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エレクトリック・ギター発展の紆余曲折史。日本のメーカーも登場

2018-06-01 11:27:35 | 読書ノート
ブラッド・トリンスキー,アラン・ディ・ペルナ『エレクトリック・ギター革命史』石川千晶訳, リットーミュージック, 2018.

  エレキギターについて、楽器そのものの発明・改良の歴史を中心に置きつつ、著名なギタリストを軸にした奏法およびサウンドの発展史を加えながら、ふたつを絡めて論じている。ジョージ・ビーチャムによるピックアップの発明に始まり、チャーリー・クリスチャンとレス・ポール登場の影響、フェンダーとギブソンの二社による開発競争とその没落、マディ・ウォーターズのエレクトリック・ブルース、ビートルズとリッケンバッカー、ボブ・ディランの電化、ジミ・ヘンドリクスらによるエフェクトの探求、PRSや日本製品など新興メーカーの参入、ヴァン・ヘイレンの自作ギター、ジャック・ホワイトが使う安物ギター、などなどと話が展開する。原書はPlay it loud : An epic history of the style, sound, and revolution of the electric guitar (Doubleday, 2016.)である。

  面白かったのは、ヴィンテージ化のパラドクスを匂わせる部分である。ギターヒーローが使用するものと同じ機種は、例えば「エリック・クラプトン愛用のレス・ポール(こちらは人名ではなく機種名)」というように、憧れの対象となってプレミア価格がつくようなる。一方で、それを買うお金のない若者は反発して、世代の差を示すために敢えて安物ギターを抱いてバンドを始めるという。1970年代半ばにエルビス・コステロやテレビジョンがフェンダーのジャズマスターを用いていたのはそういう意味であり、1960年代に主流だったテレキャスターやストラトキャスターは年寄りが使うダサいものになった、と。しかし、かつては安物欠陥ギターとされたジャズマスターも、ソニックユースやマイブラ御用達となって今では「名機」化している。そこでもっと若いホワイト・ストライプスはさらにわけのわからないメーカーのおもちゃのようなギターを手にしてグラミー賞に登場したという具合である。

  全体として、かなりロック寄りの記述であり、しかもハードロック/へヴィメタル寄りに見える。ジャズ系のギタリストとして上記クリスチャンとレス・ポールは一章分使って大きく取りあげられているけれども、その後のジム・ホールやパット・メセニーは一箇所で言及されるだけ、ウェス・モンゴメリーとビル・フリゼルについては記述無しである。ポップ・ミュージックの領域でも、リズム・ギターの名手には冷淡で、ナイル・ロジャースやウィルコ・ジョンソンには言及されない。日本人としてはベンチャーズをもっと、加えてぞうさんギターにも触れてほしいところである。邦訳で500頁を超える長尺なのでやむをえないとも言えるが、そうした偏りもある。とはいえロック好きならばかなり楽しめること請け合いである。
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