語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】岩田宏「感情的な唄」

2015年07月24日 | 詩歌
 学生がきらいだ
 糊やポリエチレンや酒やバックル
 かれらの為替や現金封筒がきらいだ
 備えつけのペンや
 大理石に埋まったインクは好きだ
 ポスターが好きだ好きだ
 鳩
 極端な曲線
 三輪車にまたがった頬の赤い子供はきらいだ
 痔の特効薬が
 こたつやぐらが
 井戸が旗が会議がきらいだ
 邦文タイプとワニスと鉄棒
 ホチキスとホステスとホ-ルダー
 楷書と会社と掃除と草書みんなきらいだ
 脱糞と脱税と駝鳥と駄菓子と打楽器
 背の低い煙草屋の主人とその妻みんな好きだ
 バス停留所が好きだ好きだ好きだ
 元特高の
 古本屋が好きだ着流しの批評家はきらいだ
 かれらの鼻
 あるいはホクロ
 あるいは赤い花あるいは白い瘤
 または絆創膏や人面疽がきらいだ
 今にも泣き出しそうな教授先生が好きだ
 今にも笑い出しそうな将軍閣下がきらいだ
 適当な鼓笛隊
 正真正銘の提灯行列がきらいだきらいだ
 午前十一時にぼくの詩集をぱらぱらめくり
 買わずに本屋を出て
 与太を書きとばす新聞社の主筆がきらいだ
 やきめしは好きだ泣き虫も好きだ建増しはきらいだ
 猿や豚は好きだ
 指も。 

□岩田宏「感情的な唄」(『頭脳の戦争』(思潮社、1962)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知


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