はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

手術から3年

2008-06-19 22:10:26 | はがき随筆
 胃と前立腺のがんを手術して3年4ヶ月が過ぎた。両方とも早期で完全に摘出。転移もなく抗がん剤は使用しなかったが、やはり再発の危険はあり、検査は続けていた。先日、執刀医の先生が一度診せてほしいとのことで大学病院に出かけた。結果はOKということで安心した。
 平均寿命を越え、まだ現役で開業医をつとめているのだから何も言うことはないのだが、死ぬことは誰だって怖い。死の怖さは、死に直面した人にしかわからない。いつまで生きられるか分からないが、いただいた命、最後まで人のため自分のために頑張ってゆきたい。
   志布志市 小村豊一(82) 2008/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載

黒い小さい

2008-06-19 21:51:38 | はがき随筆
 見つけたとき、コジュケイの卵1箇は割れていた。卵の中をのぞくと、充血した目のように血管が縦横に走っていた。
 「この巣に親鳥はもう帰らないと思う」と妻が言う。残った2個の卵を綿にくるみ電気スタンドの熱で温めることにした。時々卵を回したり、霧を吹いたり、妻とともに注意を払った。
 何日目か、ひよこの声がした気がして行ってみると、卵にひびが入ってゆく。そっと手伝い、じっと見守る。くり返す。と、やがて真っ黒いものが現れ、両方とも立ち上がり、元気に鳴き始めた。それは、燃えだした黒い小さい炎のよう──。
   出水市 中島征士(63) 2008/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はridiaさん