飛行中にエンジンが止まると

 多くの飛行機にはエンジンが付いていて、このエンジンが発生する推進力で機体を前進させ、翼に風を当てます。前方から翼に風が当たると翼は揚力(上向きの力)を発生させ、その力によって飛行機は宙に浮く、つまり空を飛ぶ事が出来ます(固定翼機の場合)。ヘリコプター(回転翼機)も勿論飛行機の一種ですが、ヘリの場合には、エンジンの力で機体を前進させ揚力を得るのではなく、ローターと呼ばれる翼(機体の上に付いている大きなプロペラのこと)を廻して揚力を得ます。

 いずれにしても、機体を前進させる、あるいはローターを廻すエンジンが止まれば、機体が前に進まない、ローターが回らないということになりますから、揚力を得る事が出来なくなり、飛行を続けることは難しくなります。難しいくなるという意味は、即時に飛行できない、つまり墜落するというわけではなく、グライダーのように滑空しながら地上(あるいは海上)に至ることになるという意味です。

 滑空しながら飛行場あるいは類似の平坦で広い場所を見つける事が出来れば、例えエンジンが止まっていても、無事に着陸できる可能性もあります。この理屈は、最初から前進するためのエンジンを持たないグライダーが、自由に飛行し、自分の意思で着陸できることを考えれば理解できるでしょう。

 ヘリコプターの場合には、エンジンが止まれば即、墜落と思われるかもしれませんが、実は機体を上手くコントロールすれば固定翼機と同様に滑空する事が出来ます。これは、ローターをエンジンで廻すのではなく、前進させるためのだけのエンジンとプロペラで機体を前に進め、フリーに回転するローターに風を当て、回転したローターが発生する揚力により飛行するジャイロコプターが空を飛ぶのと同じ理屈です。

 軽飛行機や同クラスのヘリコプターの多くは、エンジンは1基のみですが、お客さんを乗せて飛ぶ旅客機は、多くの場合2基以上のエンジンを搭載しています。どんなに信頼性が高く、万全の整備体制によりバックアップされていても、エンジンは機械です。機械は時に不具合を発生します。そんな不具合も2基のエンジンに同時に発生する可能性は多くありません。複数のエンジンを搭載するのは、大きな推進力を得るためだけではなく、万が一のトラブルに備えてのことでもあるわけです。

 そういう意味では、単発(エンジン1基)よりも双発(エンジン2基)、双発よりも3発(最近は少なくなっている)、3発より4発の方が安全性が高いということになりますが、ボーイング、エアバスともにそのフラッグシップが4発なのはそういう理由からです。

 もっとも、最近は、ボーイングの場合にはメインが4発の747から双発の777に移ってきていますし、エアバスも340の双発版である330もかなりの数が飛んでます。高度な電子制御、電子診断機構によりエンジンの信頼性が高くなり、更に双発の場合難しいと言われていた、片側エンジン停止時の機体のコントロールが電子制御により容易になった事がその理由です。左右二つのエンジンでまっすぐに飛んでいた飛行機の左のエンジンが止まれば、左に旋回してしまうだろうことは容易に想像できるわけですが、そのあたりを最新の電子制御技術でコントロールできるようになっているわけですね。

 今日、スカイネットアジアの737のエンジン1基が飛行中に停止しても安全に着陸できたのはそんな技術的な裏づけがあってのことなのです。もっとも、エンジンが爆発したとか、出火したということになると、制御系がダメージを受けることもありますので、今回のように単にエンジンが停止してしまった場合よりも深刻な状態になることはあるでしょう。

 私たちの日常生活の中で、飛行機により移動する場面はますます多くなってきています。勿論飛行距離当たりの事故は、自動車事故のそれと比べ格段に低いのですが、それでもトラブルは発生します。ただし、乗客者としてできることはほとんどありません。できることと言えば、パニックになって機内で騒がないこと、緊急時の安全姿勢をとること、緊急着陸(着水)時の迅速な機内脱出に協力することくらいでしょうかね。それだけでも生還率はかなり高くなるのだとは、Mキャプテンの話しです。

今日の1枚は、夏の花、百日紅(さるすべり)。
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