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平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

何かおかしい… ~「功名が辻」感想

2006-09-27 09:26:28 | 歴史雑記帳
 約4ヶ月ぶりに「功名が辻」の感想を書くことにしました。とにかく前回・今回と、あり得ない設定や原作と違う描き方をしている所がたくさんありましたので、一言言いたくなってしまったのですよね。何かこのドラマ、だんだんおかしなことになっているような気がします。

 では、感想に移りますね。…と言っても、ドラマと司馬さんの小説の比較のようになってしまうと思いますが…。

 前回の「功名が辻」の放送を観て私は、「一豊夫婦があそこまで秀次べったりはおかしい。何よりも、世の中の動きを冷静に判断し、一豊のために身の処し方を冷静に判断する能力を持っているはずの千代が、あれほどうろたえるはずがない!」と思ったのです。
 そこで思ったことは、「司馬さんの原作には、この場面はどのように描かれていたかしら?」ということでした。10年くらい前に読んだきりなので、はっきり覚えていなかったのです。そこで、小説を引っ張り出し、該当箇所を読んでみることにしました。

 するとびっくり。ドラマとは正反対だったのです。

 まず、一豊も千代も秀次を嫌っていました。
 秀次の宿老となった一豊が、「秀次さまは嫌な男だ」と千代に言うのです。千代は最初、「そんなに嫌わなくてもいいのに…」と言っていたのですが、千代自身も秀次と目通りすると、「私も嫌い」ということになってしまったのでした。「わしは学問が好きじゃ」という秀次の言葉に、「この人が学問ですって?似合わない…」と思う始末です。

 そんな考えですから、秀頼が生まれて秀次の立場が微妙になると一豊は、
「わしが秀次さまなら、さっさと関白の座をお返しする」と千代に言い、秀吉が伏見に城を築き始めると、一豊も伏見に屋敷を造り始めます。

 秀次御乱行の噂が流れ、さらに、「秀次さまは謀反を企てているらしい」ということがささやかれ始めると、千代は一豊に向かい、
「伏見の屋敷の完成を急がせて。私は1日も早く、伏見に移りたい。」と頼むのでした。これは、「私が伏見に移れば、関白さまと太閤さまが合戦になった場合、一豊さまは安心して太閤さまに味方できる」という、千代の計算が働いた結果の言動だと思います。こちらの描き方の方が、よほど自然だ…と、私は読みながら思いました。
 もっとも小説では、一豊夫婦が幼い頃の秀次の世話をした…という伏線はありませんので、こういった突き放した描き方ができたのだと思いますが…。

 さて、屋敷の完成を急がせるため、一豊は伏見に行ってしまいます。やがて、「諸侯の妻子は、秀次方の人質として聚楽第に収監されるらしい」という噂が流れ始めます。その噂を耳にした千代は、夜陰に紛れて京の屋敷を抜け出し、伏見に向かったのでした。

 ところが伏見に向かう途中、千代たちの乗った車は秀次方の役人に見つかってしまいます。役人は車を止め、「山内対馬守の車と見た。どちらに参られる?」と、車の横を歩いていた侍女に詰問します。侍女は質問に答えず、「急いでいるので通して下さい!」と詰め寄ったので、役人は再度、名を尋ねました。すると侍女は、
「山内対馬守の妻にて、千代と申します。」と言ったのでした。

 つまり千代は危険を覚悟し、秀次方の役人の目をごまかすために侍女に変装して車の横を歩いていたのです。役人は千代の気迫に押され、そのまま車を通してしまいました。

 無事に伏見にたどり着いた千代と、一豊は再会を喜び合います。太閤秀吉もこの千代の脱出劇のことを聞き、「さすが対馬守の妻は賢夫人じゃ」と言います。つまりこの時点で一豊は、完全に秀次を見限り、太閤方についたということになります。

 さて、ドラマで一豊は、聚楽第の秀次を秀吉の許に連れてくる…という使者に立っていましたが、史実では一豊1人ではなく、堀尾吉晴や中村一氏らとともに使者に立っています。司馬さんの小説でもそのようになっていました。そうですよね、一豊1人ではあまりにも頼りありませんし、単独で乗り込んだりしたらたちまち、聚楽第の秀次方の武将たちに首をはねられてしまいますよね。
 まして、千代が忍者のように聚楽第に乗り込んでくる…なんて絶対にあり得ないことだと思いました。多分千代が、幼いときに世話をした秀次を説得して秀吉の許に連れて行き、結果的に夫の窮地を救う…という描き方をしたかったのでしょうけれど、あまりにもあり得ない設定なのでかえってしらけてしまったというのが正直なところです。

 そこで、この場面が小説でどのように描かれているか…。それが、なかなか面白い描き方をしていますのでここに書かせていただきますね。

 この時の使者は一豊を含めて5人でしたが、団長格は堀尾吉晴でした。なので、秀次は、5人の使者と対面すると堀尾の口から、
「即刻太閤の許に参られるように」と告げられます。
 秀次は、「即刻か…」と何回も繰り返してつぶやき(ここはドラマにもありましたね)、ようやく秀吉の許に行く決心をします。
 それを見た一豊は、急に秀次が気の毒になってしまったのでした。「この若者は、太閤の甥になど生まれず、尾張で百姓をやっていれば平穏な人生が送れたのに…」と急に感傷的になった一豊は思わず、「殿下」と口走ってしまいます。そして、
「われわれがご同行しますので、支度はごゆるりと…」などと言ってしまったのでした。

