アブソリュート・エゴ・レビュー

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藁の楯

2017-08-25 23:12:33 | 映画
『藁の楯』 三池崇史監督   ☆☆☆

 ニュージャージーの日系レンタルビデオ屋で買ったDVDである。大沢たかお、松島菜々子、藤原竜也、とわりと好きな俳優が出ていること、原作が『BEE-BOPハイスクール』のきうちかずひろであること、が興味を持った理由。きうちかずひろ氏はどうやら最近は小説家になっているらしいが、この人のストーリーテリング能力は結構大したものなのだ。小説は読んだことないが、この人原作のマンガ『こども極道ボンガドン』全三巻を私は持っていて、これは小学生がヤクザの組長になるというふざけた設定だが、おちゃらけのギャグマンガかと思ったら全然そうではなく、実に硬派で、ディテールがしっかりした上質のストーリーマンガなのである。しびれる場面もたくさんある。大好きなコミックの一つで、時々読み返したくなる。

 まあそんなわけで、多少の期待感とともに鑑賞した『藁の盾』だったが、結果的にはまあまあというところだ。私が幼稚さや底の浅さを感じる邦画のパターンがざっくり言って三つあり、それぞれセカイ系、サイコパス系、ゲーム系と私は呼んでいるが、この映画にはちょっとサイコパス系+ゲーム系が入っている。護送される囚人の藤原竜也は幼女嗜好の殺人者、それを遺族である山崎努が10億の賞金を出すから殺して欲しいと全国民に呼びかけ、金に目がくらんだ一般市民、警官、医者などがみんな殺人者となって襲いかかってくる。それを防いで藤原竜也を護送するミッションを負うのが、大沢たかお、松嶋菜々子のSPチームと岸谷五朗、永山絢斗の警視庁チーム、及び福岡署刑事の伊武雅刀の計五人。金に目がくらんで誰もが殺人者になるところがサイコパス系であり、襲い来る殺人者をクリアして目的地まで辿り着くというルールがゲーム系である。

 そういうところに薄っぺらさを感じるのはいかんともしがたいが、ただしこの映画の場合エピソード毎の工夫と役者の芝居の熱さで補い、それなりに見られる娯楽映画になっている。

 まず護送のやり方がどんどん変わっていくのが変化に富んでいて飽きさせない。最初は物量作戦で、警察と機動隊の総力を挙げた護送軍団方式。ところがこれはかえって危険であることが判明する。そこで少数精鋭の隠密行動方式に切り替え、新幹線による護送。ところがこれも謎の追跡装置によって現在地が公表され、破綻。徒歩や車やタクシーという、もはや計画性のかけらもないゲリラ的護送手段を余儀なくされる状況へと追い詰められていく。

 護送軍団にトラックが突っ込んでくるあたりから新幹線内の攻防まではアクションも盛りだくさん、ビジュアルも派手でとてもスリリングだ。護送チームの五人も無傷ではすまず、死人も出てだんだんと減っていく。それはいいのだが、人数が減りゲリラ護送方式に変わっていくと、当然アクションのスケールはだんだん縮小していくわけで、尻すぼみ感があるのが残念なところ。
 
 おそらくはそれを補うため、後半では心理戦へとシフトしていくが、そのメインとなるのが「護送チームの中の誰が裏切り者なのか?」というミステリーである。護送チームの居場所はどんなにカモフラージュしても山崎努が立ち上げた「清丸サイト」を通じて全国に発信され続け、その追跡はきわめて正確である。誰かが裏切って情報を流しているとしか考えられない。メンバーが疑心暗鬼に駆られ、チーム内で仲間割れしたりと不穏な状況が再三出来する。これもなかなか効果的だが、謎が解けた後で振り返ってみると辻褄が合わない部分もあるように思える。まあ、細かい部分はしょうがないか。

 しかし終盤の尻すぼみ感に拍車をかけるのは、なんといっても護送チームメンバーの囚人に逃げられる、撃たれる、刺される、というミスの連発である。盛り上げる手法として採用したのだろうが、「これは見事にやられたな」という感じがまるでなく、あまりに油断し過ぎで、「いくらなんでもこれはないんじゃね?」という呆れが先に立ってしまうのである。特に松島菜々子が撃たれるところなど、それまで一度逃げられているというのに一人は電話に夢中、一人は囚人を後ろにしてぼーっとしているというひどさだ。

 それから作品全体を通じて何度も問われる「この人間のクズを何のために守っているのか、この囚人は守る価値があるのか?」の葛藤だけれども、気持ちは分からないじゃないが、彼らは囚人というより法治国家のシステムを守っているわけで、清丸に何か言われていちいち動揺しそれを表に出すのは、プロフェッショナルとして甘く感じる。心の中の隠れた葛藤ぐらいにしておいた方が良かった。

 そんなこんなで、欠点も多いがそこそこ見どころもあるという、玉石混交の作品になった。主演の大沢たかおは暑苦しいまでの熱演である。がんばった。松島菜々子はクールビューティーな役柄だけれども、なぜか魅力半減である。この人の良さが活かされていない。こういう役なら、別の女優さんの方が良かったかも知れない。

 最初は粗暴な刑事だと思わせた永山絢斗は、実は複雑なキャラというのが後出しで出てくるところが良かった。早く殉職してしまうのが惜しい。岸谷五朗はしたたかな感じがよく出ていて、さすがに巧い。伊武雅刀は、新幹線のホームでいきなり人情デカみたいなエピソードが入ってくるのが昭和っぽかった。人間のクズを演じた藤原竜也は、子供っぽいところがなかなか合っていた。

 ところで最後、映画が終わった瞬間に、氷室のエンディング・テーマが「きゃなしみは~♪」と始まった時は激しくずっこけた。なんとかならんか、あの歌は。



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