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テロリストのパラソル |
史上初の江戸川乱歩賞、そして直木賞をW受賞した作品です。
公園での爆破事件に端を発して覚えのない疑いをかけられて逃げ回る主人公が、自らが抱えてきた二十年以上の闇とも言える人生と対峙をしていく流れが語られています。
その受賞は当たり前に過ぎると思われるスピード感に溢れる展開と魅力ある登場人物、そして思いもよらぬ結末と、楽しみがてんこ盛りな初の藤原伊織でした。
逃げながらも真相を追い詰めていく主人公、その主人公を助ける謎の人物、また主人公と若かりしころに関係のあった女性との思い出、とどこかで見たような人間関係だったりもしますし、過去のエピソードにフラッシュバックをするなどそのまんまだったりもしますが、しかし底辺にあるものは全く違います。
ある意味でハードボイルドであり、ある切り口では恋愛小説であり、そしてもちろんミステリーとしての要素も色濃く持ち合わせています。
時の流れの残酷さ、しかし変わらないことの強さ、憧憬が見事に描かれており、あまりに偶然が重なる状況設定などはさして気にはなりません。
そうなれば一連の作品を読みあさるのが習性なのですが残念なことに現時点で電子ブック化をされているのはこの一冊だけで、かつ作者が既に若くして世を去っているという事実が残念でならないのですが、それでも我慢をして待つことが楽しみになるだけの深みのある作品との出会いが嬉しかったテロリストな風景でした。
2013年11月26日 読破 ★★★★★(5点)