斎藤剛史氏の八重山教書問題への反論

狼魔人日記に斎藤剛史氏の八重山教書問題について述べたブログが紹介されていて、斎藤剛史氏は地方教育行政法と教科書無償措置法では特別法の教科書無償措置法が優先すると主張しているが、地方教育行政法と教科書無償措置法は両立しているしどちらが優先するという問題ではないという内容で、勝手ながら狼魔人日記から斎藤剛史氏の意見を転載して、斎藤剛史氏に反論した。

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斎藤剛史氏の意見


教科書の採択権は誰にあるのか ~沖縄・八重山地区教科書問題をめぐって



わずか数十冊分の教科書をめぐって、教科書行政の在り方が大きく問われている。沖縄県八重山地区の中学校公民教科書採択で、一部自治体が採択地区協議会の答申と異なる教科書の採択を決めたことは、義務教育の教科書無償制度の根幹を揺るがしかねない問題にまで発展した。教科書を採択する権限は、いったい誰にあるのか。

中学校公民教科書で採択が対立


2012年4月から使用される中学校の教科書について石垣市、竹富町、与那国町から成る沖縄県八重山採択地区協議会は11年8月23日、A社発行の公民教科書を採択すると賛成多数が答申した。ところが、これに反発した竹富町教委は、それとは別に独自にB社発行の公民教科書の採択を決定する。これに対して沖縄県教委は、採択教科書の一本化を図るよう八重山地区の3教委に働き掛け、その結果、9月8日に3教委の全教育委員による臨時会議が開催され、先の答申を覆してB社教科書を採択することが賛成多数で決まった。しかし、今度はこの決定に対して、石垣市教委と与那国町教委の教育長が文部科学省に直接異議を申し立てたことから事態はさらに複雑化していくことになった。
一連の経緯について文科省は、A社教科書の採択を決めた八重山採択地区協議会の答申を有効とする立場を取り、国に対する教科書採択の報告期限である9月16日までに採択の一本化を図るよう沖縄県教委に通知したものの、A社教科書を拒否する竹富町教委の姿勢は変わらず、とうとう問題解決に至らないまま年を越してしまった。このままいけば1963年の教科書無償措置法の制定以降初めて、国による教科書の無償給付が受けられない自治体が出現する事態となる。
では、この問題の争点は何だろうか。報道でも周知の通り、対立の原因となったA社教科書はいわゆる保守系教科書としてさまざまな物議を醸してきた存在であるのだが、ここではその問題には触れない。また、採択地区協議会の答申と全教育委員による臨時会議の決定のどちらが手続き的に有効なのかということも争われているが、おそらくそれを検証してもあまり意味はないだろう。というのも、このような政治的要素が絡む問題は手続き的妥当性がじつは本当の争点ではないからだ。採択地区協議会答申の妥当性についてさまざまな人々が論じているが、例えば、答申がB社教科書を採択し、一部自治体の決定がA社教科書を採択するものだったとしたらどうだろう。このように政治的要素を除外していくと八重山地区採択問題の争点は意外とシンプルだ。それは、義務教育教科書の最終的採択権は誰が持っているのかという一点となる。

「特別法は一般法を破る」という原則


義務教育の教科書採択について法的に見ると、地方教育行政の根幹ともいえる地方教育行政法は、市町村教委に採択権があると規定している。一方、教科書無償給付の実務を定めた教科書無償措置法は、複数自治体による採択地区協議会の答申で決定すると定めている。このように二つの法律が別々な規定をしていることが問題を複雑化させたわけだが、実際には八重山地区の問題が起きるまで、この矛盾が表面化することはなかった。では、採択結果が対立した場合、いったいどちらの法律が優先することになるか。一見すると、教育行政の根幹となる地方教育行政法の方が、単なる事務手続きを定めた教科書無償措置法よりも上位に立つと思う人が多いだろう。
だが、現実はそれとは逆で、政府と文科省は、教科書無償措置法が優先するという見解を示している。これは「特別法は一般法を破る」という法理論による。さまざまな権限などを定めた一般法と、その具体化に向けた手続きを定めた特別法が対立する場合、例外規定なども盛り込まれている特別法の方が優先するというのが法律学の原則で、政府も八重山地区教科書採択をめぐる答弁書(9月7日付)の中で、地方教育行政法を一般法、教科書無償措置法を特別法と位置付けている。つまり、法的に見れば、採択地区協議会の答申が個別の市町村教委の決定よりも優先するという解釈になるのだ。
一部マスコミの間では、政府や文科省がA社教科書を推進しようとしているという観測もあるが、それは正しくないだろう。実際、中川正春文科相(当時)は、竹富町に教科書を無償給付できないと述べる一方、地方教育行政法と教科書無償措置法の間に矛盾があることを認め、法改正の検討に入る意向を表明した。竹富町に対する教科書採択の一本化期限についても、最初の9月16日を11月末まで延ばし、さらに12月末まで延長するという対応にも、できるだけ事態を穏便に収拾したいという文科省の意図がうかがえる。
現行法下では採択地区協議会の答申を尊重するしかないものの、それを押し通せば市町村教委の権限を規制することになりかねない。教育の地方分権という理念と現行法の適用の間で文科省が苦慮していることの表れともいえる。

