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オリオン村(跡地)

千葉ロッテと日本史好きの千葉県民のブログです
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会津執権の栄誉

2020-06-22 23:42:09 | 読書録

蘆名氏の名将と讃えられた盛氏ではなく嫡男で酒毒により早世した盛興でもなく、盛興の未亡人を妻に迎えた二階堂氏からのかつての人質で近臣に弑逆された盛隆でもなく、盛隆の子で僅か3歳で夭折した亀王丸でもなく、佐竹氏から養子に入った実質的に戦国大名としての最後の当主となる義広の時代を描いた作品ですので珍しすぎます。
しかも豊臣秀吉に会津執権と呼ばれた金上盛備をタイトルにしているのはマイナー好きな自分としては魅力たっぷりで、ここのところは電車通勤が無くなったため読書をする時間がたまの遠出のときぐらいになりなかなか読み進めることができませんでしたが、連作短編集ですのである程度の区切りを付けられたのは助かりました。

奥羽の各氏は複雑な血縁関係のため蘆名氏と佐竹氏、そして伊達氏には薄くとも同じ血が流れており、そのため亀王丸の後継者争いに佐竹氏と伊達氏が候補に挙がり家中を二分した争いの結果、金上盛備ら佐竹派が勝利して義広が当主となるも伊達派との対立が残り、また義広に従ってきた家臣団と重臣たちとの亀裂がそれに拍車をかけます。
最後は摺上原の戦いで伊達氏に大敗して蘆名氏の滅びに繋がりますが、そこに至るまでのそれぞれの立場、思惑がメインに描かれています。
戦国末期の大きな流れからすればあまりに小さな争いではあるのですが、その中で家を思い、自らを思い、そして時代を思う姿はスケールの大小で語るものではないでしょう。
ただの兵卒が主人公になっているものもありなかなかに興味深く、しかしそれだけにもっと深掘りをして欲しかったですし肝心の金上盛備の存在感がイマイチで、また大きな鍵を握った猪苗代盛国を取り上げる編があってもよかったのではないかと、滅びに向かう一本筋のようなものが見えず散漫としていた感じがあります。
最後に小田原征伐に際しての伊達政宗を持ってきたのも中途半端でなぜに蘆名氏で押し切られなかったのか、滅び後の義広を描いてくれれば満点に近かっただけに残念至極です。


2020年6月16日 読破 ★★★★☆(4点)


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黎明に起つ

2019-12-15 00:35:17 | 読書録

黎明に起つ

講談社

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自分が子どものころには下克上の象徴とされていた斎藤道三、北条早雲は、しかし研究が進んで今では道三の成り上がりは親子二代によるものとの説が有力となり、また早雲は一介の素浪人ではなく備中伊勢氏の出身で幕府の申次衆も務めた名門との説がほぼ確定をしていて、最近の作品ではそれを前提としたものがほとんどです。
そんな早雲、は北条を名乗ったことはありませんから伊勢新九郎盛時ですが、その備中時代から相模を制した晩年までが描かれています。

この作者はマイナー、もしくは信長、秀吉、家康ほどにはメジャーではない武将を主人公に据えて、斬新な切り口で描くところが気に入っています。
しかし残念なことにこの作品は切れ味が鈍く、駄作とまでは言いませんが期待をしたほどのものではありませんでした。
ただ作者の主戦場である板東の地、そして北条氏を取り上げていることで、無意識にハードルを高くしてしまったところはあるかもしれません。
とは言いながらも新九郎がことさら「自身の栄達のためではなく民のため」を繰り返しながらもそれにかかる描写がほとんどなく、結局は幕府の施策に振り回されて、また戦の場面が過半ながらもそれぞれが中途半端かつほぼ無双なのがらしくなく、そして意味もない金貸しの後家を差し込むぐらいであればもっと民政にスポットを当ててもらいたかったです。
小田原城攻めの際の鹿狩りの勢子、あるいは二本の木をかじり倒して虎になる鼠、といった逸話に触れなかったのはよかったですが、一方で大和猿楽にかこつけて小鹿範満を討ち取ったり、新井城攻めで三浦義意の眉間を射貫いたり三浦同寸と一騎打ちをやったりと話を膨らませるにしては行き過ぎなところがあったりもして、どうも筆に迷いがあったようにも思えて、しかしそれでも魅力的な作品を世に出し続けている作家であることは間違いありませんので、今後も楽しみに追っていきます。


