鄭燮板橋は封建時代の士大夫・文人の身分意識をこえて下層階級なかでも農民の辛苦に同情し彼らを愛したから良い人物であるという趣旨の(中身はそれだけではないが)の論考を見いだした。それが今を去ること20年前の論集とはいえ、さすが明清史研究界である。下部構造史観と社会経済史ですべて割り切れる、世界史の基本法則ですべて判ると自信満々の、しかし他分野の中国・東洋史研究者――たとえばいまも活躍中のある碩学――から、「他人(ひと)の論文を読まずにかってなことを言っている人ら」と、30年まえにはすでに笑われていた界隈だ。あの人たちがあまり“ホンを読めない”ことは、自分自身の直接間接の見聞から知っている。いまでも笑われているのだろうか。