宇宙のみなしご(理論社)
★★★★:80点
chiharuさんからもオススメのあった「宇宙のみなしご」。朝の通勤電車の中で読み出して、帰りの電車の中で読了。1時間ちょっとくらいで読んだでしょうか。
文章量が少なく、比較的ヘビーなものが好きな私としては、やや物足りない気がしないでもないですが、出てくる言葉・会話が非常に良かったです。宇宙に輝く小さいけれどキラリと光る星を見つけたような感じでした。
*************** Amazonより *****************
内容(「BOOK」データベースより)
不登校のわたし、誰にでも優しい弟、仲良いグループから外された少女、パソコンオタクの少年。奇妙な組み合わせの4人が真夜中の屋根のぼりをとおして交流していく…。
内容(「MARC」データベースより)
誰にでも優しい弟と不登校の私は、真夜中にこっそり、よその家の屋根にのぼる。それは、ふたりだけの秘密の遊びだった。ところが思いがけず、この真夜中の屋根のぼりに、あたらしい仲間が加わることになって…。
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【注意】以下、超ネタバレあり
主要登場人物も少なく、陽子、リン(年子の弟)、キオスク、七瀬さん(おとなしいけど、走るのが好きないい子です)、さおりさん(陽子たちの母の友人)、富塚先生(すみれちゃん)くらいでしょうか。
実は一度もリアルタイムでは登場しない”すみれちゃん”こと富塚先生が助演女優賞ものの素晴らしさです。
先生になりたてで元気で元気で、昼休みにはまっさきにグランドへ飛び出してサッカーに加わり、午後の授業はたいてい遅刻して学級委員に怒られる。英語の授業ではすぐにビートルズの歌を歌いたがる。3割くらいの生徒たちからは熱狂的に愛されていたけれど、残りの7割と、その両親と、たいていの教師たちからは迷惑がられていた・・・そんな先生。しかし、そんな”すみれちゃん”が難病のため、陽子たちのクラスの担任を一学期にやめて「インド」に行くという。
すみれちゃんのいない学校はつまらなかった。
フトーコーになってしまう陽子。
私はこれだけでも、”すみれちゃん”富塚先生が気に入ってしまったのですが、ラスト近くにまた彼女の出番があったのです。
「手をつながない? みんなで。そしたらちょっとはあったまるかも」(七瀬さん)
「あんた、泣いてんの?」(陽子)
「富塚先生が言ったんだ」(キオスク)
「すみれちゃん?」
「富塚先生、学校をやめる前にぼくんちに来たんだよ。二年C組のみんなはだいじょうぶだろうけど、ぼくのことだけは心配だって。ぼくんちに来て、言ったんだ。大人も子供もだれだって、一番しんどいときは、ひとりで切りぬけるしかないんだ、って」
「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いていないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだよ、って」
「でもさ」と、涙と鼻水だらけの顔でキオスクはつづけた。
「でも、ひとりでやっていかなきゃならないからこそ、ときどき手をつなぎあえる友達を見つけなさいって、富塚先生、そう言ったんだ。手をつないで、心の休憩ができる友達が必要なんだよ、って・・・」
一瞬、わたしの手をにぎるキオスクの指に力がこもった。
ここはね、本当に素晴らしいシーンですよ。思わずグッときました。
こんな素晴らしい先生がいたら、こんな素晴らしい言葉をかけてもらえたら、子供はどれほど勇気づけられることか。クラスでは非常にしんどい立場・状況にあったキオスクですが、この”すみれちゃん”富塚先生の言葉があったから、何とかしのいでこれたのでしょうね。そして、色んな偶然があったり時間もかかりましたが、この言葉をずっと信じていたから・忘れていなかったから、陽子やリンや七瀬さんと心を通わせることができたのでしょう。
こんな先生いるはずないとか、人生、そんな単純なものではない/甘いものではないという声もあるかもしれませんが、複雑な世の中だからこそ、シンプルな考え方・言葉が胸をうつんだと思います。
今、大きな問題になっている”いじめと自殺”。いじめで苦しんでいる本人だけでなく、いじめをしている子供や傍観者的な周りの子供たち、親や先生・教育委員会のエライ人たちがこの本のことを知っていたら、少しは違うと思うのですが( 注)この本では現実にあるような超ヒドイいじめは出てきません)。。。それこそ甘いんですかねえ。甘くてもいいや。私はこの作品と森絵都さんを断固支持します。
なお、準備体操が一生懸命で美しい七瀬さんとそれが好きなリン。ときどき保健室のベッドで寝て、ふと孤独感・さみしさを感じると共に「カーテンのむこうから友達がむかえにくる」嬉しさ・温かさを語ってくれたさおりさんも素晴らしいです。そうそう、色んな人に勇気を与えた陽子も、もち論素晴らしいのです。
◎参考ブログ:
柚布さん(ゆうさん)の””まろ茶らいふる (2007-3-20追加)
苗坊さんの”苗坊の読書日記” (2008-2-18追加)