語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~

2014年09月22日 | 社会
 『21世紀の資本論』の主張のうち注目すべき第三点は、累進課税の提言だ。
 格差問題解決のための大胆な提言だ。

 ピケティは、格差是正のために最も重要な政策手段は課税だ、とする。そして、①資産と②所得の両方について累進的な税を課することを提唱している。特に重要なのは①の累進資産課税だ。
 累進資産課税の提言に対しては、
  「投資家のインセンティブを弱め、経済成長を阻害する」
という新自由主義者にお決まりの批判が想定される。しかし、ピケティの歴史分析が鮮やかに示したように、第一次世界大戦後から1970年代前半までは、累進課税や資本市場に対する強い規制にもかかわらず、経済成長率は記録的に高かったのだ。
 逆に、第一次世界大戦まで(ベル・エポック期)、また1970年代末以降の新自由主義の時代は、より自由な資本市場と格差社会の下で資本収益率は高かったが、経済成長率は低かった。
  「資本収益率を高め、投資家がより儲かるようにすれば、より高い経済成長が見込まれる」
という新自由主義者の経済理論は、すでに反証されている。そんな理屈は、一部の富裕層による富の独占を正当化するためのレトリックに過ぎない。

 グローバルな累進課税というピケティの提案について、これを実現不可能だ、と批判することは容易だ。
 しかし、そんな批判は的を射ていない。なぜなら、ピケティ自身が、グローバルな累進課税がユートピア的だ、と十分招致しているからだ。
 彼は問題を明らかにし、議論を喚起するための便宜的な手段として、かかる提案をしているのだ。
 もし、グローバルな累進資産課税が最善であっても実現困難だ・・・・というのであれば、次善の策の実現可能性について検討すればよい。
 大事なことは、資本主義には格差を拡大する原理が内在しているのであって、その格差の是正はグローバル化によっていっそう困難になっている、という問題意識を持つことなのだ。

 30年以上に及ぶ新自由主義の支配が、ついに終わりを迎えつつある。
 『21世紀の資本論』が我が国でも邦訳されたら、かなりのインパクトを与えるだろう。昨今の経済政策をめぐる議論に関連させて整理すれば・・・・
 (1)ピケティが最も重視する政策は、資産や所得に対する累進課税である。よって、次のような税制改革は、格差の拡大を増幅されるものだと却下される。
  (a)逆進的な消費税の引き上げ。
  (b)累進的な法人税の引き下げ。

 (2)資本収益率が経済成長率を常に上回るという法則が成り立つならば、自己資本利益率の向上を目標とした経済成長戦略は、格差拡大を助長する結果となる。次のような政策は望ましくない。こうした成長戦略がもたらす株主資本主義は、経済成長をかえって困難にする。
  (a)規制緩和による資本市場の活性化。
  (b)株主の発言力を強めるような制度改革。

 (3)(1)-(b)によって海外資本を自国に呼び込むなどという発想に至っては、二重の意味で間違っている。むしろピケティは、グローバルな法人税引き下げとは正反対に、グローバルな累進課税や租税回避防止策の強化を提言している。

 (4)金融政策を中心としたマクロ経済運営というパラダイムも最高を強いられる。金融緩和には、資産価値の上昇によって軽罪成長を促す効果が期待されている。
 しかし、「税引き後の資本収益率(r)」は「経済成長率(g)」を常に上回り続ける(r>g)という法則に従うならば、資産価値は国民所得を上回るペースで上昇してしまうから、金融資産を多く持つ富裕層への富の集中を助長する結果となろう。
 ピケティは、『21世紀の資本論』の中で、世界金融危機(2008年)以降、各国中央銀行が行った金融緩和に言及しつつ、中央銀行には金融危機を防止し、金融システムを安定化させる機能はあるが、企業の投資や家計の消費を強制して経済成長を実現することはできないと論じている。

 要するに、『21世紀の資本論』は、現在の日本における主流の経済政策論を根本的にくつがえす本だ。
 それが米国では飛ぶように売れているのだ。

□中野剛志「「21世紀の資本論」 新自由主義への警告」(「文藝春秋」2014年10月号)
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 【参考】
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~



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