アブソリュート・エゴ・レビュー

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ラヂオの時間

2012-05-19 21:10:02 | 映画
『ラヂオの時間』 東陽一監督   ☆☆☆

 ご存知、三谷幸喜の映画監督デビュー作。日本版DVDを購入して再見した。一般には結構評価が高いようだが、個人的にはまあまあレベルである。傑作とは思わないが、ディテールが面白いのでたまに観たくなる。

 これは三谷幸喜が最初に脚本を担当したテレビドラマ『振り返れば奴がいる』の時の実体験をもとにしているらしいが、現場の都合でどんどん脚本を変えられてしまうというアイデアは面白い。スリルを増すためにラジオドラマの生放送にしたのもいいと思う。が、結局全体はぐだぐだである。悪ふざけし過ぎたコントみたいで、作り手の都合の良さばかりが目立つ。それもこれも、出来上がったラジオドラマがあまりにもテキトーというこの一点に尽きる。最後、宇宙で行方不明になった宇宙飛行士が隕石に乗って地球に戻ってくるが、これでいいんだったら、最初からニューヨークにパチンコ屋があってもシカゴに海にあってもいいじゃないか、と思ってしまう。いやそれ以前に、ジョージ(井上順)が巨人ファンでアドリブまじりに今日の試合の結果をレポートするとか、ナレーターが同じセリフを何度も繰り返すとかでオーケーなら、もう何でもアリだ。ずぶ濡れになっている理由をどうするとか、そんなことで悩む必要はまったくない。行きづまったら誰かが適当に喋っていればいい。

 というわけで、生放送のスリルは結局完全スポイルされてしまっている。おまけに、あのぐだぐだのラジオドラマでトラックの運ちゃんが感激して泣くなんて結末をつけるにいたっては、都合良過ぎである。もう好きにしてくれと言うしかない。

 ただし、役者は豪華だしディテールは結構面白い。一番おかしいのは布施明のキャラ、堀ノ内編成である。いかにもなバブル期の業界人で、愛想と世渡りだけで仕事をしているような人間。調子はいいが人の言うことを何も聞いてない。彼が登場した時、笑顔で話しかける唐沢をことごとく無視するというギャグは秀逸。それから「こんにちワ~、ラジオをお聴きの皆さん」と素っ頓狂な声を出す鈴木京香、「静かにしてくれませんか!」と唐沢が怒鳴ると「何? 何?」といいながらトイレから出てくる近藤芳正、などにも笑った。

 それにしても、ディレクター役の唐沢寿明はとてもかっこいい。この映画を最初に観た時は、それまであまりかっこいいと思ったことがなかった唐沢寿明のかっこよさに驚いた。このディレクターは、最初脚本家の鈴木京香にやたら嫌味な態度をとるので嫌な奴かと思っていると、実はいい奴なのである。こういう役をやらせると唐沢はうまい。『12人の優しい日本人』のトヨエツもそうだったが、三谷幸喜はこういう「一見イケズだが実は誠実」というキャラが好きなんだな。



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