語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道

2014年02月21日 | 社会
 (1)安倍首相の肝いりでNHKの経営委員を人選し、その彼らが同意した新会長・籾井勝人が、1月25日、記者会見を行った。
 関心は、安倍政権との距離のとり方に集中。
 籾井は、放送法を厳正に順守していきたい、と強調したが、その舌の根も乾かぬうちに、「領土問題」、「慰安婦問題」、「靖国問題」、「特定秘密保護法」などで馬脚を露わした。

 (2)午後7時のNHKニュースでは、1分間、「新会長は、不偏不党や公平をうたった放送法の順守に努め、国際放送の充実を実行に移すと述べた」とアナウンサーが原稿を読み、籾井の肉声は伝えなかった。

 (3)しかし、翌日の各紙は、籾井・新会長の発言をこぞって取り上げた。
  (a)朝日新聞・・・・国際放送との関連で、籾井は尖閣諸島、竹島などの領土問題について「明確に日本の立場を主張するのは当然。政府が右ということを左というわけにはいかない」と発言したと報じ、政府見解の代弁ともとれる発言が目立った、と論評した。
  (b)毎日新聞・・・・NHKと安部との因縁浅からぬ慰安婦問題について、籾井が「戦争地域にはどこにもあったと思う。・・・・韓国は日本だけが強制連行したように言うから話がややこしい。日韓基本条約で(保障問題は)全部解決している」という発言内容を伝え、経営委員の一人から「外交問題に発展しかねない」という談話を取った。
  (c)読売新聞・・・・慰安婦問題について、籾井が、「会長の職はさておき」と断った上で話したことに対して、記者の一人が「会長の職はさておき、というが、公式の会見だ」と指摘すると、「全部取り消します」と開き直った。それをお読売紙は、「個人的見解としつつ、いわゆる従軍慰安婦問題に関して」と表現を和らげて伝えた。
  (d)東京新聞・・・・「どこの国でもあったことですよね」と言った籾井の姿に、「安部晋三首相の影が重なる。2001年に教育テレビ(現Eテレ)の番組が放送前に、当時官房副長官だった安部首相から『公平公正に』などと注文が付き、大幅な改変が行われて放送された」と踏み込み、NHKと安部政権との危うい関係を指摘した。

 (4)放送の編集権を握るNHKの会長が、「放送法の順守」、「公平中立」言うことは当たり前のように聞こえるが、政治家からこの規範が持ち出されれば、放送現場は、内容に偏向があると指摘されたと受け取る。
 安部が、かつて「公平公正に」と言ったことを、籾井が「放送法の順守」と言い換えただけなのだ。

 (5)安部は、このところ外遊を頻繁に繰り返している(米国・中国・韓国以外)。
 NHKは、あたかも政府広報機関であるかのように「地球儀俯瞰的外交」に随行し、逐一、首相の動向を伝えている。中でも、1月9日から15日にかけて行われた中東・アフリカ歴訪には、国内メッセージが多く込められていた。首相は、ほとんどの訪問先でインフラ整備のための資金援助を約束し、その見返りとして日本企業の進出の機会を獲得するトップビジネスを展開した。
 しかし、この地域の安全はカネだけでは買えない。ちょうど1年前、1月16日、アルジェリアの日本企業の従業員が人質事件に巻き込まれた。このタイミングを狙いすましたように、現地の治安当局と情報交換をする日本版NSCの必要性が強調された。
 NHKは、まさに安部首相の帰国に合わせるように、16日朝のニュースで、日本版NSCと国家安全保障局設置の緊急性を支持する内容を放送した。スタジオには、安部に一番近いと噂される政治部の記者が登場し、アルジェリア人質事件を引き合いに解説し、安倍政権はイギリス、米国などのNSCと治安情報を共有するために関係を強化することにしている、と述べた。
 しかし、この記者は、アルジェリア政府が「テロリストと交渉せず」という姿勢を取っていたことに触れなかった。事実、双方の死者は50人以上にのぼり、アルジェリア内戦とその後の事情を少しでも知っていれば、あの事件を「007」もどきの図式で説明することはできないはずだ。
 同じ日に放送された「海外ネットワーク」では、別の記者が、「イスラム過激派は体の弱ったところに入るウィルスのようだ」とコメントしていた。こういうのを幼稚で傲慢な偏向報道というのではないか。

 (6)時代錯誤の会長と、社会をスパイ小説仕立てで見るような職員が合体したら、どういうことになるか。
 NHKは、安部の「未来志向と歴史修正主義」のグロテスクな融合を積極的に引き受けることになるのか。
 危機状況は、「<より小さな>悪(レッサー・イーヴル)は戦うに値しないという結論が生じるときに始まる」(ハンナ・アーレント)という言葉をかみしめてみる必要がある。

□神保太郎「メディア批評第75回」(「世界」2014年3月号)の「(2)春爛漫、安部カラーは乱調にあり」
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 【参考】
【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~


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