私たちの大便は、だから単に消化しきれなかった食物の残りかすではないのです。大便の大半は腸内細胞の死骸と彼らが巣くっていた消化管上皮細胞の剥落(はくらく)物、そして私たち自身の身体の分解産物の混合体です。ですから消化管を微視的に見ると、どこからが自身の体でどこからが微生物なのか実は判然としません。 . . . 本文を読む
おおよそ世の中の人間の性向は、マップラバーとマップヘイターに二分類することができる。夫婦のうち一人が前者で、他方が後者である場合、ドライブなどに行こうものならたちまち険悪な雰囲気となる。「ちゃんと地図を見ろ」「見てるわよ」「曲がるならもっと早く言え」「だって近づかないとわからないもん」という具合に。 . . . 本文を読む
フランクリンは1952年、自分の研究データをまとめたレポートを年次報告書として英国医学研究機構に提出した。英国医学研究機構は彼女に研究資金を提供している公的機関である。研究者は資金提供元に対して、研究成果の報告をすることが義務付けられており、その成果いかんによって資金提供継続の可否が決められるのが普通だ。だからフランクリンはあらん限りの成果を詰め込んで詳細な報告書を作り上げた。 . . . 本文を読む
生物の生存戦略は、企業など組織そのものの存続にも重要な啓示を与えてくれます。万物を支配するエントロピー増大の法則というものがあります。これは形あるものはいつか壊れるように、秩序あるものが徐々に無秩序の状態に移り変わる定めを示しています。さて、自然界で唯一この定めに抗(あらが)い存在し続けるもの、それが生物です。 . . . 本文を読む
すべての生物には、その発達プロセスにおいて、「脆弱性の窓」があると考えられている。臓器や組織における細胞分化や発達の途上、あるいは神経系や免疫系などのシステムの構築途上にあるとき、特に環境からのストレスや侵襲、干渉をことさらうけやすい、ある特別なクリティカル・ピリオド(=決定的な期間)が生物にはある、と考えられている。このバルネラブル(vulnerable)な期間を脆弱性の窓と呼ぶ。 . . . 本文を読む
イギリスを始めヨーロッパでは、従来より羊、牛、豚など家畜から食用肉を取り去った残りの部分の廃物やくず肉を集めて、加熱・脱脂し、これを乾燥させ粉末としたものを、タンパク質を含む家畜飼料として、“リサイクル”することが行われていた。この廃物再生の工程をレンダリングと呼び、できた産物は肉骨粉と呼ばれた。 . . . 本文を読む
ところが、このような操作をいろいろなタイミングや条件で行うと、バラバラにされた細胞のなかで、ごく限られた極めて稀(まれ)なケースとしてこんなことが起こった。自分が何になるべきかわからないながら、分裂することだけはやめずに生き続ける細胞がいたのだ。つまり無個性なまま、永遠の自分探しを続ける旅人である。これがいわゆるES(胚性幹)細胞だった。 . . . 本文を読む
来日したペリファンさんにお会いした。「隣人祭り」の創始者だ。この一風変わった名前のお祭りは、10年ほど前、同じアパートメントに住みながらあまりにも交流がない隣人とのコミュニティを再生するため、気軽に、自由に集まれる日をせめて年に1度持とう、とパリ17区で彼が始めたイベントだ。その後、隣人祭りはヨーロッパ各地に広まった。日本にも紹介され、始まりつつある。 . . . 本文を読む
クライトンは、ハーバード大学医学部卒業後、著作に転じ、世界的ベストセラー作家となった。書くまでに十分なリサーチを行い、斬新な切り口で一気に仕上げる。琥珀(こはく)に封じ込められた古代の蚊が吸った血液から、生命科学を駆使して恐竜を再生する物語『ジュラシック・パーク』。映画にもなって大ヒットした。人気テレビシリーズ「ER」も彼の原案・指揮によるものだ。 . . . 本文を読む
今から50年ほど前、2人の若い科学者、ワトソンとクリックは、DNAの構造が二重ラセンをとっていることを明らかにした。この発見は、20世紀最大のエポックとして歴代のノーベル賞の中でもひときわ輝いている。 しかし、頂上に達した、一握りのノーベル賞受賞学者の登攀(とうはん)経路は、すでにたくさんの人々によって拓(ひら)かれていたものであった。 . . . 本文を読む
フランスの耳鼻咽喉科医師、アルフレッド・トマティスは、言語として優先的に使われる音の幅が、民族によって著しく異なることに気がついた。音の幅は周波数(ヘルツ)で表される。たとえば短い子音を強く発音するイギリス英語の音の幅は、2000ヘルツから16000ヘルツに広がる。トマティスはこの音域を言語のパスバンドと名づけ、様々な民族が話す言語のパスバンドを解析した。 . . . 本文を読む
私たちの細胞は、コラーゲンが必要なときは、吸収したアミノ酸からいくらでも作り出すことができる。そしてコラーゲンの合成に必要なアミノ酸は、ごくありきたりなものなので、どんなタンパク質にも含まれている。だから普通の食事をしている限り、コラーゲンが不足するなどということもありえないのである。 . . . 本文を読む
食物とは、もともと生物体の一部であったものだ。そこには持ち主固有の情報が満載されている。この情報がいきなり、私の身体の内部にやってくると、私の身体固有の情報系と衝突、干渉、混乱が生じる。これを回避するため、消化酵素は、物語と文章を解体し、意味を持たない音素のレベルに還元する。そのアルファベットを吸収して、私たちは自分固有の物語を再構築する。 . . . 本文を読む
先ごろ亡くなった生命科学者ライアル・ワトソンは、ミャンマーに生息する霊長類ギボンの実に優雅なデュエットを紹介している。雄が先ず独特の曲想で歌い始める。やがてそこへ雌が加わる。雌もまた独自の歌を持ち寄る。曲はみごとなまでに調和して、2匹だけに特別な歌となる。 . . . 本文を読む
音響学者バーニー・クラウスは、高性能録音機材をボルネオの熱帯雨林の奥地に持ち込んで、そこに存在する音をすべて録音した。データを持ち帰り、横軸に時間、縦軸に周波数をとって解析してみた。するとグラフには互いに重ならない、たくさんの縞模様が現れたのだ。一体どういうことだろうか。自然界では、音についてもニッチがあるという大発見だった。 . . . 本文を読む








