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漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
http://kampo.no.coocan.jp/

恩田陸著「蜜蜂と遠雷」:ピアノ音楽を文章で存分に

2017-03-09 | 
あるピアノコンクールの予選から本選まで次々と奏でられる曲を
読んでいるのに、まるでその場で聞いているかのように見事に言葉で表現された作品。
2016年下半期直木賞受賞作品

たまたま知っている曲の場面があり、そこでは恩田さんの文章とともに
嵐のように音が頭の中に押し寄せてきてちょっと興奮しました。
作品に登場する一つ一つの曲を実際に聴きながらこの本を読んだらすごいことになるだろうと思う。

若いピアニストたち、審査員たち、それを囲む人々、
それぞれの人生も曲に重なり、たくさんのイメージが描かれます。
さらにそのイメージは、外の自然へと解放されるように導かれ、
そして気づくのです。
音楽は自然の中にあふれていると。

有名なクラシック音楽を作曲したかつての巨匠たちも、
自然の中に耳を傾け楽しい音を聞き取り楽譜に表現したのでしょう。

「音楽を外へ連れ出した」風間塵のピアノを本当に聞くことができたならどんなにすばらしいだろう


会員登録が必要ですが、こんなページもあります
蜜蜂と遠雷コンクール曲プレイリスト

恩田さんの作品は何冊か入り込めずそれ以来敬遠していたけど、
絶えず挑戦的に実験しているような作品群ですね。

恩田陸 1964年生まれ

梨木香歩著「エストニア紀行」人々と生き物の暮らしと国境

2017-02-23 | 
地続きの国境を持つ国は、侵略によって国がなくなる危険がいつもあり、
人々は、祖国や民族を守るという意識を絶えず持ちながら暮らしている。
海という壁に囲まれた日本に住んでいるとなかなか想像できない感覚です。


エストニア紀行 森の苔・庭の木洩れ日・海の葦

エストニアはバルト海に面しロシアに接する小さな国
700年以上にわたって、ドイツ、デンマーク、ロシアやソビエト連邦、スウェーデンなどによる
被支配民族として生きてきた人々の国
そして1991年にヨーロッパの一国として独立して以降は、
若者はヨーロッパに移り、今やどんどん人口が減少している国

皮肉なことに、人口が減ると自然は豊かになる。
金持ちにはなれないけれど、自給自足ができる国

この地域には渡りをするコウノトリが住む。鳥の目線で見てみれば、

「永遠に連続する海と大地。
 祖国は地球。
 渡りの途中の鳥たちにもしも出自を訊ねたなら、きっとそう答えるに違いない」

と、最後を結ぶ文章。

植物や野鳥が趣味の梨木さんのアングルは、共感するところが多々ありうれしくなる。

「梨木香歩」を含むこのブログ内の記事

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高田大介著「図書館の魔女・烏の伝言」言葉が十分でなくても用件は伝わり信頼は育まれる

2017-01-23 | 
ちなみに伝言は「つてごと」と読む。
前篇といっても充分長編だった「図書館の魔女」の続編だが
あのキリヒトが登場しない、にもかかわらず読みだしたら止まらない面白さ。
ふたご座の彼がちょっとイカした役回りで登場し、
後半キリヒトなみに強い輩も現れて、こりゃ先々キリヒトと対決するのか?
いったいこの先どうなることやら、これだけ長い物語を楽しんだ後にも関わらず期待は膨らむばかりです。


高田氏の文章はこれでもかというほど言葉をふんだんに使っている。
細かく書き込まれすぎてイメージがついていかない場面さえある。

だが、この物語に登場する人々は、文字が読めなかったり、文章の組み立てがうまくいかなかったり、
話しても訛りがひどくて詳細に伝わらなかったり、さらには人と烏だったり犬だったりと、様々な言葉の壁がある。
そんな条件下でも用件は伝わり、信頼感さえ育まれる面白さを、高田氏は描いているのだ。

漢字の読みがわからなかったり言い回しが細かすぎたりして飛ばして読みそうになる
が、妙に細かいところに謎解きのヒントがあるので、じっくり読むべきです。
結局二度読みして、さらに感動しました。

シリーズ第三弾は「図書館の魔女・霆(はたた)ける塔」だそうです(Now Writing)
とうとう題名から難しい言葉登場、はたたけるってなんだ!?

