【詩歌】丸ビル風景 ～正午～

　ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
　ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
　月給取(ゲッキュウトリ）の午休(ヒルヤス)み、ぷらりぷらりと手を振って
　あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
　大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
　空はひろびろ薄曇(ウスグモ)り、薄曇り、埃(ホコ)りも少々立っている
　ひょんな眼付(メツキ)で見上げても、眼を落としても・・・・
　なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
　ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
　ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
　大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
　空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな

□中原中也「正午　丸ビル風景」（『在りし日の歌』（創元社、１９３８）所収）
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