安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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【管理人よりお知らせ】9月3日、運輸審議会主催のJR北海道の運賃値上げに関する公聴会で、安全問題研究会代表が公述します

2024-08-21 22:55:50 | 鉄道・公共交通/交通政策
この件は、本来であれば事前発表せず、終了後に報告のみ行う予定にしていましたが、北海道内をメインに活動している鉄道系Youtubeチャンネルによって事前報道されてしまったことから、この際、安全問題研究会としてやむを得ず発表に踏み切ります。

JR北海道が2025年4月からの実施を目標として、現在、鉄道事業法に基づく運賃上限の変更認可申請を国土交通省に対して行っています。この運賃上限変更認可申請を審議する運輸審議会(国土交通大臣の諮問機関)が主催して、一般市民の意見を聴くための公聴会が、9月3日、札幌市内で開催されます。

北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の開催概要について(国土交通省)

この公聴会で、安全問題研究会代表を含む4人の公述人が意見公述を行います。

4人の公述人の公述書は国土交通省ホームページにおいて既に公表されています(北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の公述書について)。お読みいただくことでご理解いただけると思いますが、今回の意見公述において、安全問題研究会は、島田修JR北海道会長及び綿貫泰之JR北海道社長に対し、公式に辞任を求めます。

この間の経緯や、公聴会の概要、当研究会代表を含む4人の公述人の意見公述内容については、以下のYoutubeチャンネル「【北海道】乗り物大好きチャンネル」が報じています。

JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ・・・一連のJR北海道の経営姿勢に疑問の声が続々!


運輸審議会主催の公聴会には、申請内容を説明するため、申請した鉄道事業者の代表が出席するのが通例となっています。前回、2019年の運賃値上げに先だって行われた公聴会では、JR北海道から島田修社長(当時)が出席しました。今回も綿貫社長が出席するものと考えられます。ただし、島田会長は出席しない可能性もあります。

当研究会が、今回の公聴会の場で、JR北海道会長・社長の「経営ツートップ」に対し、本人(特に綿貫社長)が出席している面前で辞任要求を突きつけたいと考えるようになったのは、根室本線・富良野~新得の廃線が強行された今年3月のことでした。北海道民共有の交通ネットワークである鉄道網を破壊し続けるJR北海道の経営陣には潔く職を辞していただき、同社が新体制で解体的出直しを行う以外に、北海道の鉄道が復活する道はありません。

なお、以下、当研究会代表の公述書全文を掲載します。当日の意見公述も、この通りの形で実施する予定です。

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 北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)が申請した鉄道旅客運賃・料金の上限変更認可申請に対し、意見を公述します。

 私は前回、2019年のJR北海道の運賃値上げの際にも公述し、反対いたしました。それから5年が経過し、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化も生じています。しかし、一部容認という選択肢がなく賛成・反対から選ばざるを得ない以上、5年前と同様、反対の立場を表明せざるを得ません。

 今回の私の公述内容は主に3点あります。1つ目は、定期運賃割引率の縮小についてです。2つ目は、JR北海道のこの間の経営姿勢についてです。3つ目は、繰り返しになりますが、5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題についてです。以下、順に述べます。

1.定期運賃割引率の縮小について

 私が最も強く反対せざるを得ないのは、定期運賃の割引率の縮小です。

 旧運輸省鉄道総局時代の1948年に制定された国有鉄道運賃法第5条は「定期旅客運賃は、・・・普通運賃の百分の五十に相当する額をこえることができない」と定めていました。この法律は国鉄分割民営化によるJR発足とともに失効していますが、それでもJR北海道を含むJR各社は、定期運賃を普通運賃の半額以下に抑えてきました。

 私鉄各社における定期運賃の割引率は、普通運賃に対して3割程度の会社が多い中、JR各社が高い定期運賃割引率を維持してきたことは、国民の鉄道といわれた旧国鉄が持つ公共性をも引き継いだものであり、特にJR北海道が経営難に陥りながらも、この高い割引率を維持してきたことを私は高く評価しています。この割引率は今後も維持されるべきであると考えます。

 特に、通学定期運賃の1割近い大幅引き上げは、ただでさえ学校の統廃合が進み、子どもたちの通学時間が延びる中で、地域にとって大きな痛手となります。通勤定期の値上げも痛手ではありますが、多くの企業が通勤手当を支給しています。定期運賃が値上げされても、大人が受ける影響が限定的であるのに対し、子どもたちが値上げの影響を、緩和措置もないまま直接かつ全面的に受けるような手法は、社会的に弱い層により大きな負担を強いるという意味でも認めることはできません。

 5年前の公聴会における島田修社長(当時)の発言内容を私は今もはっきり覚えています。「通勤通学のお客様への定期運賃の割引率は、従来通り維持しますので、どうか、運賃引き上げをお認めくださいますようお願い申し上げます」と、島田社長は公述しました。

 冒頭にも述べたように、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化はあるとしても、定期運賃の割引率を引き下げる今回の申請内容は、5年前、島田社長がこの公聴会の場で約束したことを覆すものであり、この点からも認めることはできません。

2.JR北海道のこの間の経営姿勢について

 1986年11月28日、国鉄改革関連8法案が参議院国鉄改革に関する特別委員会で可決された際の附帯決議では、国とJRグループ各社に対し「経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のため万全を期すること」が求められています。最近のJR北海道は「経営の安定と活性化」「収支改善」「地域鉄道網の健全な保全」「利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持」のうち1つでも達成できたものがあるでしょうか。惨憺たる状況と言わなければなりません。