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森絵都著「みかづき」:わが子の教育を考えてみよう

2017-01-04 | 
学習指導要領を改定し小学生から英語が必須になり、
高校では歴史や地理も日本と世界を「総合」的に学び、「公共」と言う科目で社会を学ぶんだとか。
他に「言語文化」「理数探求基礎」「理数探求」など
「脱ゆとり」政策が進むそうです。
当面は国際力のある日本人を育成するのが目的でしょうか?

これまで国が指導する子供に対する政策は、漫然と正しいのだろうと思っていたけど、
不妊相談が多いわが薬局としては、最近国が不妊対策にやけに積極的なのも鼻につき
同時に女性の社会進出も強く促されていて、女性はストレスの塊になりつつあるのを見るにつけ、
そして、年齢を重ねてこれまでの教育の歴史をいくつか体験した身になると
国の教育は、日本が国際的により強くなるための政策のひとつなのだと気づきつつあった。
子供は国のもの? 


さて、
5年ぶりに大好きな森絵都さんの長編新作「みかづき」は塾の話です。

戦後の民主主義の芽生え時代に復習補習の目的で塾が始まり、
高度成長期には誰もが大学をめざし激しい受験戦争
そして詰め込み主義の批判からかと思ったゆとり政策の本当の目的は、
ブルーカラーを増やすことだった?
しかし少子化により陰湿ないじめや貧富格差で教育は崩壊寸前、そして今、脱ゆとり政策・・・

教育政策とはそういうことだったのだと再確認しました。
母国を愛し、母国のために働くことは大切なことだけど、
子育てする親御さんそして子供自身が、どうありたいのか、どうなりたいのか、
なぜそういう教育システムなのか、考えるべきですね。

テンポの良いメリハリのある文章、そして内容は鋭く濃厚。さすがです。
しかも、舞台は八千代台の小さな塾に始まり、大和田、津田沼、船橋と、京成沿線の住人にはたまらない物語


1/2夜の三日月と金星 これを

拡大してみたら金星の下に飛行機が写ってました。
一瞬UFO?とドキッとしましたが、羽田に向かうルートで盛んに飛行機が通る時間帯でしたね



お気に入りイラストレーター有賀一広さん・自然への感謝と祈り

2016-10-31 | 
季節を知るのに参考にしている本「日本の七十二候を楽しむ」文白井明大 絵有賀一広
その挿絵がとても気に入っています。

たとえば「霜降」のページ


霜降末候「楓蔦黄なり(もみじつたきなり)」のページはこちら
(霜降末候は新暦では11月2日~11月6日頃)候のことばは「山装う(やまよそおう)」

カワハギなんて思わずニッコリです。

そして今日手元に届いた本は「暮らしのならわし十二か月」文白井明大 絵有賀一広
その中の「紅葉狩り(もみじがり)」の絵がこちら

ああ、山に行きたくなりますね~
自然の恵みと昔の人の知恵を知ると、心が癒され豊かな気持ちになれます、

有賀さんのHPもご覧になってみてください。下のキジをクリック!


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高田大介著「図書館の魔女」渦巻く言葉の嵐の中に入る価値はある

2016-09-05 | 
文庫本で4巻、トータル1800ページを超える物語。

しかも、安易な口語会話でスカスカとページを浪費するのではなく、
びっしり文字が紙を埋め尽くしている。
その長々しい文章に、
この文章重複してんじゃないの?とか、きっと俳句の夏井先生ならここつっこむなあとか
チェックを入れたくなる部分もあったりする。
使ったことのない日本語も次から次と押し寄せてきて、
できることならいちいち辞書を引いてみたいけど・・・
そんなイライラをよそに、なんという物語の面白さ。
事細か(すぎる)描写のおかげか気が付けば、物語の登場人物それぞれの想いを深く感じて
皆愛おしくなってしまう。

我慢して読む。
読み始めは面食らったものの、後半はかなり読めるようになった。
おかげでまた、七面倒な文献も端折らずにちゃんと読めるかもしれない。

著者の高田大介さん(1968年生まれ)の専門分野は、印欧語比較文法・対照言語学とWikipediaにある。
道理で外国文学みたいに文章がしつこいわけだ。
夏井先生に校正してもらったら、ページ数は2/3くらいになるんじゃないかしらん(冗談です・・)

そうそう、物語の内容は、
「権謀術数が渦を巻く、超スリリングな外交エンターテインメント 正真正銘、世界レベルの大傑作」
と第一巻の帯に書いてある。すごいね。すごいです。


余談:以前は寝ながら読書でひどい眼精疲労、年とったなあと思う毎日でしたが、気づけばこんなに読んでもあまり眼精疲労が気にならなくなりました。きっと二至丹のおかげだと思う。肝腎陰虚体質が改善され、眼「は」若返ったかも!?

