西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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19世紀フランス文学:スタンダール

2012年10月22日 | 授業・講義・その他

フランス文学受講生の皆さんへ
以下は、先週の授業で少しだけ触れたスタンダールについての補足です。
スタンダールの代表作『赤と黒』『パルムの僧院』『恋愛論』などは、文庫本の翻訳が出ているので、是非、一冊読んでみて下さい。

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スタンダール(1783~1842)のプロフィール
フランスの小説家。本名はマリー・アンリ・ベール。冷徹な心理分析と同時代の現実のリアルな描写によって、バルザックとともに近代写実主義小説の先駆者とされる。
スタンダールは、1783年、父は弁護士、母は地元の名士の家系という裕福なブルジョワ家庭に生まれた。父の期待を一身に受け理工科学校の入学試験に合格するが、慣れないパリの生活で鬱状態となり、母方の親戚に引き取られた。こうして学業は途中放棄することになり、その後、縁戚を頼って陸軍少尉となり、ナポレオンのイタリア遠征に参加する。以後、父のイメージと重なる祖国フランスよりイタリアをこよなく愛するようになる。生涯に渡り、7歳の時に亡くなった母を慕い続けた反面、実務家で王党派の父を激しく憎み、父とは正反対のロマンチストの共和主義者として生涯を送ることになる。陸軍主計官補の職を得た後は官僚として出世し、1810年に帝室財務監査官に昇進。しかし、ナポレオン・ボナパルトの没落により職を失い、イタリアではフランスのスパイと濡れ衣を着せられ、失意のうちにフランスに帰国、フリーのジャーナリストを経て、1822年に『恋愛論』(スタンダール39歳)、1830年には『赤と黒』を発表。1830年、再び政界に戻り、トリエステ駐在フランス領事やローマ教皇領チヴィタヴェッキア駐在フランス領事を歴任する。『パルムの僧院』は、3年間の休暇を得て、パリに戻っていた時期に書いた小説である。1842年、パリの街頭で脳出血で倒れ他界。墓碑には「「ミラノ人アッリゴ・ベイレ  書いた 愛した 生きた」と記されている。

ローマ橋

フィレンツエ


ミラノ



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スタンダールには『赤と黒』という不朽の名作がありますが、『恋愛論』という恋愛心理を分析した作品も書いています。

スタンダールによれば、恋愛は次のような型に分類されます。
-「情熱的恋愛」「趣味的恋愛」「肉体的恋愛」「虚栄恋愛」。
「情熱的恋愛」とは、自身の情熱を一身に恋に捧げる恋愛。いかに経験に富んだ人間でも、この種の恋愛に取り付かれると理性をなくし、時として相手がもっとも嫌悪する行為に及ぶことさえある。
-「趣味的恋愛」とは、ドラマティックな恋愛や少女趣味的な恋愛を指すと解釈される。この恋愛についてスタンダールは次のように書いています。
「これは影さえも薔薇色でなければならぬ一幅の絵である。どんな理由の下にも不快なものが入ってはならない。生まれのいい男は、恋愛の様々な場面に処すべき態度を前もって心得ている。これほどの恋愛では情熱や思いがけないことは何もない。(・・・)いつも才知にあふれているからである。これはカラッチの絵にも比すべき綺麗で冷たい細密画である。そして情熱恋愛が我々にあらゆる利害を越えさせるのに反し、趣味恋愛はいつもそれと折れ合うことができる。」
-肉体的恋愛については「猟に行って森に逃げ込む美しい百姓娘を見かけること。この種の快楽に基づく恋愛を知らぬ者はいない。どんなに干からびた不幸な性格の男でも、十六歳にもなればここから始める」としています。
-最後の「虚栄恋愛」とは、二人の周囲に賞賛を贈る友人や知人がいてはじめて成立する恋愛を指すといえるでしょう。今風に言うなら、かっこいい男性や女性を伴っているということが重要。周囲の賛美が相手に対し更なる情熱をかきたて、「私にとって最高のパートナーだ。」「この人がいなくては生きていけない」といった発想を生じさせることになります。

以上の四つのどの恋愛においても共通していえることは、魂が高揚しさえしていれば快楽は強くなり、恋愛の思い出は強く後に残ることになるということです。また、恋愛の情熱においては、他の多くの情熱と異なり、失ったものの思い出が常に良く見えるということなのです。


恋愛は次のような経緯を経ることになりますが、その恋の過程で有名なスタンダールの「結晶作用」が起こります。

1.感嘆
2.自問
3.希望
4.恋の誕生
5.第一の結晶作用
6.疑惑
7.第二の結晶作用

スタンダールによれば、第一の「結晶作用」とは、私たちの出会うあらゆる現象に対し、愛する人に一つ一つ新しい美点を見出してゆく精神の作用のことで、いわゆる「あばたもえくぼ」の状態を指します。

「ザルツブルクの塩坑では、冬、葉を落とした木の枝を廃坑の奥深く投げこむ。ニ、三ヵ月して取りだして見ると、それは輝かしい結晶でおおわれている。山雀の足ほどもないいちばん細い枝すら、まばゆく揺れてきらめく無数のダイヤモンドで飾られている。もとの小枝はもう認められない。/私が結晶作用と呼ぶのは、我々の出会うあらゆることを機縁に、愛する対象が新しい美点を持っていることを発見する精神の作用である」(「第二章」14頁)

第二の結晶作用とは、疑いと確信の相互作用により、より愛が高められていくというものです。

「疑惑の発生に続く夜、おそろしい不幸のひとときの後、恋する男は十五分ごとにつぶやく。「そうだ、彼女はやっぱり私を愛している」。結晶作用は転じて新しい魅力を発見しはじめる。と、またものすごい眼をした疑惑が彼の心をとらえ、急に彼を立ちどまらせる。息が詰りそうだ。彼はつぶやく。「しかし彼女は本当に私を愛しているだろうか」。こうした心を引き裂く、しかし快い交互作用の中で、哀れな恋人ははっきりと感じる。「彼女が私に与える快楽は、彼女のほか誰も与えてくれはしない」/この真理の疑う余地のないこと、片手は完全な幸福に触れながらたどるこの恐ろしい絶壁の路、これこそ第二の結晶作用を第一の結晶作用よりはるかに重大なものとするゆえんである。」(「第二章」16-7頁)

スタンダールはまた、恋人を次から次へと替えるプレイボーイには、この高貴な恋愛の結晶作用を経験することはできず、一途に一人の女性を愛し続ける男性こそが真実の恋をするのだとも言っています。

                                              『恋愛論』(新潮文庫、1970年)より

ジョルジュ・サンドは、ミュッセとイタリアに旅をするためにローヌ河を南下した際、スタンダールと同じ船に乗り合わせ、お互いに言葉を交わしている。



授業では、時間的余裕があれば、彗星のように出現し、その[比類なき美しさ]と「静かな情熱」で観客を魅了し、当時の映画界で不動の人気と地位を築き上げた男優ジェラール・フィリップが主演する映画『赤と黒』を見ることにします。



http://blog.goo.ne.jp/csophie2005/e/efd307b90f7a00ef7b12994365c5f29c

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