小糠雨の中を、どこかの子犬が首ひもを付け、道の中ほどにいて通る車を困らせていた。
そのそばを父は歩いていた。私は父に腰ひもを付けてもらい、ぴったり寄り添って歩いていた。ふいに父は子犬の方に近寄ろうと向きを変えた。危ない。私は腰のひもを握り、止めた。
父は怒らないものと私は思い込んでいた。が一瞬、父は平手で私のほおを張った。
父はアルツハイマー病を患い、私は父の徘徊(はいかい)を受け入れ、付き合っていた。
知を失った場合、どうやってその尊厳は守られるのだろう。父の「自然」に添いたかった。
出水市 松尾 繁(72) 2008/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載
そのそばを父は歩いていた。私は父に腰ひもを付けてもらい、ぴったり寄り添って歩いていた。ふいに父は子犬の方に近寄ろうと向きを変えた。危ない。私は腰のひもを握り、止めた。
父は怒らないものと私は思い込んでいた。が一瞬、父は平手で私のほおを張った。
父はアルツハイマー病を患い、私は父の徘徊(はいかい)を受け入れ、付き合っていた。
知を失った場合、どうやってその尊厳は守られるのだろう。父の「自然」に添いたかった。
出水市 松尾 繁(72) 2008/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載
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