教科書採択制度の改革へ


1月13日に発足した野田改造内閣で新たに就任した平野博文文科相も就任会見で、「共同採択制度のもとで教科書の無償給付をしており、理解してもらうしかない」と述べ、独自採択を貫くならば竹富町に教科書無償を適用しない方針を改めて示す一方、「竹富町の意見を踏まえて、採択の在り方がこのままでいいのか検討したい」と表明した。おそらく、複数の自治体で構成される採択地区協議会による教科書採択という大枠の制度は残しながらも、義務教育における教科書の最終的な採択決定権は市町村教委が持つというような形で制度改正される可能性が高そうだ。
考えてみれば、4月から使用する教科書を複数自治体で構成する採択地区協議会で決定し、教科書ごとの冊数を前年の9月16日までに文科省に報告するという現在の仕組みは、情報化や物流が未発達だった時代の産物にすぎない。その意味で、市町村ごとの教科書採択は時代の流れだろう。報道などによれば、竹富町で採択される中学校公民教科書の冊数は数十部程度にすぎないという。その数十部の教科書の行方が、教科書採択制度の改革を促そうとしている。
構成・文:斎藤剛史



斎藤剛史 さいとう たけふみ
1958年、茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に記者として入社後、東京都教育庁、旧文部省などを担当。「週刊教育資料」編集部長を経て、1998年に退社し、フリーのライター兼編集者となる。現在、教育行財政を中心に文部科学省、学校現場などを幅広く取材し、「内外教育」(時事通信社)など教育雑誌を中心に執筆活動をしている。ブログ「教育ニュース観察日記」は、更新が途切れがちながらマニアックで偏った内容が一部から好評を博している。




斎藤剛史氏は地方教育行政法と教科書無償措置法の二つの法律が別々な規定をしていることが矛盾していると述べた上で、地方教育行政法は一般法、無償措置法は特別法であると説明し、地方教育行政法と教科書無償措置法の関係を一般法と特別法の関係の問題に置き換えて言及している。斎藤剛史氏は、地方教育行政法と教科書無償措置法のように二つの法がひとつの問題に関わった場合は「特別法は一般法を破る」という法理論に基づき、特別法である教科書無償措置法が一般法である地方教育行政法に優先されると主張している。

しかし、まて。
教科書無償措置法の目的と地方教育行政法の目的は違っているし、斎藤氏のいうように地方教育行政法と教科書無償措置法が対立したり矛盾したりする関係にあるわけではない。だから、「特別法は一般法を破る」という法理論に基づいて判断を下す必要はない。

そのことについて詳しく説明する。
地方教育行政法は各市町村の学校で使う教科書を決める法律である。一方、教科書無償措置法は地区の学校に国が無償給付する教科書を決める法律である。

八重山地区を例にすると、石垣市、竹富町、与那国町のそれぞれの市町で使用する教科書をそれぞれの教育委員会で決めるのが地方教育行政法である。八重山採択地区協議会で八重山地区に国が無償給付する教科書を決めるのが教科書無償措置法である。無償措置法は国が八重山地区の学校に無償給付する教科書を一種類に決めるようにと規定している。留意すべきことは、教科書無償措置法は国が八重山地区の学校に無償給付する教科書を決める法律であって石垣市、竹富町、与那国町のそれぞれの学校で使用する教科書を決める法律ではないということだ。

