笑顔と目標

またまた出九根達郎氏にご登場願う。本の名は「まかふしぎ・猫の犬」。出九根さんが古書店の店員になった若い頃、番頭さんにこういわれた。
「笑顔で客に対すること。口下手も笑顔が帳消しにしてくれる。あきんどは、幸せを売るんだからね」自然な笑顔は難しい。自分で商売をして始めて笑顔が出た。売った商品がお客様に喜ばれたとき、意識せずに出た。客の幸せは、私の幸せであったと書いてある。
商店街にも笑顔が欲しい。何しろ元手がかからない。笑顔と対話で好感が持てれば、またお客様は街に訪れる。お客の立場になって商品を勧めよう。わかってはいるが時々忘れてしまう。長年商売をしていると、客の第一印象で態度を決めてしまう。悪い癖だ。
出九根さんは、こだわりの豆腐やさんの話を知人から聞いた。看板どおり値段は高いが味は良い。最初は結構評判になり売れていたが、まもなくさびれた。あせった店主は値を下げた。けれど売り上げは伸びず、結局、店を閉めた。
こだわりのお店は、なぜ閉店に至ったのだろうか。近所に昔からの豆腐屋さんがあって営業を続けている。味は劣っていたが挨拶に威勢が良かった。いらっしゃい、お早うございますの挨拶。
こだわりの豆腐屋さんは愛想が悪かった。食べてくれればわかるという名人かたぎのところがあったのだろう。「豆腐がおいしいのは分かる。けれど豆腐だけじゃないよな、商売って」そう知人は言ったそうだ。
オイラの近所にも「すわとん」というトンカツ屋さんがあった。串が１０円カツが３０円。それだけで商売をしてみえた。繁盛していた。秘訣は挨拶にあった。店頭で親父さんがいつもカツを揚げていた。前を通る人に大きな声で挨拶をする。挨拶をされた人は、今夜のおかずはカツにしようかなと考えざるを得なかっただろう。
あまりいい話ではないが、出九根さんはこの本で「町が消える」というエッセイを載せている。懇意にしていた呉服屋さん、威勢のいい売り声の魚屋さん、懐かしい味のコロッケ屋さん。最近こういったお店が閉じて、携帯などを扱う新しい店に様変わりしているという。商売特有のコツというものが継承されることなく消えていくことを嘆いてみえる。
ご当地四日市も例外ではない。あの商店街へ行くとほっとする。楽しいからまた出かけてみよう。そう感じてもらえるような人情味あふれる通りにしていきたいものだ。と、理想が大きすぎますか？
こんなことも載っていた。野球選手のイチローがシアトルで小学生相手に講演をした。イチローは尋ねる。
「あなた達の中で、将来、野球選手になりたい人はいますか？私は１０年後、野球を続けているかどうかわかりませんが」そしてこう結んだ「人生で、最も大切なことは目標を持つことです」
目標を持つ。今、ご当地スワマエで欠けていて、そして最も大切なことじゃないでしょうか。