はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

時計のいたずら

2008-06-16 17:14:10 | はがき随筆
 時報は文字盤を見て知るだけの角時計。電池を替え、時刻を調節してしばらくするとピンポーン。聞いたこともなかったのに。寝間に入ってしばらくするとピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。玄関のインターホンと全く同じで、さも急用と言わんばかりに連続で。誰が何用でと身をふるわせて玄関を見ると、人影と見え、とくとくうなる心臓を抑えて、縁側から庭の門扉を見ても動いていない。十三夜の月はこうこうと、近所もまだまだ暗闇で、電話台を探すとまたピンポーンと“半”の時報。古時計の仕業に全身の力が抜けた。
   阿久根市 川畑マスミ(77) 2008/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

二つの光景

2008-06-16 16:42:04 | はがき随筆
 風に乗って勢いよく泳ぐ5匹のこいのぼりと雨に打たれビショビショのそれ。明暗を分けたこの二つの光景を見たら、自分が10歳の時の家族の姿のようで胸にグッときた。青春時代を7年間戦地で過ごした父は、42歳で不慮の事故に遭い、その後遺症で不運な生涯を終えた。苦労知らずで育った母も、父の世話と子ども3人を育てるために自分を犠牲にして苦労した。
 もうすぐ父の命日。2人は今、薫風が吹き渡り、鶯がつややかな声で鳴く墓地で安らかに眠っている。墓前に母が生前、育てめでたアマリリスを供え、魂が永遠に癒されるよう祈った。
   鹿屋市 田中京子(57) 2008/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は南さん