星野道夫著「旅をする木」大自然の刻む時間

2016-08-08 | 
アラスカでは、大きくて豊かな自然がゆっくりとその時を刻んでいる。
それは忙しい都会生活をする私たちと、同時進行の時間。
そのことを感じるだけで、生き方は変わってくるという星野さん。

アラスカの自然、見たこともないのにその大きさや温度や色合いを想像するのが楽しい。
豊かだが厳しい自然に暮らすからこそ、深いつながりを保つ人々とのエピソードが愛おしい。

地球に暮らすということは、それが当たり前なのに、
人間が地球を支配していると思い違いをしていないか。

この本を読んでいると星野さんはまだずっとどこかの自然の中にいて、
また私たちにこんな本を書いてくれるのではないかと楽しみにしてしまう。

星野 道夫 1952年9月27日千葉県市川市生まれ ~ 1996年8月8日 写真家 探検家 詩人

宮下奈都著「羊と鋼の森」:好きなことに真摯に挑み続ける

2016-07-07 | 
ピアノの調律師として経験を積む若者と
これを支える三人のベテラン調律師たち、そして若いピアニスト。
たぶん場所は北海道。

音を追求するという研ぎ澄まされた世界を、すごくピュアな文章で描いています。
茶化したりするところが全然ない。だけど清流のようにサラサラと心に染み入る。
あらゆる経験が音造りの糧となり、感性は磨かれていく。
毎日のどんなことも無駄なことってない。

ただし、どんなことにも耳を澄まし感じなければ、気が付かず忘れ去られて無駄になるなあ。


宮下奈都 1967年福井県生まれ

小川洋子著「ことり」慈愛あふれる閉塞環境は幸福でせつない

2016-06-23 | 
慈しむとは、相手にかかりきりになることであり、気が向いたときに慈しむ、ってないのです。
それは滅私ではなくて、相互に、あふれるほど満ち足りた気持ちになり人生が充実し、とても幸せなことなのでしょう。

老人の孤独死が発見されたシーンから始まる。
小鳥の小父さんと呼ばれていた彼は、一羽のメジロを入れた鳥籠を抱えたまま部屋でひとり死んでいた。
検死中に開けてしまった籠から出たメジロは、
小父さんを天国に送り届けるようにひとしきりさえずり外へ羽ばたいていく。

そして彼の生い立ちを振り返る。
幼いころから、自閉症(?)の兄とずっと一緒にくらし、
兄の死後は、自宅でたまたま怪我をしたメジロの幼鳥の面倒をみる。
どこか目新しいところへ出かけることもなく毎日同じ行動範囲の生活。
この閉ざされた環境は、愛情と安心が満ち溢れ、特に兄との関係では、
「威風堂々として、ごく自然で、どこにも疑問を差し込む余地はなかった。」
かえって、
そこでない場所に行ってしまったとき、外部の人とのかかわりが生じて、
それが読んでいてとても危なっかしく不安になるのです。

囀る相手を間違えてしまったかもしれない人生。それでも幸せな人生。
人の幸福のかたちはいろいろある。籠の鳥でも幸せはある。

小川さんのさらさらと流れる文章の中で幸福感に浸れるが、
何かとても切なくなる。

小川洋子 1962年 岡山県岡山市生まれ 薬指の標本、博士の愛した数式 ミーナの行進など作品多数

岸本佐知子著「なんらかの事情」ちょっとした事情がすごくおもしろくなる

2016-06-10 | 
ショートショートでしょうか。女性版星新一?いやいや岸本さんの発想はもっとすっ飛んでいる。

日常の事でも思いつきが微妙に意外だ。
その意外性が次々と連なって着地点は途方もないところにいく。
しかもその発想の連なりの途中にはちょっとブラックなこともあったりして、ドキドキする。
驚きでいっぱいです。