2019年11月21日 読破 ★★★☆☆(3点)


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猫又お双と一本足の館

2019-11-28 00:36:06 | 読書録

猫又お双と一本足の館

KADOKAWA

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どこかで逆転ホームランがあるかと僅かながらの期待も虚しく、文字どおりに「安物買いの銭失い」となった猫又シリーズでした。
楽天koboでの安売りにシリーズ全冊、とは言っても三冊でしかありませんが、まとめ買いをしたのが悔やまれますがこれも勉強、安いには安い理由があったということです。
ミステリー仕立てにはなっていますが難解な謎解きがあるわけでもなく、猫又というメインテーマを活かしきることなく脇道にはやたら力が入っていたのが印象的でもありました。

前作の脈絡のないしいぼるさん、がこの最終作のプロローグになっていたとは思いもよらず、しかししいぼるさんである必要もありませんでした。
ちょっとした行き違いで隆一郎と住んでいた長屋を飛び出したお双は猫又の長であるヤムに命じられるがままに恐山にある猫又の隠れ家に連れて行かれ、そしてまた隆一郎もヤムに招かれるように訪れたその地でそのヤムが謎の死を遂げる、となれば事件なのですが、これまたあまりに簡単すぎてただただ唖然です。
猫又、というものを突き詰めるでもなく、薄っぺらい色恋沙汰のような展開にこういうシリーズなんだっけと、ファンタジーな展開を想像していたのが間抜けに過ぎました。
ミステリー、ロマンス、ファンタジーのどれを取っても中途半端で、こう言っては何ですが小学生向け、中学生でももう厳しそうな、作品紹介に推奨年齢を記載して欲しかったです。


2019年11月16日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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猫又お双と教授の遺言

2019-11-22 03:35:22 | 読書録

猫又お双と教授の遺言

KADOKAWA

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前作でがっかりとさせられた猫又シリーズの二作目です。
歴史学の教授から弟子たちに、との遺言を巡るトリックが題材とされていますが、やはり稚拙で小学生向けの作品としか思えません。
手掛かりが全く無いのも掟破りですがこれほど簡単であれば推理小説にもミステリーにもならず、ネタとしては太平記から持ってきたのではないかと思ってしまうぐらいの凡庸さです。
さすがに誰が、までは分からなかったのはそういう構成になっていなかったからで、しかもあまりにちゃちい動機に二度目の肩すかしでした。

導入は悪くはありませんでした。
お双、がまだ猫又でないときに江戸で出会った異人のしいぼるさん、のプロローグがどうストーリーに絡んでくるのか、それをいろいろと考えての読み出しです。
遺言とともにあった古文書の謎を解き明かす鍵になるのではと思案を巡らせて、しかしそれがなくとも解けてしまったことでもやもや、もやもやです。
その種明かしはエピローグでされますがあまりに壮大に見せかけたオチが腹立たしく、シリーズとしては一つのテーマなのかもしれませんがもっと他にやりようはあっただろうと、作者からすれば引っ掛けたつもりかもしれませんがしてやられたではなく腹立たしさしか残りません。
実のところ片付ける、という意味合いで最終作を読み始めているのですがそこには繋がりますから全く無意味ではありませんが、こういった手管は嫌いです。


2019年11月8日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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義経幻殺録

2019-11-02 00:10:26 | 読書録

義経幻殺録

講談社

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芥川龍之介が探偵役となるシリーズ二冊目、そしておそらくは最終篇です。
源義経が衣川では死なずに蝦夷、そして大陸に渡って成吉思汗になった、といったおとぎ話のようなものはよく喧伝されていますが、この作品では清を建国した女真族の祖こそが義経だと、それを6代皇帝の乾隆帝が「玉牒天オウ世系」なる秘本に書き記しているとの情報が龍之介に持ち込まれたところから話が始まります。
その秘本を追う中で起きる殺人事件、それと並行してロシア革命に絡んだロマノフ朝の秘宝の行方が絡み合い、明治から大正にかけての日本の大陸侵攻の闇が描かれています。

