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米国小売書店論、特にチェーン店と独立系書店の攻防に詳しい

2024-06-21 18:56:21 | 読書ノート
Laura J. Miller Reluctant Capitalists: Bookselling and the Culture of Consumption. University of Chicago Press, 2006.

  20世紀後半の米国における小売書店の状況を伝える学術書である。著者は社会学者。なお、米国の新刊書籍の取引は返品ありだが定価販売なしという慣行となっている。

  以下で「独立系」というのは、個人経営の店から数店舗を持つ小さなチェーン書店までを含む。ただし、日本と異なり取次業者が配本してくれるわけではないので、仕入れは自店で行っている(はずだが、米国では当たり前のことなのか詳しい説明はない)。この違いは日本在住者が本書を読むうえで理解しておくべきところだ。卸売業者も存在しているが、それは小売書店にとっての「倉庫」として位置付けられている。

  タイトルにある「不本意な資本主義者」というのは独立系小売書店主のことである。彼らは、書籍というのは通常の商品とは異なっていて、特別な価値を持っていると考える。高尚な文化を扱っているという意識があるためプライドも高い。このようなエリート主義は19世紀から続く米国の書店の伝統的な自己認識であると著者はいう。とはいえ、書籍もまた他と変わることのない単なる商品であるとみなす勢力も20世紀前半から存在していて(例えばデパート)、割引価格でベストセラーを薄利多売した。この勢力は1960年代にはショッピングモールに出店するチェーン店となり、1990年代にはBarnes & NobleやBordersのような超大型店となって、独立系書店の存立を脅かした。

  20世紀初頭から半ばにかけて、出版社主導で再販価格制度を導入する動きがあって、一時的には成功した(すなわち立法で裏付けられた)。だが、割引販売を展開するチェーン店が普及した後は支持されなくなり見捨てられた。その後、米国書店協会内でチェーン店派と独立系派との間で主導権争いがあり、後者が権力を握ると出版社を訴えて大手チェーンと独立系の間にある取引条件の差(例えば割引率)を是正しようとした。結果、和解という形である程度の成果を得たが、完全勝利とはならなかった。並行して独立系小売書店もまた徒党を組んで販促キャンペーンを行ったが、その過程でチェーン店と同じような消費主義に近づいた。また、チェーン店も独立系も従業員への待遇が悪い点では一緒だという。

  2000年前後になると、独立系書店保護が全米各地の大規模小売店反対運動と結びついて、チェーン店の地域出店を頓挫させることもあった。チェーン店との競争によって独立系書店におけるエリート主義的な雰囲気もいくぶんか和らいだが、かといって「本は特別」という見方が失われたわけではない。消費主義への対抗意識と地域密着志向が、これら独立系書店を(利益とは別に)支えてきたという。

  以上。著者は独立系書店に同情的であるものの、記述はイデオロギッシュではなく、チェーン店の肯定的な面も独立系の二枚舌的なところもきちんと記している。衒学的なところもない。ThompsonのMerchants of Cultureではあまり詳しくなかった米国独立系書店の精神、特に本を特別視する思想の存在を知るうえではとても参考になる。
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