久しぶりに自信を持って紹介できる歴史小説に出会えました。
☆橘三千代 上
著者=梓沢 要 発行=新人物往来社(kadokawa)
内容(「BOOK」データベースより)
女帝の時代陰で女帝を操ったひとりの女がいた!犬番の娘から己の才覚一つで、位人臣を極めた後宮女官・橘三千代。初めて描かれる橘三千代の愛と野望の生涯!『百枚の定家』につづいて俊英が書き下ろす渾身の歴史巨篇。
橘三千代 下
著者=梓沢 要 発行=新人物往来社(kadokawa)
内容(「BOOK」データベースより)
名族・橘氏はたったひとりの女から始まった!天武・持統・文武・元明・元正・聖武―六代の天皇に仕え、後宮を束ねて皇位継承に絶大な影響力を持った橘三千代。美努王の妻から藤原不比等のもとへ―激しくしたたかに生きた波瀾の一生を鮮烈に描く雄渾の歴史巨篇。
*この本は2001年3月に新人物往来社から単行本として発行されたそうですが、現在では絶版のようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。
紹介文にもありますように、天武天皇から聖武天皇までの六代の天皇に女官として使え、文武天皇と聖武天皇の乳母として権勢を振るった女性、橘三千代の生涯を描いた小説です。
三千代は元々、県犬養三千代といい、決して家格の高い家の生まれではありません。幼いときに母を失い、継母との折り合いはあまり良くなかったものの、しっかり者の乳母に育てられ、乳兄弟や兄たちに囲まれてのびのびと子供時代を送りました。。
そして15歳の時に初めて出仕、最初、美努王の妻となり、のちに藤原不比等と再婚、多くの子女にも恵まれ、上で書いたように2人の天皇の乳母として位人臣を極めます。
で、この本を読んだ感想はやはり、三千代のたくましい生き方にすっかり魅了されてしまいました。
例えば、軽皇子(後の文武天皇)や首皇子(後の聖武天皇)を皇太子にするときの手段を選ばない様子、しかし、その蔭で犠牲になった人たちのことも決して忘れていないところが人間的でもありますが。
文武天皇の夫人になっていた宮子(不比等が別の妻との間にもうけた娘)が妊娠すると、再び乳母になろうと、不比等の子を絶対に身ごもってやると決心するところ、それを実行してしまうところなどすごい。ちなみにこの時に宮子が産んだのが後の聖武天皇、三千代が産んだのが後に聖武天皇の皇后となる安宿媛(光明皇后)です。
ラスト近くに聖武天皇の気鬱を治そうと、文字を書いた亀を偽造するところはどきどきしてしまいました。ともあれ、自分の才覚ひとつでのし上がっていったところは見事です。
更に、持統・元明・元正といった女帝たちや三千代の子供たちなど、オリキャラも含めて脇役の人物もとても魅力的に描かれていました。
登場場面は少ないのですが、特に印象に残ったのは三千代のいとこ、安倶利女です。
*以下、ネタバレがあります。知りたくない方は少し飛ばして読んで下さいね。
彼女は「私は草壁皇子の子を産む」という野望を持って三千代と一緒に宮中に仕え始めるのですが、事件に巻き込まれて宮を去ってしまいます。
その後、三千代の兄と結婚するものの子のないまま先立たれ絶望するのですが、「今度は子をたくさん産めという夫の遺言を思い出し、10歳も年下の同族の男と再婚、10人近い子をもうけるのです。
三千代とは全く違った生き方ですが、こちらもたくましいと思いました。そしてそのたくましさが後世、三代の斎王に受け継がれるのかと。作者のイキな仕掛けですね。
なお、この安倶利女という女性は多分、作者の創作だと思います。調べてみたところ、井上内親王の母方の祖母(あえてこういう書き方をしますが)は未詳とのことでした。だからこそ想像できるわけで。(^^)
そうそう、草壁皇子の描き方もとても良かったです。私はどちらかというと王津派だったのですが、この作品の優しくて繊細で、それでいて強いところのある草壁皇子がとても好きになりました。ただ、唐突に退場してしまってびっくりしましたが。
そして、やはり不比等というのはすごい政治家だなと。藤原氏の基礎は不比等と三千代によって築かれたものかもしれませんね。
不比等の息子たち、いわゆる藤原四兄弟もなかなか個性的に描かれていて良かったです。長屋王事件の前の藤原四兄弟が決して一枚岩でなかったのが少し意外でしたが。四兄弟の中で一番目立たない麻呂が、亀を偽装するときにしっかり存在感を現していたのが嬉しかったです。
というようにこの作品、登場人物の描き方や筋運びなど、最初から最後まで楽しく読むことが出来ました。もちろん、歴史小説なので特に後半部分は登場人物たちの臨終などシビアな部分はありますが、久しぶりに面白い歴史小説を読むことが出来たという印象です。お薦め☆です。
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☆橘三千代 上
