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学力向上に効果を持つ諸要因を比較・検証

2018-05-29 17:26:20 | 読書ノート
ジョン・ハッティ『教育の効果:メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』山森光陽訳, 図書文化社, 2018.

  副題にある通り「学力」に影響する要因についてエビデンスのある諸研究をレビューする専門書である。学力向上にとって効果的な教育環境・教育方法とは何かを論じる内容である。邦題としては「教育への効果」「学力への効果」の方が適切だろう。「教育の効果」だと、「教育によってどのような人的資本が形成されるのか。それが所得や社会的に地位にどのように影響するか」という社会学的・経済学的な議論であるかのように誤解されるかもしれない。原書はVisible learning: A synthesis of over 800 meta-analyses relating to achievement (Routledge, 2008.)である。

  学力に影響すると考えられる要因を、学習者要因、家庭要因、学校要因、教師要因、各種指導法にカテゴライズし、それら要因の効果量を測っている。「効果量」とは、被験者の学力が一標準偏差分向上した場合の値を1.0としたときの値のことで、その平均は0.4程度となっている。著者は、平均の0.4の効果量を超えないような学力改善策は優先順位が低いとみなしている。例えば、「少人数学級」は0.21、「能力別学級編成」は0.12でしかなく、わざわざ世論を巻き込んで導入の可否を論争するような解決策ではないとされる。

  学校要因より重要なの教師要因や指導法である。「教師の明瞭さ(わかりやすさ)」0.75、「相互教授法(学習者がお互いに教え合うこと)」0.74、「(学習者への)フィードバック」0.73などの値が高い。また、いくつかある構成主義的な教授法(生徒の気づきを重視する方法)よりも、「直接教授法(教師が説明した後に生徒に課題をやらせる方法)」0.59のほうが効果が高いとも。このほか「コンピュータを利用した指導」は0.37、「宿題」は0.29で低い。学力が下がる要因としては「テレビ視聴」-0.18、「転校」-0.34などが挙げられている。抄訳であるため、もっとも効果的だとされる「能力レベルの自己評価」1.42がいったいどのようなものかわからなかったりするのが少々残念なところである。

  著者は、社会として行うべき教育改善の方向とは教員養成を質的に高めることだという。本書を読めばわかるように、学校制度を少々いじったり、生徒の家庭環境に介入したりしても、大きな学力向上は見込めない。ここから類推すれば、批判の多い日本の教員の免許更新制度も「それが指導法の向上を伴うものならば」意義があるということになるだろう。教育関係者ならば常日頃の参照のために持っておいて損はないと思う。
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