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第88回選抜高校野球大会を振り返って

2016-04-01 22:33:04 | 芸能・スポーツ
当ブログ恒例の高校野球大会講評。少し時間が経ってしまったが、大会の余韻が残っているうちに書き留めておくことにしよう。

まず、智弁学園(奈良)の優勝が春夏を通じて初めてというのは、長年高校野球をウォッチしている身としては意外な気がする。甲子園と言えば智弁、智弁と言えば甲子園というくらいに両者の関係は深く、甲子園を縦横無尽に駆け回る智弁の赤い文字なくして球史を語ることはできないくらい、高校野球ファンにはおなじみだからである。「智弁=常勝チーム」の印象が強いのは、兄弟校である智弁和歌山のイメージも大きい。甲子園での対戦成績も、智弁和歌山が上回っている。

今大会は、久しぶりに西日本勢が気を吐いた大会だった。8強が智弁学園(奈良)、滋賀学園(滋賀)、龍谷大平安(京都)、明石商(兵庫)、秀岳館(熊本)、木更津総合(千葉)、高松商(香川)、海星(長崎)。木更津総合以外の7校はすべて西日本勢だった。8強に西日本勢が7校、うち4校が近畿勢というのは、いずれも近年では珍しい。このどちらも前回はいつだったか、球史をかなり遡らなければ見つけられないと思う。特に、近畿勢は最近では8強にまったく残れないことも少なくなかっただけに、この成績は特筆すべき出来事だ。1回戦段階で西日本勢同士の対戦が多かったことが原因かとも思ったが、21世紀枠同士の対戦となった大会3日目の小豆島(香川)―釜石(岩手)戦のように、東西対決となった試合も一定程度、西日本勢が勝っている。

だが、この結果をもって「西日本勢の復権」と結論づけるのは早そうだ。どちらかといえば、西日本勢の優位というより、東日本勢のレベルが例年ほど高くなかったことが、相対的に西日本勢を浮上させたのではないか。ここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いだった東北勢も早々と敗退する学校が目立った。暴投など記録に表れないプレーも目立ち、完成されていないチームが多かった印象だった。ここ10年ほど、高校野球は東日本勢優位の大会が続いており、東日本勢の地方大会を含めたレベルの底上げもはっきり見えている。今大会に出場した東日本勢の多くは、チームの強化に努めなければ、このままではほとんどが夏の大会には出場できないだろう。

相対的に東日本勢のレベルが例年より低かったとする当ブログの分析にはそれなりの根拠がある。今大会2日目(3月21日)、1回戦の八戸学院光星(青森)―開星(島根)戦で、2回裏の攻撃中、1塁走者が2盗した際、2塁に投球しようとした開星の捕手の前に、三振を喫した光星の打者が立ちふさがり、守備妨害となるシーンがあった。同様のシーンは、大会7日目(3月26日)の第3試合、2回戦の木更津総合―大阪桐蔭戦でも見られ、木更津総合の打者が守備妨害でアウトとなった。

こうした守備妨害などの反則行為で打者がアウトにされるのは、甲子園の高校野球では通常、1大会に1度あるかないかの珍しいプレーだ。当ブログ管理人は平日日中は仕事のため、甲子園大会をリアルタイムで観戦できるのは土曜、日曜、祝日に限られる。当ブログ管理人が観戦した日に限っても、今大会、東日本勢の随所にこうした巧拙以前の雑なプレー、対戦相手への敬意やフェアプレー精神に欠けるプレーが見られたことは、東日本勢のレベルが例年より低かったことを示す何よりの証拠である。勝つチーム、勝てなくても観客席のファンに爽やかな印象を残すチームは、ひとつひとつのプレーをていねいにこなすことから生まれる。守備妨害などの反則行為をしたチームは、心してていねいなプレーをするよう、チームを再建してほしい。

1~2回戦段階では、ロースコアの接戦が多かったが、一部に極端なワンサイドゲームもあった。ロースコアの試合が多かったことは、総じて、打撃力が完成されていないことを意味している。

今大会は、春の選抜としては好天に恵まれた。風の強い日、雨に見舞われた日もあったが、総じて日程消化は順調に進み、雨天順延は1試合もなかった。球児にとってはプレーしやすい環境だったといえよう。

当ブログの高校野球大会講評では、毎回、甲子園の中だけでなく、それを取り巻く社会情勢などにもコメントしている。高校野球大会も社会の一部であり、社会と遊離しては存在できないとの思いからだ。その中で、触れておかなければならない残念な出来事が今大会でも2つあった。

ひとつは、大会直前になって発覚したプロ野球での賭博問題だ。職業野球、商業野球と教育活動の一環としての高校野球ではそのあり方が異なるとはいえ、同じ「野球」という名称を使用している以上、プロ野球の影響は陰に陽に高校野球にも及ぶ。最初に賭博問題が発覚した巨人の球団編成代表が「お金をかけなければモチベーションが上がらない」などと賭博に関わった選手を擁護する発言をしていることも、一般社会の感覚とはかけ離れている。賭けた金額が少額であれば良いとの擁護論もあるが、日本の刑法は1円でも賭ければ賭博罪が成立することを規定しており、警察当局も賭け事をしないようたびたび呼びかけている。法律違反の賭博行為が蔓延するプロ野球界の実態もさることながら、選手も、球団上層部も、そして日本プロ野球機構も、ほとんど誰も責任を取らず、何食わぬ顔でシーズンに突入していくプロ野球界の腐敗に、そろそろ誰かがメスを入れる時期に来ていると思う。プロ野球界に自浄能力がないならば、当局にその解決を委ねることも今後は考えなければならないだろう。こうしたプロ野球の実態を見て、高校球児たちがどのように感じているのか気がかりだ。

もうひとつは、滋賀県議による滋賀学園の選手たちへの暴言事件だ。開会前の3月16日、激励会のために滋賀県庁を訪れた同校送迎バスの停車位置に激怒し、吉田清一滋賀県議が滋賀学園の選手たちに向かって「お前らなんか1回戦負けしろ」と暴言を吐いた問題だ。本人は「叱り方の一形態」だと弁明しているようだが、選手たちを成長させる上では何も好影響を与えない鬱憤晴らし的表現に過ぎないし、そもそも滋賀学園のバスがその場所に停車していたのは県教委の指示だったとする報道もある。全都道府県から代表校が送られる夏の大会ほどではないが、春の選抜も出場校は郷土代表であり、地元の人たちはそれを誇りに思っている。吉田県議は自民党会派所属だが、地元と郷土を何よりも重んじる保守政党の議員とは思えない。事実関係を確認もせず、短絡的に発言をする人物が地元政界にふさわしくないことは自明だ。

もともと滋賀県議会の自民党議員団は、嘉田由紀子前知事への対応をめぐって揺れた後、分裂騒動も起きた。嘉田知事の引退後は勢力を回復しつつあり、県議会のサイトを見ると、いつの間にか単独過半数に1議席足りないだけの最大会派に復帰。公明党県議団と合わせれば、中央の与党(自公)の枠組みで過半数を制している。嘉田知事与党だった地域政党「対話でつなごう滋賀の会」(対話の会)は2015年9月に解散、県議会の「対話の会」は民主党県議団と合流し、第2会派「チームしが」となっている。嘉田知事時代の苦しい状況から一転、県議会過半数に復帰できた現状が吉田県議の失言の背景にあるとしたら、中央での安倍政権と同じ「1強自民の緩み」を指摘しなければならない。

いずれにしても、今大会も終わりを告げた。球児たちにはまた打撃、守備、走塁の腕を磨き、甲子園のグランドに戻ってきてほしい。

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