電脳筆写『 心超臨界 』

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( チェロキーインディアンのことわざ )

ダブルに損をすると「得になる」―― 渡辺和子

2024-03-26 | 06-愛・家族・幸福
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ところが、やがて気づかされたのは、ダブルに損をすると「得(とく)になる」ということだった。“シングルの損”だけにしておくと、残るのは、腹立たしさ口惜(くや)しさだけであり、折あらば仕返しをと考える自分だけである。ところが思い切ってダブルに損をすると、そこには、ほめてやりたい自分が残り、「よかった」という満足感が残るから不思議だ。


◆ダブルに損をすると「得になる」

『目に見えないけれど大切なもの』
( 渡辺和子、PHP文庫、p159 )

“許し”がもたらすもの

許すということは、損をすることなのかも知れないと思う。だから、難しいのだ。

もう四十年も前のことだけれども、周囲の人たちの無理解に腹を立て、不機嫌だった私に、一つの詩が与えられた。


もしあなたが、誰かに期待した
 ほほえみが得られなかったら
不愉快になる代わりに あなたの方から
 ほほえみかけてごらんなさい
実際、ほほえみを忘れたひとほど
 あなたからのそれを
必要としている人はいないのだがら


貰(もら)えるはずのものが貰えなかっただけでも「損した」と思うのに、こちらがそれを与えるなんて、これでは“ダブルの損”だと、私はその時思ったものである。

ところが、やがて気づかされたのは、ダブルに損をすると「得(とく)になる」ということだった。“シングルの損”だけにしておくと、残るのは、腹立たしさ口惜(くや)しさだけであり、折あらば仕返しをと考える自分だけである。ところが思い切ってダブルに損をすると、そこには、ほめてやりたい自分が残り、「よかった」という満足感が残るから不思議だ。

ダブルの損を実行するのは決して易しいことではない。まず、相手の立場になる心のゆとり。「相手こそ、私の欲しいものを私以上に必要としているのだ」と考えることができるこのゆとりは、自分中心に生きている限りは生れない。それは一つの“許し”である。

次に、自分を大切にする決心。相手の出方に左右されず、自分は自分であり続けようという強い意志とプライドが、ダブルの損を可能にしてくれる。売り言葉に買い言葉的行動をしてしまった後の惨めな思いを、誰しも少なからず経験しているのではなかろうか。

かくて、自分の生活を大切にしたいなら、相手を許さないといけない。許すことによって、自分が相手の束縛から解放されるからである。夫の裏切り行為に苦しみ抜いた一人の人が、その苦しみから立ち直った時にいった言葉が忘れられない。「傷つけた相手を許すことによって、自立が可能になりました」。

許すということは易しいことではない。しかし、許すことによって、私たちは相手の支配から自由になり、自立をかち得るのだ。かけがえのない自分の時間を、他人の支配に任せていては、もったいない。時間の使い方は生命の使い方なのだから。

韓国には、「行く言葉が美しい時、返る言葉も美しい」という諺があると教えられたことがある。相手がどのようであっても、自分は“美しく話す”ということは、大変な勇気が要る時がある。しかし、それを実行しない限り、美しい言葉を相手から聞くことはできないのだ。

求めるものを与える時、そこには主体性がもたらす豊かな人生が生れる。許すこと、損することを惜しんではならない。
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