龍之介が大阪毎日新聞の記者として中国に渡航したのは史実のようですし、この手の作品はその史実と虚構とのバランスが楽しみの一つです。
登場人物も実在だったり架空だったり、起きる事件もそうですが、野暮かもしれませんが読みながらのWikipediaでの検索は欠かせません。
成吉思汗よりはもしかして信憑性が高いのか、などと思ったりもして、しかも井沢元彦となればそのわくわく感が高まります。
それだけに江戸川乱歩のあの名探偵を引っ張り出したのはリスペクトだったのかもしれませんが、時代としては一致をするにしても興ざめだったのが正直なところです。
ロシア絡みはさっぱりでしたが肝心の義経清始祖説、は序盤の餌撒きがあまりに露骨すぎてバレバレでしたし、読み始めの高揚感はあっという間に消え失せてどう手仕舞うつもりかと興味はそちらに移り、そこに明治の元勲を登場させたのはシリーズの繋がりにしても無理矢理に過ぎた感のある尻切れトンボでした。


2019年10月21日 読破 ★★★☆☆(3点)


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いまさら翼といわれても

2019-10-08 03:11:48 | 読書録

いまさら翼といわれても

KADOKAWA

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古典部シリーズの最新作、その6作目はシリーズ2冊目の短編集です。
発行はもう3年も前になりますが単行本は高いので文庫本になるのを待っていた、ものが今年の6月に文庫本化されたのを知ったのは先週で、慌てて買って速攻で読破しました。
懐かしい折木奉太郎、千反田える、福部里志、伊原摩耶花のそれぞれが主人公となって、もちろんシリーズの主役である奉太郎はそのほとんどに絡んできますし重要なポジションではあるものの、あくまで脇に徹して各々の主人公を引き立てるようにその存在を際立たせる描写はさすがな、そんな出来に仕上がっています。

「箱の中の欠落」では生徒会長選挙で生徒総数よりも投票数が多かったことで疑われた後輩の選挙管理委員を救うために里志が謎に挑み、「鏡には映らない」では中学時代の卒業制作で手を抜いたと同級生から蔑まれていた奉太郎の真意を摩耶花が探り、「連峰は晴れているか」では奉太郎が中学時代の教師のヘリコプター好きを里志、摩耶花が知らなかったことで図書館で調べものを、「わたしたちの伝説の一冊」では漫画研究会での書く派、読む派の対立に摩耶花が翻弄され、「長い休日」では奉太郎の"やらなくていいことならやらない"モットーが生まれたエピソードが、そして「いまさら翼といわれても」では合唱会に参加をするはずだったえるが行方不明になったことで奉太郎がそれを探します。
そのいずれもがミステリー、よりも青春群像とでも言いますか、それぞれが内に持っている悩みのような、これは成長をしていくためには乗り越えなければならないもので、高校二年生であることから今後の人生に思い至るところがテーマとして通されている章立てになっています。
ただ残念なことに全体的に暗い、のはこのシリーズの特徴でもあるのですがハッピーエンドとは言い難くともそれはそれで一つの選択として前に進む一歩になっているにしても、あとは読み手が話を膨らませてください、と言わんばかりに明確な結末を描かないままの終わり方がとにかくもどかし過ぎました。
そういった手法は珍しくもありませんがそれにしてもあまりに中途半端で、それでいて不必要な遭難事故についてだけは結果を書き記すなど統一感にも欠いています。
表題作はえるの心情をこれ以上もなく表していますが、そのいまさらにえるが今後どういった答えを出すのか、まさかこれでシリーズが終わるようであれば石を投げつけます。


2019年10月7日 読破 ★★★☆☆(3点)


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万能鑑定士Qの謎解き

2019-10-01 03:28:01 | 読書録

万能鑑定士Qの謎解き

KADOKAWA

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映画化でさらに盛り上がる腹づもりだったのかもしれませんが、しかし大コケしたこともあってかシリーズも終局を迎える一歩手前の万能鑑定士Qです。
時事ネタはタイミングよく読めばリアル感があっていいのですが刊行から時間が経ってしまうとチープになってしまうリスクがあり、小学生ぐらいのころにはまっていた星新一のショートショートではそこを鑑みて「一生暮らしていけるだけの大金」などいつの時代でも違和感がないような描写としているとの後書きだかを思い出しました。
この作品では尖閣諸島の領有権などで悪化をした中国との外交状況をベースにしているのですが米中関係のいざこざで中国が日本にいい顔をしている今からすれば違和感があったりもして、そこを韓国にでも置き換えればいいかなと思いながら読み進めましたが、やはりタイミングを逸するとその魅力も落ちてしまうとちょっと反省です。

