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フューチャージャズの「ジャズ」的部分をめぐる葛藤

2011-11-28 11:20:58 | 音盤ノート
Nils Petter Molvaer "Solid Ether" ECM, 2000.

  ジャズ。発表当時はフューチャージャズと呼ばれた、エレクトロニカ的な打ち込みによるリズムの上で、エフェクト処理をしたトランペットやギターのソロを展開するという音楽である。そもそものアイデアはBugge Wesseltoft(参考)によるものだが、ノルウェーで生まれたこのコンセプトを世界中に知らしめた記念碑的作品というと、このアルバムということになる。

  前作"Khmer"(参考)と比べると、かなり音が厚くなっている。まず打楽器隊が増えた。収録10曲中6曲がツインドラム編成である。ただし、一番リズムが激しいのは打ち込みだけでビートを作った1曲目であるが。また音が厚くなった理由には、ギターまたはシンセによるレイヤー音の重ね方が厚くなったこと、ベースが加わったことがある。このため、前作にあった広漠とした背景感は後退し、代わって冷たい壁で囲まれた密室からトランペットの孤独感が立ちあらわれるようになった。なお、箸休め的に、御大によるピアノと女性ボーカル(Sidsel Endresen)の小曲も収録されている。

  初めて聴いたときは、その斬新なバッキングに衝撃を受けて、モルヴェルのゆっくりとしたソロが気ににならなかった。今検討してみると、リズムが激しくなる箇所──普通のジャズミュージシャンならば熱くブロウする場面である──で、音色の電気処理を聴かせることで対応していることがわかる。激しいソロを期待するジャズファンには不満が残るところだろう。とはいえ、それでも上手く緊張感を維持したままアルバム全編が展開されており、全体の完成度は高い。コンセプトの勝利と言えるだろう。
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