 これを聞いた堀尾は「これ、対州!」とたしなめます。堀尾が「即刻参るように」と言っている以上、「支度はごゆるりと」なんて言われては困るわけですよね。

 この場面は、良く言えば人の良い、悪く言えば間抜けで昼行灯な一豊の性格がよく表れていて、小説「功名が辻」の中では最も好きな場面の一つです。ついでに、先に書いた千代の脱出劇の場面も好きです。こちらは、千代の賢くて冷静な部分がよく表れていると思います。個人的に、この二つの場面は、ぜひ映像で見てみたかったです。

 一豊は、秀次が切腹した時、8000石の加増を受けています。ドラマのようにぎりぎりまで秀次べったりだったら、加増なんてされるわけがありませんよね。司馬さんの小説が史実をどの程度ふまえているかはよくわかりませんが、ドラマより小説の方が史実に近いように思えました。

 ところでこのドラマ、来週もとんでも設定が満載とか…。手鞠さんのブログ「徒然独白 ~手鞠のつぶやき」によると、千代が秀吉の看病をするようです。あれだけ秀次べったりだったのに、これはどうしたことでしょうか…。それに、秀吉のそばには正室の北政所、側室の淀殿や松ノ丸殿などがいますし、他にも多数の侍女がいたと思うので、妻でも侍女でもない千代が看病をするなんてあり得ませんよね。

 何よりも、「もう秀吉が亡くなってしまうの?」という感じです。
 実は、小説は秀次が切腹したあたりで全体のちょうど半分くらいなのです。なのに、ドラマの放映期間はあと3ヶ月しかありませんよね。当然、これからの場面はかなり端折られると覚悟はしていたのですが、千代が伏見に移ってから秀吉の死までの場面はカットですか…。この部分は本当に面白いのに…。

 小説のこの部分についてちょっと書いておきますと、まず、六平太が再登場します(ドラマではすでに登場していますが…)。次に、一豊が掛川に行っている留守に、秀吉がお忍びで千代を訪ねてきます。何しろ秀吉は女好きですからね。千代は秀吉に抱かれそうになるのですが、六平太の機転で難を逃れます。その時の千代のせりふが好きなんですよね。
 秀吉を拒もうとする千代に向かって秀吉は、
「そんなに対馬守が好きか?」と尋ねるのです。それに対して千代は
「好きなのではなく、愛しいのです。」と言うのですが、その気持ちわかるなあ。

 次に発生するのは、今回のドラマでも触れられていた山内家の跡継ぎ問題です。千代は何とか、一豊に実子が産まれないかと臨んでいます。千代も一豊も、拾のことをかわいく思いながら、家臣たちの心情を考えて、山内家の跡継ぎにとは考えなかったようです。
 そこで千代は、一豊に側室を薦めます。しかし一豊は、「実子がいなければ康豊の子を養子にすれば良い。」と考え、全く取り合いません。
 千代は、お気に入りの侍女に一豊の世話を頼み、自分は1ヶ月間、旅行に出てしまいます。「彼女が一豊の側室になってくれたら良い。」と考えたわけです。しかし、この試みは失敗に終わります。そこで、千代は一豊に側室をすすめることをあきらめ、康豊の子が一豊夫婦の養子になるわけです。

 また、千代は淀殿から、「小袖のことを色々話して欲しい」と召し出される…という場面もあります。もちろん、千代が淀殿に会うのはこれが初めてです。その際、千代は淀殿の乳母の大蔵卿局と口争いをしてしまいます。そして、ついに「鬼ばばあ…」とまで言ってしまうのですが…。この場面は笑えました。

 こんな面白いエピソード満載の原作をどうして無視するのか…と少し首をかしげてしまいます。最近はどうも、脚本家の大石さんのオリジナルの色が強くなっているように思えてなりません。それはそれでいい面もあるのでしょうけれど、原作の愛読者としてはちょっと違和感を感じてしまいますね。どうやらこのドラマは、司馬遼太郎さんの「功名が辻」を原作としたドラマではなく、脚本家の大石さんのオリジナル色の強い、「改訂版功名が辻」と思った方が良いのかもしれません。

 一豊や千代を必要以上に「いい人」に描いたり、登場人物の誰とでもを千代と絡ませるなど、首をかしげる部分がたくさんあるこのドラマですが、今後も見どころはありそうです。関ヶ原での一豊と家康の絡み合いとか、千代の活躍とか…。掛川城も出てきそうなので楽しみです。
 このように、原作や史実と比較しなければ、結構楽しめるかもしれません。と言っても、今回の秀次事件のように裏切られるかもしれませんが…。楽しみ半分、心配半分と言ったところでしょうか。…と、この言葉、どこかで聞いたことがありますよね。そうです、昨年の大河「義経」の感想でしょっちゅう書いていました。と言うことは、「功名が辻」もあの「義経」と似てきてしまったのでしょうか…。

 それでも何だかんだ言いながら、最終回まで観てしまうのだろうな…と思います。

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