・スキーの記憶:
「くどいようだが、オリンピックは嫌いだ。」で始まる。
真っ向から「オリンピックは嫌いだ」と言う人はめったにいないと思う。
しかしオリンピックを愚痴るかと思えば意外なスキーの記憶に驚かされる。
オリンピックを控えて痛快。

・雨季:
雨が好きな彼女は、低気圧の図(ぷるぷるしてるらしいです)をすくって
腕にのっけると素敵なタトゥーになって、たまに耳を傾けると
ゴロゴロっと雷の音がかすかに聞こえたりするんだそうです。

・死ぬまでにしたい十のこと
「十と言いながら七までしか書けなかった。残りはまたいずれ書くかもしれないし、死が先に来るかもしれない。」
というフレーズで終わる。7つのしたい事が思いっきりくだらなすぎて恥ずかしくなるけど、
やれるものならやってみたいと充分思う。

こんな痛快な話が53話もある。
気持ちは軽やかになって、梅雨時の読書にぴったりだ。


岸本 佐知子1960年生まれ 神奈川県横浜市 翻訳家、エッセイスト、アンソロジスト
他の作品の題名は「ねにもつタイプ」「気になる部分」
これらの題名からも岸本さんの物語を想像できるのではないでしょうか。

有川浩著「植物図鑑」路傍の植物に目覚めて幸せに

2016-05-26 | 
前記事の知人が樹木図鑑をもってきた話題で思い出した本が「植物図鑑」


有川さんらしい甘々なラブストーリーですが、
女の立場からすると、夢のような設定です。

なんたって、突然、タイプな男子が自分ちに転がり込んできて、
しかも彼は植物に詳しく、採取した植物をおいしく料理してくれるのですから。
洗濯も掃除もやってくれるし、楽しい散歩にも連れてってくれるし、
もう言うことなし、です。

本の見開きから物語に登場する植物の写真がずらっと並び、まさに植物図鑑の様相を呈しています。
そして甘~い気分にどっぷり浸りながら、がっちり山菜料理に詳しくなれます。

この物語で、路傍の植物に目覚めてくれる人が増えるとうれしい。

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松原始著「カラスの教科書」カラスは頑張ってる

2016-04-28 | 
鳥の本なのに、しかもカラス・・・なのに人気上昇中。

なんといっても松原さんの文章が楽しい。
一途な松原さんのカラス愛が楽しい。
鳥の観察風景が楽しい。
ひたすら待ち続けたり、原付バイクで長距離を走り続けたり、
たまにカラスに食糧を奪われたり、カアカアと叫んだら答えてくれたり、はたまた睨まれたり叱られたり・・・

カラスは頭がいいといわれるけど、
カラスもほかの生き物も賢くなくっちゃ生きて行けない。自然は甘くないもの。
みんな必死に生きているということが、ひしひしとわかる本。
だけど、カラスの様々な行動は、やっぱり人間ぽくって頭がいいと思ってしまいます。

大きいし黒いし身近過ぎて何となく嫌って、知ろうとしないカラスの習性。
知れば絶対好きになる、かな?
ちなみに、
カアカアと澄んだ声で鳴くのは、ハシブトガラス(くちばしが太い)
ガアガアと、だみ声で鳴くのは、ハシボソガラス(くちばしが細い)

ほら、カラスの声に耳を傾けたくなるでしょ。

「カラスの補習授業」という続編が昨年末に出版されているのですね。
まだ文庫になってないけど、これも買っちゃうなあ~きっと。

面白い記事がありました
カラス先生と行くカラス観察ツアー


松原始:1969年奈良県生まれ 
京都大学理学部時代にカラスの研究を始め、同大学院で理学博士号を取得。2007年から東京大学総合研究博物館に勤務


福岡伸一著「やわらかな生命」私の身体は流れの中にある

2016-04-27 | 

「私たちはふだん自分は自分、自分のからだは自分のものと思っている。けれどほんとうは、私が私であることを担保する物質的基盤は何もない。私の身体は流れの中にある。分解と合成のさなかにあり、常に新しい原子や分子が食物として取り入れられ、その時点で私を構成している原子や分子は捨てられる。」