八重山採択地区協議会は国が石垣市、竹富町、与那国町の学校に無償給付する教科書を決めることはできるが、石垣市、竹富町、与那国町の学校で使用する教科書を決めることはできない。
一方、地方教育行政法は三市町の教育委員会がそれぞれの学校で使用する教科書を決めることができるが、国が無償給付する教科書を決めることができない。
地方教育行政法と教科書無償措置法は教科書に関する法律ではあるが、それぞれの法律は別々の目的の法律であり、二つの法律がぶつかることはない。

八重山採択地区協議会は国が無償給付する教科書を育鵬社版に決めた。しかし、八重山採択地区協議会は竹富町に育鵬社の教科書を使用するように強制することはできない。だから、竹富町の教育委員会が竹富町の学校で使用する教科書を東京書籍版に決めたことは法的にはなんの問題もない。竹富町が東京書籍の教科書を採択したことを他の市町村も県も国も禁止することはできない。
ただ、国が無償給付する教科書は育鵬社の教科書と決まっているので、竹富町が採択した東京書籍の教科書を国が無償給付することはしないということになる。

国が無償給付する教科書は育鵬社版であると知っていながら、竹富町が東京書籍の教科書を採択したということは、竹富町は国の無償給付を断ったことに等しい。国が無償給付したくても、国が無償給付できるのは育鵬社の教科書であるのだから、竹富町が東京書籍の教科書を使う限り、国は育鵬社の教科書を竹富町に無償給布することはできない。そうすると教科書使用の強制になり地方自治法に違反する。

以上のように地方教育行政法と無償措置法は対立したり矛盾するような関係にはないから、「特別法は一般法を破る」という法理論を竹富町に適用する必要はない。

もし、教科書無償措置法が優先するということになると地方の自由決定権=自治権を奪うことになる。竹富町のように育鵬社の教科書を使用したくなければ竹富町の育鵬社の教科書を使用しない意思は尊重されるべきであり、竹富町の決定権の自由は守るべきである。地方教育政法はそれを保証している。竹富町が東京書籍の教科書を選択する自由を守る代償として教科書の有償があり、有償を覚悟で八重山採択地区協議会の決めた育鵬社の教科書以外の教科書を竹富町が採択するのは許されることである。それは地方自治を守ることでもある。

竹富町の問題は、国が無償給付する育鵬社の教科書を採択しないで、有償になる東京書籍の教科書を採択したにも関わらず、東京書籍の教科書を無償給付するように文科省に要求していることだ。
竹富町の行動が地方教育行政法と無償措置法の矛盾を露呈させたわけではない。竹富町が地方教育行政法と教科書無償措置法を理解していないだけのことだ。

八重山地区では育鵬社の教科書以外は有償となるので、竹富町に東京書籍の教科書を無償給付することは国が法律を犯すことになる。国が竹富町に東京書籍の教科書を無償給付することは絶対にない。

地区協議会を解体して、市町村の教育委員会が採択した教科書を自動的に無償給付するようにすれば今回の八重山教科書問題は起こらなかった、しかし、各市町村で教科書採択をすることにすれば、それぞれの市町村で調査員と教科書採択協議会を設置しなければならないから市町村の負担が増える。また市町村間の教育がバラバラになって、転校する子どもにとって不都合になっていく問題が浮上する。無償給付を採択する地区協議会は各市町村の教科書採択の負担を軽くし、地区内の転校生が授業に困らないようにする効果がある。斎藤氏は、「市町村ごとの教科書採択は時代の流れだろう」と述べているが、地区協議会を解体すると非合理的な教育体制になってしまう。悩ましい問題である。

八重山教科書問題の根本的な問題は教職関係の組織が左系傾向が強くて、文科省が検定合格をした教科書さえ八重山地区で使用するのを拒否しようとしたことにある。文科省の検定を合格した教科書を拒否しなければこんなことにはならなかった。
八重山教科書問題では県教育庁、竹富町、教職関係の組織の狙いはすべて文科相に通用しなかった。常識はずれの八重山教科書問題のような事件は二度と起こらないと思う。
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