時系列からすれば別シリーズを読んでからの方がよさそうだったのですが、面倒になってきたので万能鑑定士Qシリーズをまず読み終えることにしました。
今度こそ偽物ではなく本物のコピアとの対決になるかと思いきや国宝級の文化財の主権争い、日本と中国がそれぞれ自国由来のものだと主張をする中で並行して中国で横行する文化財偽造団が絡み、真贋を確認するために今やその第一人者として認められた凜田莉子が小笠原悠斗とともに日本、そして中国を股にかけての大活躍です。
相変わらずに豊富な知識と鋭い着眼で次々に謎を解いていきますが、しかし躓くところはしっかりと躓いてきっちりと盛り上げてくれます。
どこがどう繋がるんだろう、といろいろな事件がとっちらかりますが徐々に一本の線に紡がれていくところなどはシリーズの真骨頂で、見事な展開でした。
ただ残念なことに珍しくも読者への挑戦状スタイルをとりながらも肝心要のメインのトリックが簡単すぎたのは今作では脇役のコピアに語らせすぎで、失敗だったように思います。
また人の死なないミステリー、はいいのですがほぼ悪人がいないってのにも限度があり、偽造団の下りやこの事件をきっかけに日中首脳の雪解けとかはさすがにやりすぎでしょう。
いよいよ次はシリーズ最終作で今度こそコピアとの最終対決になるのでしょうし、全21巻の最後に相応しい作品であることを心から願います。


2019年8月31日 読破 ★★★☆☆(3点)


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図書館の殺人

2019-09-20 03:12:34 | 読書録

図書館の殺人

東京創元社

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登場人物の人間関係をネタでぶち込んでくるので間を置くと分からなくなるため、立て続けの裏染天馬シリーズです。
前作とは違って長編に戻り、そしてまたしてもの殺人事件は校内ではなく近隣の図書館が舞台ですがこれほどの短期間となれば事件あるところに名探偵ありではなく、名探偵あるところに事件ありといったところで、そんな突っ込みをしても無意味なので作者からの挑戦を受けて立つ気概で読み込みましたが、例によって撃沈と相成りました。

決してズルいわけでもないですし、伏線と言いますか謎を解く鍵はしっかりと提示をされてはいるのですが、どうも自分には苦手なパターンが続きます。
空間構成能力に欠いているのかもしれず事件の舞台を脳内で構築するのに四苦八苦で、どうも上手くイメージができません。
深夜に誰も立ち入ることができないはずの図書館で起きた殺人事件の被害者が天馬の同級生の従兄弟だったことで駆り出されたわけでもなく早々に白旗の警察からアドバイスを求められたのはご愛嬌、謎の元司書やその同級生の怪しげな挙動などが絡み合っての展開はスピーディーで、それがこのシリーズの特徴にもなっています。
ただ天馬の推理もあまりにスピーディでその着眼点にはひれ伏すしかなく、しかし懐中電灯はともかくトイレの下りはさすがに掟破りだろうと愚痴りたくもなりました。
そして高校の部室棟に住みついている裏テーマもさりげなく織り込んではいましたがさしたる進捗もなく、これまでは1~2年に一作のペースがもう3年以上も空いていますのでまさかこのまま尻切れトンボにはならないよねと、もやもやしたまま終わりたくはないので来春ぐらいには次回作が刊行されると信じて待つことにします。


2019年8月21日 読破 ★★★☆☆(3点)


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風ヶ丘五十円玉祭りの謎

2019-08-20 03:19:05 | 読書録

風ヶ丘五十円玉祭りの謎

東京創元社

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登場人物の人間関係があやふやだと楽しみが損なわれる、と続けての裏染天馬シリーズです。
これまでの二作とは違って短編集となっていますので大がかりなものではなく、当然に殺人事件などはそうそうに起きるものでもありませんから身近での小さな出来事が題材です。
作者からの挑戦状みたいなものもありませんし、そこはちょっと安心をしながら読み進めることができました。

