アブソリュート・エゴ・レビュー

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座頭市と用心棒

2010-05-24 13:27:14 | 映画
『座頭市と用心棒』 岡本喜八監督   ☆☆☆★

 英語版DVDで再見。確かシリーズ20作目である。これはなかなか評価が難しい。座頭市シリーズとしては異色作で、完璧に岡本喜八の映画になっている。

 非常にアクが強い。名作『座頭市物語』のようにすっきりした、端正なストーリーではなく、色んな要素がゴチャゴチャ詰め込まれていてごった煮のようだ。登場人物はみんな一癖も二癖もあるような奴らばかりだし、人間関係は裏にそのまた裏がある。この映画の中ではみんないわくありげで、腹に一物持っていて、隠された顔を持っている。それに加えて人間の欲深さのえげつない描写、ブラックユーモアもたっぷり。腹にもたれかねない濃厚なごった煮スープの味だ。上品な、あるいはキリリと引き締まった味が好みなら物足りないだろう。が、この味がたまらん、という人もいるに違いない。

 冒頭からいつになく強烈だ。吹きすさぶ雨と風の中での斬り合い、そして死人の身ぐるみをはがして持っていく下人たち。ずぶ濡れになって「地獄だ」と呟く座頭市。そして市はかつて滞在した桃源郷のような平和な村を思い出し、再びその村を訪ねる。ところがその村は今では魑魅魍魎の跋扈する修羅場となっていた、というお約束の展開。

 とにかく色んな話が詰め込まれている。善人ぶった烏帽子屋(えぼしや)と、その息子であるヤクザの政五郎の親子の確執。用心棒(三船敏郎)と梅乃(若尾文子)の歳のわりにプラトニックな恋模様。用心棒と政五郎の金の延べ棒探索。暗躍する隠密たち。梅乃を縛る借金。梅乃を陰ながら守ろうとするチンピラ。大目付が動き出すほどの八州廻りたちの陰謀。座頭市と用心棒の剣豪対決。地蔵を作り続ける善人のじいさん。九頭竜と呼ばれる不気味な男。などなど。詰め込みすぎで全体像がよく分からず、一つ一つの掘り下げは浅い。ただし、渾沌としたカオスのパワーは感じる。

 最後は例によって大がかりな出入りとなるが、これも明らかに他の座頭市映画と違う。痛快とか爽快では全然なく、不気味なまでにえぐい。髪ざんばらで血まみれの幽霊みたいな政五郎(米倉斉加年)、しまいには金のために親子で殺しあう烏帽子屋。とにかく人間の醜さをこれでもかと見せつけてくれる。市も血糊で顔がだんだら模様になってグロいし、金を必死になってかき集めたりする。

 ちなみに市はこの映画では「面白くなってきやがった、みんな死んじまえ」なんていつもの座頭市らしからぬセリフをはいたりする。お約束の蝋燭斬りやサイコロ割りもない。

 今回のウリである三船の用心棒は当然のごとく三十郎そっくりで、豪快さが魅力だ。金もないのに酒を飲んでいつもごろごろしている。しかしその実、三十郎では絶対あり得ない裏の顔を持っている。これを面白いと思うか、興ざめと思うかは観客次第だ。まあこれは三十郎ではないので、私はこれもアリだとは思う。ただし、話は余計ややこしくなり、もうどうでも良くなってくる。

 岸田森の登場も嬉しい。黒づくめで顔だけが白く、まるで吸血鬼である。ただし、今ひとつ活躍しきれていない。若尾文子は例によってお美しいが、登場場面は意外と少ない。オールスター映画の宿命だろうか。

 同じ岡本喜八の時代劇『斬る』『大菩薩峠』ほどの生彩はなく、ごちゃごちゃし過ぎでまとまりがないので傑作とは言えないと思う。が、ごった煮の異様な迫力があり、そういう意味ではなかなか面白い。
 


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