「ゆえに記憶も実は流れ流されている。全身のあらゆる部位が常につくりかえられている。一年もすれば、物質的には私は別人となっている。だから心がどこに宿っているにせよ、それは変わって当然なのだ。むしろ常に変転しつづけている。」

「同一の自己も、実現すべき自己もなく、流れだけがある。その証に、ヒト以外の生物は、約束なんてしないし、一貫性もない。そのかわり後悔もない。」

科学者のとてもクールな考え方。だけどこれが真実。
自分は特別だと思うのは驕りであり、こうあらねばならないという妙な緊張から解き放たれます。

ならばどうあがこうと同じでしょうか。
どんな生物も直観的に、流れの向かう先を思うのではないでしょうか。
少しでも良い方向に向かおうと毎日を懸命に生きてそれが、ある流れをつくっていると思うなあ。

福岡伸一 1959年 東京都生まれ 分子生物学者


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鏑木蓮著「エンドロール」:生きざまが後の人の力になる

2016-03-29 | 
物語の後半、続いて解説文、訳もなくじりじりと涙が滲みます。

読みながらいろいろなことを思います。
自分の父は子供や青年のころどんな暮らしをしたのか、母はどうだったか、驚くほど知らない。
死なれてから、あらためて叔父や叔母に尋ねたり、古い写真を見たりすると、
まるでモノクロ映画を見ているかのように情景が浮かび、
ああ、こんな人生を歩んだ人に、自分は育てられたのかと心が熱くなることがあった。

それはたいして特別な出来事ではないけれど、知ることで、覚えておくことで、
新たな自分の行く末の糧になっていくのだなあと、この本を読んで確信した。

孤独死した老人。彼がどこで生まれ、どんな人と出会い、どう考えたのか、
それを知りたくなった男は、その老人の住むアパートのバイト管理人。
家族や他人とのかかわりを煩わしく思う、映画好きのバイト暮らしの29才。
この老人とのかかわりはほぼないに等しく、たまたま第一発見者となった。
だが老人の遺品の中の八ミリ映像に心打たれ、にわかに彼の過去を知りたくなるのだ。
徐々に明らかとなる戦前から戦後を生きた人々の姿。
そのひとつひとつの出来事に、何か自分の足元がしっかりしてくるように感じた。

鏑木さんがこの物語を書き上げた直後にあの大地震が起こり、
その半年後に出版された(2011/11題名しらない町 2014/01文庫化時に改題エンドロール)とき、
この本によって、突然の死に別れに戸惑う人々が救われた気持ちになったそうだ。
映画好きに特におすすめ。

鏑木蓮 1961年生まれ 京都

西加奈子著「ふる」女性のいのちを正直に生きる

2016-03-12 | 
キーワードは、
人それぞれが纏う白いもの(それは主人公「花しす」と猫にしか見えない)と女性器と新田人生。

白いものはふわっとしているようで、ずっしり重みもあるらしい
それは何でしょう?いのちの「気」みたいなもんでしょうか。
介護している寝たきりの祖母の女性器から白いふわふわしたものが出てきたとき、花しすは確信したのではないでしょうか。代々、ここからつながっている女たちの「いのち」を生きることの意味を。
西さんは、イメージを少しずつ文章にしていくうちにやがて「いのち」を書きたかったんだ気付いたのだそう。


主人公の28歳「花しす(かしす)」の過去や今のいろいろな出来事は、
その都度何か結果が出るわけでもなく混沌としているけど、
彼女の感性は細やかで、だけどわりと事なかれ主義で、あるある的に共感してしまう。

そして彼女の人生の年代ごとに登場するいろいろな「新田人生」という人物。
いちいち彼の登場はやたらと心騒いで、面白いです。

物語の後半、畳み掛けるようにさまざまな声が。
過去や今の、花しすの周りの人の声、そして花しすの心の声、正直ないろんな声。

私的に反応したのは、
どう思われようと、避難されようとも、愛している人たちには自分の思いをはっきり言葉で伝えるべき、というところかな。
最もできないことだものね。
混沌としているけど印象に残る作品。

西加奈子 1977年生まれ イラン ・テヘラン生まれ エジプト・大阪府育ち