29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

大真面目な顔の冗談であり、社会風刺の本

2013-05-10 21:08:03 | 読書ノート
ローレンス・J・ピーター, レイモンド・ハル『ピーターの法則:創造的無能のすすめ』渡辺伸也訳, ダイヤモンド社, 2003.

  耳慣れない「階層社会学」なる語を本文中で連呼しているが、マネジメントの本と言ったほうがわかりやすい。有能な人材でも、出世によって組織の階梯を登ってゆくことでいつかは有能さを発揮できない段階に達する。このため、組織のポストは無能によって埋められるようになると説く内容である。原著は1969年で、邦訳初版は1970年。この訳は最初の訳とは訳者の異なる新訳である。

  法則の前提として、管理職の仕事は管理される側の業務と異なるということがある。ある人が現場で有能であっても、その上のポストでこなさなければならない業務には向かないかもしれない。まれに昇進した先の新しいポストで有能さを見せるということがあれば、その人はまたさらに出世する。こうして各々が、無能でしかなくなる段階に到達する。そして仕事をやっているのは、まだ無能の段階まで昇進していない人々である、と。書籍では、関連する事例をふんだんに採りあげている。

  ユーモアのある真面目な本というのではなく、大真面目な顔の冗談のように読める。前半では能力ではなく上司からの引きを得て出世をめざせと述べつつ、最後の章ではちょっとしたことで敢えて職場からの信頼を失い昇進の声がかからないようにせよと矛盾したことを説いている。また、もし昇進して自分の無能さに直面したら、重要な仕事から目を逸らして自分の有能さが感じられる業務──えてして組織にとってどうでもいいような業務──に労力を集中せよと説く。こうした適当さからは、著者の目的が風刺であることをうかがわせる。そういうわけで、軽く読める。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 武雄市図書館の何が問題か | トップ | アベノミクス解説本、リフレ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事