花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

「空中ブランコ」奥田英朗

2010年07月25日 | わたくしごと、つまり個人的なこと
          
奥田英朗さんの「家日和」のことは前に書いた。面白かった。
「空中ブランコ」が直木賞を取っていたので、精神科医 伊良部一郎シリーズの最初「インザ プール」を買い求めて読んだ。このシリーズは「空中ブランコ」「町長選挙」の三部作になっている。第一作も一気に読んだ。面白い。
図書館に出かけたついでに、ダメモトで「空中ブランコ」を検索した。あった。書棚を覗くと、なんと、すべてが揃っていた。「町長選挙」は二冊ある。上下刊と間違え二冊ともカウンターに出したら「これ同じ本です。奥田さんの本 ほかに探しましょうか?」とご親切にもアドバイスいただいた。自分は興奮していたのか?
注射フェチでマザコンの奇妙な医者。下膨れで、二重あご、大きな鼻の穴を覗かせガハハと笑うこの医者が、破天荒でとてつもなく面白い。そこに訪れるさまざまな患者。空中ブランコに乗れなくなったサーカス団員・尖ったもの恐怖症のヤクザ・スランプに落ちいった小説家・携帯依存の学生・破壊衝動性の医者・勃起が収まらない男まで、いろんな患者が気の病で訪れる。
精神科医 伊良部一郎は「いらっしゃ~い」と黄色い声で患者を迎える。そして、とんでもなく興味を示し、患者と一緒になって行動に移す。夜中のプールに忍び込む、教授のかつらを剥ぎ取ろうとする、ヤクザの親分になって仲裁に出向く、空中ブランコをする、小説を書く、草野球に興じる。何の屈託もなく、患者からの軽蔑にもめげず、まるで子供のようにはしゃぎまわる。
いまの世知辛い社会を生きる者への特効薬として、伊良部のような治療法も有効なのだと思う。多分“癒し”なのだろう。
快方に向かう患者たちの姿で、物語は終わっていく。
壁にぶつかった小説家愛子。しかし、
「そう、ありがとう」愛子は心から言った。飛び上がりたいほどのうれしさだ。
「それだけ。またああいうの、書いてください」
「うん、書く。今日から書く」
マユミが小走りに去って行く。なによ、もっと話そうよ。この愛想なし。
でも感激した。わざわざ追いかけて言ってくれたのだ。胸が熱くなってきた。
人間の宝物は言葉だ。一瞬にして立ち直らせてくれるのが、言葉だ。その言葉を扱う仕事に就いたことを、自分は誇りに思おう。神様に感謝しよう。
「えーい」愛子は二段飛びで階段を駆け上がった。そのまま外に出ても走った。
「いやっほー」ジャンプした。