はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度入選

2008-06-25 17:42:04 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入選作品がきまりました。
△いちき串木野市上名、奥吉志代子さん(59)の「生きる」(27日)
△大口市上町、山室浩子さん(61)の「日だまりの老猫」(29日)
△鹿児島市伊敷2、福元啓刀さん(78)の戦友忌(11日)
--の3点です。

 「ホトトギス」を主催する高浜虚子が、「山会」という文章の朗読会を開いたことがあります。文章には「山(クライマックス)」がないといけないという考えで、この名をつけました。ここで朗読されたのが、有名な夏目漱石の「吾輩は猫である」の第1編です。「はがき随筆」のような短い文章でも作文法は同じだと思います。優秀作を紹介します。
 奥吉さん「生きる」は、排水口が詰まったので業者に来てもらったら、3㍍もあるサザンカの根が出てきたという話です。何が出てくるかという期待が、気の根っこであったという意外性によってピークに達し、人も生活する、木も生きるという題のつけ方はうまいと思いました。
 山室さん「日だまりの老猫」は、友人の話で、愛猫の治療代がかさんだのでしばらくは「粗食」だというユーモアもいいし、高齢のご母堂を看取り、子供は独立し、今度は愛猫の最期を見届けることだという人生設計(?)も面白いと思います。それを知ってか知らずか、「うらら」はひねもす眠りこけています。
 福元さん「戦友忌」は、飛行学校で訓練を受け、それぞれの任地に別れて行った友に、15歳で戦死されてしまった経験を、毎年5月13日を「戦友忌」として懐かしむ話です。「わが戦友永久に15の八重桜」の句が添えてあります。死者は永遠に若いといいますが、そのようにしか生きられなかった青春もあったのですね。
 印象に残ったものを列挙します。宮園続さん「バトル」(4日)は、電柱に巣をつくる鳥とそれを壊す電工とのいたちごっこが同情をもって描かれています。花園勝政さん「ジャズ再入門」(9日)は、60歳を過ぎたご夫妻がジャズに解放される話です。アート・ブレイキーは私も大好きです。道田道範さん「クサガメ」(26日)は、2人の男の子とクサガメとりに奮闘する、ほほ笑ましい内容です。
(日本近代文学界評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)

係から   入選作品のうち1編は28日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
   2008/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

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