アブソリュート・エゴ・レビュー

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白い巨塔~教授選篇(その2)

2011-10-25 21:06:47 | テレビ番組
(前回からの続き)

 キャスト以外にも色々と改善の工夫がなされているが、それらが改悪にならずにきちんと的を得た効果を上げているのは、やはり原作者の山崎豊子が相談役として関与していたせいかも知れない。前述したように花森ケイ子のキャラ設定が大幅に変えられているのもそうだし、他にも、たとえば里見医師の助手として働く医局員が新たに追加されている。この医局員は里見に心酔しているので、彼が聞き手になることで里見の考えや感情が会話の中で表現される。また、後に誤診裁判篇で重要な役割を果たす柳原や亀山看護婦が最初から登場しており、正篇・続篇通した完全版としての目配りがなされていることがうかがえる。

 さて、この「浪速大学医学部教授選」篇ではもちろん、第一外科の次期教授の椅子をめぐって繰り広げられる熾烈な選挙工作、そのバトルが見ものである。別に財前が普通に東教授に気に入られていれば何の問題もなかったはずなのだが、嫌われているものだからややこしいことになる。財前又一の「金ならなんぼでも出します」の財力、岩田の同窓会からの圧力、そして医学部長・鵜飼の学内政治力を動員してなんとしても教授の椅子にありつこうとする一方で、東教授は政治力を持った東都大学の船尾に近づき、味方に引き入れ、船尾の弟子である菊川を次期教授に据えようとする。

 この熾烈なバトルの細部がまったく充実していて、原作小説よりさらに膨らませてある。たとえば財前は選挙工作における実弾の第一弾として、高価な絵を鵜飼部長に贈る。これを受け取る受け取らないでもめ、鵜飼の「預かりおく」発言で財前がびびるのは原作も同じだが、ドラマではその後鵜飼夫人が「高価な絵をありがとう」といってきたので受け取ってもらえたと喜び、すると再び夫人から電話がかかってきて「鵜飼から叱られたので撤回します」と言われてまたあわてる、という具合に、ずいぶん細かい起伏がつけてある。

 それから原作にまったくなかった印象的なエピソードとして、財前又一と岩田が東の退官後のポストを取引材料に使う、という話がある。東教授は退官後に有名病院の院長のポストが内定していたのだが、財前、岩田がそれを手配した市議会議員に働きかけ、財前を教授に推さなければ内定は取り消す、と脅させるのである。これは原作にはまったく存在しない。

 東の教え子である市議会議員が料亭で東と二人きりで部屋に入り、表向きは東の顔を立てながらも婉曲に脅しをかけていく場面は圧巻である。東もさすがにこれには参り、考えさせてくれと言うものの「多分ご期待に沿った返事ができるでしょう」と言って去る。隣の部屋で聞いていた又一と岩田はこれを聞いて喜ぶ。ところがシガレットケースを忘れた東はまた部屋に戻っていき、又一たちの会話を立ち聞きしてしまう。彼らは東を小馬鹿にしながら祝杯をあげていたのである。その嘲笑に激昂した東は、退官後のポストを棒に振っても財前と対立することを決意する。このエピソードによって東教授と財前の確執はますます激化することになる。

 それからさらに、これに里見の兄も絡めてある。東は退官後自分が院長となる病院へ小児科の責任者として来てくれるよう、開業医をしている里見の兄に頼む。が、里見の兄の返事は「申し訳ないが辞退します」というものだった。「私を必要としている患者がいるものですから」佐枝子はこれを聞いて、東や財前が繰り広げている権力闘争とはあまりに違う、その医師としての姿勢に衝撃を受けるのだった。

 と、まあこんな具合に話が色々膨らんでいて、面白くて仕方がない。

 ところでキャストのところで触れなかったが、東と結託して教授選で暗躍する実力者・船尾役で佐分利信が登場する。「偉さにかけては日本一」の佐分利信、さすがに貫禄たっぷりだ。登場場面が少ないのが惜しい。

 どの場面をとっても面白いこのドラマだが、やはりキーパーソンたちが激しくせめぎ合う場面は強烈で、個人的にはやはり鵜飼、大河内あたりが登場するともう目が離せない。この二人がやり合う場面はすべてが見所だ。あの狸の権化のごとき鵜飼が唯一頭が上がらないのが大河内で、彼の政治的弁舌も大河内の竹を割ったような正論に斬って落とされてしまう。そういう意味では教授選の選考委員会の場面が見ものだ。鵜飼は何とか他の候補を落とし財前だけを残そうと言辞を弄するのだが、ことごとく大河内に却下されてしまう。

 それからたとえばこんな場面。教授たちが一堂に会した席で、大河内が影でいかがわしい選挙工作が行われていることを指摘すると、鵜飼が「そこまで前医学部長にご心配いただくのは恐縮で、現医学部長の私が責任をもって公正にやりますのでご心配なく」という。遠まわしに「あんたは前医学部長で私が現職なんだから、余計なことを言うな」と言っているのである。それに対して大河内が「それは安心なことだ! お言葉通り公正な選挙をお願いしよう」とやり返す。いやー、加藤嘉もう最高。

 まあそんなこんなで教授選が終わり、いよいよ佐々木庸平が登場して物語は誤診裁判篇へと突入する。教授選篇では傍観者だった里見も、いよいよキーパーソンとして絡んでくる。目が離せません。


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2 コメント

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Unknown (corara)
2011-10-28 23:23:10
こんにちは。
白い巨塔はドラマもあったのですね。初めて知りました。
映画は以前観て、あまりの出来の良さ、面白さに、「もう~~、なんで良い人が負けちゃうの!?悔しい!」と気分が悪くなっちゃいました。
ドラマはキャラクターにますます深みを持たせていて面白そうですね。
レンタルビデオやさんにあるかしら。探してみようと思います。
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Unknown (ego_dance)
2011-10-30 09:03:01
これはいいですよ。映画を面白いと思った人なら、絶対はまると思います。
ぜひレンタルビデオを探してみて下さい。
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