やはり長編ほどにひねたところはありませんので、全てではありませんが謎解きができたのはこれまでとは違い、その分は楽しめたと思います。
ただその謎解きよりも天馬の妹の鏡華だったり、あるいは最後に父親らしき人物が姿を見せたりと、シリーズを通してのテーマのようにもなっている「なぜ天馬は高校の部室に住み込んでいるのか」がメインにもなっていて、そのシチュエーションからすれば気にはなりますがさほどに重きを置いていないのも正直なところなので鬱陶しくはあります。
さりげなく次作へのエピローグになっているものもあったりしてシリーズとしては重要な位置づけなのでしょうが、これまでは一年に一作のペースですから今年もそろそろ新刊が出るはず、そうなるとその次作でもほのめかしに終わってもやもやするのかな、と思いつつもすぐに買うことになりそうな気がしないでもありません。
それはさておき、天馬の高校だったり鏡華の中学だったりで起きる小さな事件、それは無理だろ、と推理の邪魔をするような仕掛けはありませんのでこれまでに比べればお薦めの一冊で、ただ前述のとおりシリーズとして読まなければしんどい場面は相変わらずですから読者の幅を狭めている自覚を作者には持ってもらいたい、そんな作品でした。


2019年7月21日 読破 ★★★★☆(4点)


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水族館の殺人

2019-07-23 03:26:48 | 読書録

水族館の殺人

東京創元社

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裏染天馬シリーズ、とでも呼べばいいのか、その第二弾となります。
さすがに前作が体育館での殺人事件でしたので再びに事件の舞台が高校、なのは拙いとでも考えたのか、その舞台は水族館に場所を移します。
衆人環視の中でサメの水槽に落ちた被害者はしかし既に殺されていて、現場には血痕や足跡など物証はそれなりにありながらも容疑者とされる水族館の関係者には全てアリバイがある、そのアリバイ崩しのために登場をするのが我らが天馬、新聞部で幼なじみの香織がたまたま取材で訪れていたことで前作の警部に引っ張り出されての謎解きでした。

その前作もそうだったような気がしますが、ここでも最後に作者から読者に対する挑戦状があり、そして敢えなく敗戦となりました。
とは言いながらもこれは無理筋、種明かしをされてしまえばここそこにその材料は提供をされていますのでなるほど、と納得をしたりもしますが、しかしそれは答えから遡ってこそのものであり、事件の状況からその解を導き出すのはかなりな探偵でなければ厳しいように思えます。
一介の高校生が警察のアドバイザーとして紹介をされて周りがそれを受け入れる、は小説ですからいいとしても、与えられた材料だけではまず無理、天馬の思いつきをなぞらえるようにして「なぜそう考えるのか」、つまりは事件の真相ではなく天馬の思考を読み解かなければ行き着けないのはちょっと違うでしょう。
またシリーズものとして前作のエピソードと言いますか人間関係でくすりとさせたいのでしょうが読んだのが4年弱も前ですから説明チックになってももう少し親切にして欲しかったりもして、天馬がなぜ高校に住みついているのか、といったサブストーリーもちょっと余計に思えた殺人事件でした。


2019年7月17日 読破 ★★★☆☆(3点)


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彷徨える帝

2019-07-09 03:11:55 | 読書録

彷徨える帝(上)

角川書店

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彷徨える帝(下)

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南北朝が統一をされた後、それを後南北朝時代と呼ぶ向きもあるようですが、統一の条件であった大覚寺統と持明院統が入れ替わりで帝位に就くという両統迭立が足利幕府に反古にされたことで反発をする元南朝勢力、そこにくじ引き将軍と揶揄をされた足利義教の強権政治が相まっての混乱が舞台となっています。
その義教が赤松氏に暗殺をされた嘉吉の乱、そしておそらくは元南朝に神器を奪われた禁闕の変あたりをモチーフに、その前後数ヶ月間が描かれています。

