電脳筆写『 心超臨界 』

人間は環境の産物ではない
環境が人間の産物なのである
( ベンジャミン・ディズレーリ )

読むクスリ 《 天晴れなライバル――伊藤元夫 》

2024-06-18 | 06-愛・家族・幸福
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
日本の歴史、伝統、文化を正しく学び次世代へつなぎたいと願っています。
20年間で約9千の記事を収めたブログは私の「人生ノート」になりました。
そのノートから少しずつ反芻学習することを日課にしています。
生涯学習にお付き合いいただき、ありがとうございます。

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東京裁判史観の虚妄を打ち砕き誇りある日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する
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◆村上春樹著『騎士団長殺し』の〈南京城内民間人の死者数40万人は間違いで「34人」だった〉
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その奥さんは誰からも好かれていただけに、通夜にはたくさんの人たちが詰めかけた。読経がすんで、親族が奥さんを棺に入れることになった。ところが、足がもう堅くなっていて動かないものだから、棺にうまく納まらないんだ。そのとき若い男がひとり、さっ、と立って遺体のそばへ行った。あ、ライバル社のMだ、とおれは気づいた。Mのやつ、なにをしたと思うかね。


◆天晴れなライバル

『読むクスリ』
( 上前淳一郎、文春文庫、p91 )

サッポロビール東京支店長伊藤元夫さんは、昭和36年に入社してほぼ20年、九州、中国、北陸など地方での販売促進にあたってきた。

地元の酒販店をこまめに回り、自社ブランドのビールを1本でも多く売ってもらおう、という仕事だ。

その間に親しくなった酒販店の人たちとは、いまもつき合いが続いている。

「東京へ来たからには、どうしてもあんたの顔を見たくてな」

そういって訪ねてきてくれる親父さんがいる。

こちらも、火事と水害のニュースには神経をとがらせる。もし昔世話になった酒販店に被害があったら、駆けつけるためだ。

「私としては、精いっぱい誠実にやってきているつもりです。でも、果たして自分にそこまでできるだろうか、といまも頭にこびりついて離れない話がひとつあるんです」

大学を出たばかりの伊藤さんの初任地は、小倉の北九州支社だった。ある夜、得意先回りのあとビールを飲みながら、先輩がしみじみといった。

「今日最後にいったお得意さんね、あそこの奥さんが昨年亡くなった。そのお通夜のときに、おれには生涯忘れられないに違いない出来事があったんだよ」

その奥さんは70歳近く、気さくな、いいひとだった。ビールばかりでなく、日本酒、ウイスキー会社の若い社員たちがかわいがられ、その先輩も親切にしてもらっていた。

気分が悪くなった、といって自宅で横になったまま、突然亡くなったのだが、誰からも好かれていただけに、通夜にはたくさんの人たちが詰めかけた。

「読経がすんで、親族が奥さんを棺に入れることになった。ところが、足がもう堅くなっていて動かないものだから、棺にうまく納まらないんだ。そのとき若い男がひとり、さっ、と立って遺体のそばへ行った。あ、ライバル社のMだ、とおれは気づいた。Mのやつ、なにをしたと思うかね」

「……」

「Mは奥さんの足をさすりはじめたのだ。泣きながら、さすっている。そのうち足がすこしずつ伸びてくる。そうやって、奥さんは棺に納められたんだ」

「……」

「おれは感動した。やられた、などというより、胸が締めつけられるような思いだった。おれもその奥さんが好きだったし、誠心誠意おつき合いしてきたつもりでいた。しかし、しょせんそれは、うわべの誠実さにすぎなかったんだ、と思い知らされる気がした」

「……」

「Mはもっと深いところで誠実だった。人間と人間のつながりを、店との間につくっていた。だからこそ、とっさに遺体の足をさすることができたのだ。敵ながらあっぱれだよ。おれは、自分にあそこまでできるだろうか、とビールを飲むたびに考えるんだ」

「その先輩の嘆息が。私にもうつってしまいました」

と45歳になった伊藤さんはジョッキを傾ける。

「私には、お得意さんの遺体を前にする機会はありませんでした。でも、もしあったとき、Mさんと同じことができるだろうか、と飲むたび考えるようになったんですよ」
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