 駅の廃止はJR北海道の春の恒例行事になっていますが、鉄道会社は客商売であり、多くのお客様にご利用いただくためには出入口の数は多いに超したことはありません。魅力的な商品が棚に陳列されていても、お客様が店内に入れないのでは売上げを上げることはできません。新型コロナ発生以降、日本の鉄道は新幹線を除いて低落傾向にありますが、そうなったのは「出入口」である駅を粗末に扱ったからです。みどりの窓口の営業時間縮小や列車の減便も相変わらず続いています。

 「地域鉄道網の保全」に関してはさらに事態は悲惨です。1981年の石勝線開通まで、札幌と釧路・根室を結ぶ大動脈であり、北海道の中央部に位置する根室本線・富良野~新得を、災害から復旧させないまま断ち切ったのは、日本鉄道史に残る愚行と言わざるを得ません。また、新幹線札幌延伸後、並行在来線となる函館本線小樽~長万部間(通称「山線」)のうち小樽~余市間は輸送密度が2千人を超えています。廃止後の転換バスの運行を、人手不足を理由にバス会社が拒否しているにもかかわらず、JR北海道が廃止の既定方針を変えないのは、地元住民の生活の足を守るべき公共交通事業者として失格です。

 今年春のダイヤ改正から、「カムイ」「ライラック」を除く全列車から自由席車がなくなり、全車指定席化されました。自由席割引切符(Sきっぷ)も廃止された結果、割引がなくなり運賃・料金が2倍近くに跳ね上がったケースもあります。JR北海道は、事前予約すれば割引になる「えきねっとトクだ値」サービスの利用を盛んに呼びかけていますが、出張では行きの時間は予測できても帰りの時間は予測できないことが多く、またお葬式など急に利用が必要になることもあります。JR北海道はお客様のニーズをまったく把握できていないと言わざるを得ません。

 駅の窓口だけでなく駅そのものも、列車も、自由席も、割引制度も、ローカル線もすべて減らす。このような不便をお客様に強いた上で、なぜ値上げでさらなる負担をお客様に求めなければならないのでしょうか。

 綿貫泰之社長は、特急「すずらん」がガラガラ状態であることに対し、記者から質問が出ると、全車指定席化からまだ半年であるにもかかわらず「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と発言し、快速格下げを示唆しています。すべてが行き当たりばったりのその場しのぎです。JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思います。綿貫社長就任(2022年6月17日)からわずか2年なのに、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長-綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な現れです。私は、サービス低下と負担を一方的に押しつけられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするよう望みます。

3.5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題について

 5年前の公聴会において、私は、JR旅客会社6社間に大きな経営格差が存在し、JR北海道の値上げのたびにその格差が拡大していること、北海道で生産された農産物の多くが鉄道貨物を通じて全国に運ばれ、その恩恵は全国にあまねく及んでいるにも関わらず、冬の除雪費用をはじめとする線路維持のための費用を、北海道民のみが日本一高い運賃料金収入を通じて負担していること、国土交通省の指針で定められている「アボイダブル(回避可能)コストルール」により、JR旅客会社6社がJR貨物に対し、貨物列車が走ることにより新たに発生する最低限度の費用以外を請求できないこと、このため、特に新型コロナ発生前に100億円の利益を上げていたJR貨物を、483億円の赤字を計上しているJR北海道が支えなければならないことなどを指摘しました。JR北海道の経営を苦境に追い込んでいる、このような矛盾だらけの前提条件を改めるよう、私は5年前のこの公聴会でも求めましたが、抜本的改善は行われていません。これが、今回の運賃値上げに私が反対せざるを得ない3つ目の理由です。

 これらはいずれも国鉄分割民営化当時に行われた制度設計によるものであり、JR北海道には何らの責任もありません。JR北海道ではどうすることもできない不利な外的要因により、北海道民だけが負担を押しつけられる不公平が、この先、いつまで放置され続けるのでしょうか。

 大型バスやトラックの運転手が不足し、人も物も運べなくなるといわれる「2024年問題」が注目を集めているのに、全物流に占める鉄道の比率はわずか5%にすぎません。鉄道をもっと物流に活かす道はないのでしょうか。世界中からインバウンドが日本に殺到する中で、観光客と鉄道との共生をはかる手段がもっとあるのではないでしょうか。新しい時代に即した鉄道の役割を議論しないまま、安易に値上げ、減便、廃止でいいのでしょうか。

 旧国鉄は、1949年6月に発足し、1987年3月まで38年間の歴史でした。JRも1987年4月に発足し、今年で37年です。JRグループ発足から、すでに旧国鉄時代と同じ時間が流れました。日本にとっての鉄道はどのような姿であるべきか、鉄道は誰のために、何を目的として走るべきか、再び基本に立ち返って全国民的に議論すべき時を迎えていると考えます。

 安全問題研究会は、2021年1月、全国JRグループ6社を、旧国鉄時代のように全国1社制に戻すための「日本鉄道公団法案」を発表しています。さらに、大塚良治・江戸川大学教授は、JRグループ6社を、日本郵政グループやNTTグループのように持株会社の下に再編することを通じて、利益を上げている会社が赤字の会社を支える新たな制度設計について提案しています。

 運輸審議会が、運賃値上げを論議する諮問機関の役割にとどまることなく、鉄道をはじめとする交通政策、総合交通体系についても議論することによって、新しい時代の公共交通のグランドデザインを描く役割をも担う場として機能していくよう、委員各位にお願いを申し上げ、私の公述を終わります。

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