あまりこの時代は得手としていないので興味があり、そして導入から引き込まれてかなりな期待をしたのですが、しかし残念なことにそれは長くは続きませんでした。
史実と創作、を上手くミックスをさせるのが腕の見せどころであり、例えば駿河の守護大名である今川範国とその地を訪れていた世阿弥が同日に死没している「史実」をプロローグとして、そこに今川範忠の双子の弟の朝比奈範冬を幕府側の、伊勢国司である北畠氏の一族である北畠宗十郎を元南朝側の主人公に据える「創作」を絡めて、この両者の視点を切り替えて話が進んでいくのはいいのですが、そこに後醍醐天皇の「呪い」と言いますか不可思議な力が徐々に力を増してきたことでおかしくなってしまいました。
黒色尉、白色尉、父尉、この三つの能面に込められた呪術が幕府に対する反乱を引き起こす、大内義弘らの応永の乱もそれが原因だったことから防ぎたい幕府、奪いたい元南朝のせめぎ合いがほぼメインなのですが、範冬も宗十郎も自分が何を求めているのか、迷い、そして苦しみ、そこから導き出される新しい道、そんな流れを予想していたのがあっさりと裏切られて、呪術に留まらずにやれ予知だの三ツ目だの、SFXかよ、な展開にはもう唖然としか言いようがありません。
両者のその後も何ら明るい未来を感じさせない終わり方ですし、彷徨える帝、ではなく彷徨ったのはプロットではないかと、この作者にしては大ハズレな駄作でした。


2019年7月8日 読破 ★★☆☆☆(2点)


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ビブリア古書堂の事件手帖 7.5

2019-07-02 03:31:23 | 読書録

ビブリア古書堂の事件手帖 7.5

KADOKAWA

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勝手に7.5と銘打ってみましたが、ビブリア古書堂シリーズの後日譚となります。
最後の事件から数年後、篠川栞子と五浦大輔はめでたく結婚をして、なぜか大輔が婿入りをしたのは置いておくとして、扉子というこれまた不思議な名前の娘との三人暮らしです。
篠川親娘にしてやられたことのある同業者には気持ちが悪くなるぐらいに栞子とそっくりな扉子、はとても幼い子どもが読めるようなものではない古書をただただ読む、友だちと遊ぶよりも本を読む方がいい、と自分の子どもだったころを思い出して社会性を心配する栞子にはちょっと笑わせてもらいました。
そんなサブタイトルは「扉子と不思議な客人たち」ですから扉子の栞子真っ青な活躍があるのかと思いきや肩すかし、メインは大輔の青いブックカバーが掛かった本探しです。

この本がシリーズの締めくくりとして最後にオチが待っているのですがそれはさすがに伏せるとして、大輔がどこかに置き忘れたそれを探す栞子、興味津々な扉子、その過程でかつてビブリア古書堂を訪れた、あるいは関わった人たちのその後が4つの短編にまとめられています。
誰だっけ、と思い出すのに多すぎず少なすぎずのかつてのエピソードが説明口調にならない程度に入り込みますからそのあたりは問題なし、そういった構成はさすがです。
家族の繋がり、あるいは人の繋がりをテーマとしているのも本編を受け継いでいて、ただ取って付けたような感じになっている気がしなくもないのがやや残念ではありました。
それもこれもただオチを付けたかっただけじゃないかと、聡さは見せても扉子には荷が重かったかなと、ほとんど登場をしない大輔の逆転ホームランに拍手です。


2019年6月30日 読破 ★★★☆☆(3点)


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南海の翼

2019-03-27 00:04:33 | 読書録

南海の翼 長宗我部元親正伝

集英社

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この手の戦国武将を主人公とした作品は英雄譚、的なものが多いのですが、こちらは闇をテーマにしています。
生きるか死ぬかの戦国期にきれい事だけで領国を維持、あるいは拡げていくことができるわけもなく、例えば織田信長や武田晴信にしても同族間の争いを勝ち抜き、謀略で他国を陥れ、当然に後ろ暗いところも少なくはないでしょうが勝者の歴史でそれらがマイナス要素で多く語られることはありません。
そういう意味では終わってみれば敗者、でもあった長宗我部元親には戸次川で嫡男の信親を失ってからの耄碌が顕著だっただけに、そこにスポットを当てたのはよい着眼でした。

