植え足した。
 正月を過ぎると、この地周辺で歩道の整備、案内板の設置、草刈りが始まる。毎年3月第一日曜日に開催される「山ケ野金山ウオーク」の準備である。しかしながら、今回の「新型コロナウィルス」の関係でこの地域での行事は中止になったと聞かされた。今まで、各地のウオークラリーに参加させてもらっているが、いろんな方のご苦労に感謝している。
 鹿児島市 川畑正和(69) 2020/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

午前10時の映画祭

2020-03-26 18:59:26 | はがき随筆
 「午前10時の映画祭」が首都圏で始まったのは、平成22年。鹿児島で開始された頃は、土日を含め午前中に映画館に行くこと自体難しい勤務体制だった。その後は、新作映画は積極的に観るが、旧作はせいぜい数本程度。昨年4月に第10シリーズの1作目「未知との遭遇」を観たが、今回で一旦終了すると知った。できる限りもれなく観ようという気になり、パートの仕事のない日は、家事や休養より映画を優先。20世紀の名作を改めて鑑賞した。これまで観てこなかった作品も半数近くある。
 終了まであと一本。コンプリートも目前である。
 鹿児島市 本山るみ子(67) 2020/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

会いたいなぁ

2020-03-26 18:24:31 | はがき随筆
 「わたしが5回、あなたが4回」と夫に話しかける。東京に住む4歳の孫娘に今までに会った回数である。
 スマホの壁紙は孫の写真。起きた時と寝る前に必ず声をかける。夫は孫の動画を時々眺めては微笑んでいる。
 長女は共働きの生活に追われているようで、電話にも出ないし、ラインしても既読がつくだけ。同じ東京に住む次女が、たまに様子を伝えてくれる。
 3月に長女に2人目が生まれるという。「こんどの子には会えるかなぁ」「なかなか会えんじゃろうね」何とも切ないじいじとばあばである。
 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(63) 2002/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

注意散漫

2020-03-26 16:52:40 | はがき随筆
 先日年賀はがき下2桁の当選1枚を郵便局に持参した。局員が首をかしげておられる。「どうかしましたか」の問いに「これは去年の年賀はがきですよ」との返事。エッ!返してもらって驚いた。なんと去年の干支が猛進しているではないか。去年と今年のはがきの仕分けを忘れていた。
 2月に入り新型コロナウイルス防御のため、マスクだ消毒液だ、新聞やテレビの情報だと、あわただしい日々が続いた。ウイルスパニックに陥っている自分がいて注意散漫になっていた。冷静な行動をと言い聞かせて局をあとにした。
 熊本市東区 川嶋孝子(81) 2020/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

里帰り

2020-03-26 16:42:11 | はがき随筆
 ……18で上京、47年。65歳で東京を捨て、里に帰って来た。
 夢にまで見た里帰り。でも思っていた里帰りと現実との間にはしっくりこない何かがあった。にぎやかだった商店街が空き地になり、見知った顔が居なくなり、山には高速道路が走り、魚釣りの子らでにぎわった川はやぶに変わり……浦島太郎になった。
 夢であった現実の里帰りから1年。現実を受け入れないといけないと、しっくり来ない心の澱を玉手箱に押し詰め、昔懐かしい記憶と重なる何かを探しながら歩いている。ある訳ないと諦めきれずに……。
 鹿児島県姶良市 近藤安則(66) 2020/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

息子の心にあるもの

2020-03-26 16:27:02 | はがき随筆
 今日は日曜日だ。学校の休業日が続く息子は、父が家にいることで曜日を実感したらしい。
 そんな息子に「今日は理科の授業をするか」と声をかけた。日曜日に「授業」と聞こうものなら顔をしかめるはずの息子から、「うん。いいね」と弾んだ声が帰ってきた。
 早速、ズッキーニの種を買いに出かけた。父が黒いポリポットに土を入れ、息子が人差し指で穴を空けた。一粒、一粒、願い事をしながら土を被せた。「次は、体育の授業をするぞ」と勢いづく父に、「僕には宿題があるから」と息子。息子の心にはしっかりと学校がある。
 宮崎県都城市 平田智希(44) 毎日新聞鹿児島版掲載