著者=梓沢 要 発行=新人物往来社(kadokawa)
内容(「BOOK」データベースより)
女帝の時代陰で女帝を操ったひとりの女がいた!犬番の娘から己の才覚一つで、位人臣を極めた後宮女官・橘三千代。初めて描かれる橘三千代の愛と野望の生涯!『百枚の定家』につづいて俊英が書き下ろす渾身の歴史巨篇。
橘三千代 下
著者=梓沢 要 発行=新人物往来社(kadokawa)
内容(「BOOK」データベースより)
名族・橘氏はたったひとりの女から始まった!天武・持統・文武・元明・元正・聖武―六代の天皇に仕え、後宮を束ねて皇位継承に絶大な影響力を持った橘三千代。美努王の妻から藤原不比等のもとへ―激しくしたたかに生きた波瀾の一生を鮮烈に描く雄渾の歴史巨篇。
*この本は2001年3月に新人物往来社から単行本として発行されたそうですが、現在では絶版のようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。
紹介文にもありますように、天武天皇から聖武天皇までの六代の天皇に女官として使え、文武天皇と聖武天皇の乳母として権勢を振るった女性、橘三千代の生涯を描いた小説です。
三千代は元々、県犬養三千代といい、決して家格の高い家の生まれではありません。幼いときに母を失い、継母との折り合いはあまり良くなかったものの、しっかり者の乳母に育てられ、乳兄弟や兄たちに囲まれてのびのびと子供時代を送りました。。
そして15歳の時に初めて出仕、最初、美努王の妻となり、のちに藤原不比等と再婚、多くの子女にも恵まれ、上で書いたように2人の天皇の乳母として位人臣を極めます。
で、この本を読んだ感想はやはり、三千代のたくましい生き方にすっかり魅了されてしまいました。
例えば、軽皇子(後の文武天皇)や首皇子(後の聖武天皇)を皇太子にするときの手段を選ばない様子、しかし、その蔭で犠牲になった人たちのことも決して忘れていないところが人間的でもありますが。
文武天皇の夫人になっていた宮子(不比等が別の妻との間にもうけた娘)が妊娠すると、再び乳母になろうと、不比等の子を絶対に身ごもってやると決心するところ、それを実行してしまうところなどすごい。ちなみにこの時に宮子が産んだのが後の聖武天皇、三千代が産んだのが後に聖武天皇の皇后となる安宿媛(光明皇后)です。
ラスト近くに聖武天皇の気鬱を治そうと、文字を書いた亀を偽造するところはどきどきしてしまいました。ともあれ、自分の才覚ひとつでのし上がっていったところは見事です。
更に、持統・元明・元正といった女帝たちや三千代の子供たちなど、オリキャラも含めて脇役の人物もとても魅力的に描かれていました。
登場場面は少ないのですが、特に印象に残ったのは三千代のいとこ、安倶利女です。
*以下、ネタバレがあります。知りたくない方は少し飛ばして読んで下さいね。
彼女は「私は草壁皇子の子を産む」という野望を持って三千代と一緒に宮中に仕え始めるのですが、事件に巻き込まれて宮を去ってしまいます。
その後、三千代の兄と結婚するものの子のないまま先立たれ絶望するのですが、「今度は子をたくさん産めという夫の遺言を思い出し、10歳も年下の同族の男と再婚、10人近い子をもうけるのです。
三千代とは全く違った生き方ですが、こちらもたくましいと思いました。そしてそのたくましさが後世、三代の斎王に受け継がれるのかと。作者のイキな仕掛けですね。
なお、この安倶利女という女性は多分、作者の創作だと思います。調べてみたところ、井上内親王の母方の祖母(あえてこういう書き方をしますが)は未詳とのことでした。だからこそ想像できるわけで。(^^)
そうそう、草壁皇子の描き方もとても良かったです。私はどちらかというと王津派だったのですが、この作品の優しくて繊細で、それでいて強いところのある草壁皇子がとても好きになりました。ただ、唐突に退場してしまってびっくりしましたが。
そして、やはり不比等というのはすごい政治家だなと。藤原氏の基礎は不比等と三千代によって築かれたものかもしれませんね。
不比等の息子たち、いわゆる藤原四兄弟もなかなか個性的に描かれていて良かったです。長屋王事件の前の藤原四兄弟が決して一枚岩でなかったのが少し意外でしたが。四兄弟の中で一番目立たない麻呂が、亀を偽装するときにしっかり存在感を現していたのが嬉しかったです。
というようにこの作品、登場人物の描き方や筋運びなど、最初から最後まで楽しく読むことが出来ました。もちろん、歴史小説なので特に後半部分は登場人物たちの臨終などシビアな部分はありますが、久しぶりに面白い歴史小説を読むことが出来たという印象です。お薦め☆です。
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