ただ残念なことに、構成が中途半端だったのがもったいなかったです。
その晩年の元親に取り入って権勢を誇った佞臣、との評価もある久武親直の視点から四国制覇を語らせたところまではよかったのですが、途中でそれが元親の独白となってしまったのは内面を描くためには仕方がなかったとしてもそれが長過ぎで、それであれば最後まで親直メインでいって欲しかったです。
それでも元親の末弟である弥九郎の死については作者の創作にしても、本能寺の変への関わりや四男の盛親の家督相続にかかる家中の混乱などは最近の研究結果を反映したのか通り一遍の伝記となっていないのはよし、そのテーマからどんよりとした気持ちになってしまった感は否めませんが長宗我部フリークとして読み応えのある作品でした。


2019年3月24日 読破 ★★★☆☆(3点)


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福家警部補の再訪

2019-02-22 03:29:42 | 読書録

福家警部補の再訪

東京創元社

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福家警部補シリーズの第二弾です。
作りが作りですので長編には耐えがたいこともあっての短編集になっていて、それが適度な長さなので読みやすさが特徴ではあります。
過去の強請や盗作、あるいは贋作を見抜かれての脅迫者、また足枷となる相棒を殺害した犯人を追い詰めていく福家警部補の活躍と言ってしまえばそれまでですが、しかし派手やかさはなく淡々と、やや平坦な嫌いはありますが、その地味さがかえって推理劇を際立たせているのかもしれません。

しかし例によって、トリックを暴いていく楽しさはありません。
刑事コロンボ、が古すぎれば古畑任三郎、と言えば分かりやすいのか、最初から犯人は分かっていますし、その犯人の視点でストーリーが進んでいきます。
それでも細かなところが伏線を拾い上げるようであれば面白みも増すのですが、偶然であったり、裏技であったり、ここはそういう繋がりだったのか、などと驚かされるよりも、そりゃご都合主義だろ、と思う設定の方が多かったりもして、そういう意味では事件に至る経緯、犯人の動機にスポットを当てているのでしょう。
ウチのかみさんがね、とはコロンボの口癖のようなものでしたが、宗教勧誘、警察官と分かっても交通課にしか見られない、またすぐに警察手帳を忘れてしまう、といったお約束が繰り返されるところは水戸黄門チックでもあり、そんな安心感も売りの一つであれば成功をしている福家警部補の事件簿でした。


2019年2月12日 読破 ★★★☆☆(3点)


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野望の憑依者

2018-12-20 00:11:34 | 読書録

野望の憑依者

徳間書店

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高師直、の名前は聞いたことがあるとしても具体的にどういった武将か、を知る人はさほどに多くはないと思います。
ある程度の年齢の方であれば真田広之が足利尊氏、沢口靖子が尊氏の正室、宮沢りえが側室、また後藤久美子が北畠顕家を演じたことでも話題となった大河ドラマの「太平記」での柄本明、となれば何となく記憶にあるのではないかと、足利氏の執事の一族で尊氏実弟の直義と争った観応の擾乱のキーマンの一人です。
室町幕府の軍事面を握り絶大な権勢を誇りましたが最後は直義との争いに敗れて殺されたものの、傑出な武将であったことは間違いありません。

その師直が主人公とは、一般的にはさして知名度の高くない武将を取り上げることの多いこの作者らしいセレクトです。
この作品では欲こそが正義、と野望のままに権力を手にしてきた師直が、いつしかその欲を押し出せないままに没落をしていく姿が描かれています。
直義を秩序第一な官僚的な人物に描くことでそれと対立をする師直の存在を際立たせているところなどはさすがで、また後醍醐天皇の寵姫だった阿野廉子や架空ではありますが師直の配下の佐平次などやはり自らの欲望を隠さずに乱世を渡り歩く人物の変貌、凋落も師直の変化と重ね合わせて読めば深みが増します。
ただ英雄気質に富みながらも鬱気味な尊氏を巧みに操る手管などの描写は秀逸ながらも、肝心の師直の変化を「京の暮らしが長くなったせいか」と本人の述懐で終わらせてしまったのが惜しい、もう少し掘り下げて欲しかったのが正直なところで、また自らの死の後に訪れる直義の転落、その死に踏み込んでこその野望の輪廻、終焉となったでしょう。
大河ドラマの後半部分を一冊にまとめるには無理があったのかもしれず、とは言え野望全開だった室町開府以前を削ることもできず、なかなかに難しいところではあります。


2018年12月13日 読破 ★★★★☆(4点)



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