5年連用日記

2020-03-26 15:52:24 | はがき随筆
 1冊になった家計簿と日記をつけ始め約50年。その間の日記を読み返すことは殆どない。だが、10年前「5年連用日記」を購入し今年で2冊目が終わる。
 断然良いことは毎日記帳するたびに前年度までの今日を読むことができて、昨日の出来事のように思い出される。ひ孫たち誕生の吉報、成長していく日々の慶事。そして苦い思い出は私の2度の圧迫骨折。何とか無事に日常生活復帰、早朝散歩も継続している。大震災の恐怖は忘れがたく、現在の新型コロナウイルスはいつ終止符を打つのか。来年3冊目に入るが5年間無事に記入できるのかなあ?
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2020/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

モデルに変身

2020-03-25 20:09:02 | はがき随筆
 田野町で恒例の福祉祭りが開かれた。会場は楽しく参加できるように、仕掛けが盛りだくさん。その一つが、ドレス着用自由の「ファッションショー」だ。
 皆で着たら怖くない! とばかりに平均年齢70歳の仲間と試着。少し化粧をしてもらい、髪飾り、手にはブーケを持つと、何といっぱしのモデルに変身だ。
 写真を撮ってもらった人は「結婚式をしなかったから」と、感激の面持ち。私も金地に黒でアクセントした服を選んだ。「きれいよ」の声に頬がゆるむ。
 健康であればこそ、と主催者の粋な計らいに感謝。来年はどのドレスを着ようかな。
 宮崎市 河上久子(71) 2020/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ニワトイ(鶏)

2020-03-24 13:46:36 | はがき随筆
 ふだんから大切な卵、めったに口にすることはできなかった。風邪で寝込んだとき「冬の卵はよくキッ(効く)どお~」と母ちゃんが生卵を飲ませ、本当に一晩で治ったことがあった。我が家では高い縁の下に鳥小屋があって鶏を飼っていた。卵を取りにゆくのはぼくの仕事だったが、昼間はほとんど放し飼いだった。夕暮れになると「トイトイトイ、トイトイトイ」と呼ぶと不思議と小屋に戻ってきた。そして静かな山里に「コケコッコー」と一番鶏が夜明けを知らせてくれていたが、この目覚まし時計も消えてしまった。
 鹿児島県南さつま市 小向井一成(71) 2020/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載

同級生の誉れ

2020-03-24 13:40:00 | はがき随筆
 友人から短い動画と共にメールが来た。国会のワンシーン。
 「これ、〇〇君じゃない?」
 与党側の答弁に立った一人の官僚。同じクラスになったことがない私は卒業アルバムを引っ張り出して、丸顔の少年の姿を見つけた。運動部で難関大に現役合格、在学中に国家試験に通った秀才なのだという。目元に面影はあるが、頬がこけ、やつれて見えるのは本意ではないことを言わされているせいか。
 「同級生の誉になんということをさせてくれるの」。友人のメールには怒りを表す赤い顔の絵文字が添えられていた。私も小さくため息をついた。
 熊本市中央区 岩木康子(53) 2020/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

旅立つ綿毛たちへ

2020-03-24 13:31:43 | はがき随筆
 この春閉校する、とある村の小学校。最後となる行事には他区住人や卒業生まで呼び、名残惜しくも大いに賑わったそうだ。
 皆を未来へ送り出してきた学び舎がその役目を終える。朝霧立ちこめる通学路、子供姿の「飛び出し注意」の看板が寂しげに見えた。歩みを止めぬ川の流れは、無関心さ故か。それとも、空が悲しみから零した涙か。時代の流れを帯びた風は、意図せぬ方へ吹くばかり。
 新天地へと旅立つ、たんぽぽの綿毛のような子供たち。どこへ行こうと根を張って、また花を咲かせと欲しいと願う。
 宮崎県日向市 梅田浩之(27) 2020/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載