今日のひとネタ

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フランケンシュタインの誘惑 「科学者 野口英世」

2021年02月01日 | TV番組レビュー
 NHKのBSPにて「フランケンシュタインの誘惑」を見ました。「科学史 闇の事件簿」というサブタイトルの付いている番組ですが、今回のテーマは「野口英世」。

 一般に野口英世というと、世界で活躍した近世の偉人として語られる事も多いです。自らの命を失うこともいとわずに、伝染病の研究に一生をささげたということで、昭和の時代には尊敬する人物として名前を挙げる人も多かったのではないでしょうか。

 まずこの人がいつの時代に活躍したか正しく認識している人はいるでしょうか。私もよく知らなかったのですが、生年は明治9年。西南戦争が明治10年ですから、まだ維新後の世の中が落ち着いていない頃です。

 なので、明治~大正の時代に活躍した人なのでした。福島の貧しい家に生まれながら、単身アメリカに渡って医学研究の世界に入れたのは並大抵の努力ではなしえなかったでしょう。

 が、今回のこの番組で彼の業績と言われるものをレビューすると

1911年(明治44年)梅毒スピロヘータの純粋培養(のちに否定)
1913年(大正2年)狂犬病病原体特定(のちに否定)
1918年(大正7年)エクアドルの黄熱病病原体特定(のちに否定)

など、発表した論文がことごとく否定されています。

 私が子供の頃に読んだ本では、アフリカで流行していた致死率の高い黄熱病という伝染病の研究の為に現地に行き、自身もその病気にかかって命を落としたというものでした。

 ただ、これに関しても最初は南米のエクアドルで黄熱病が流行った際にその研究に携わり、病原体を発見したと発表したものの実はそれはよく似た症状を引き起こすワイル病の病原体だったらしいという指摘があったとか。さらに、黄熱病は蚊が媒介することがわかっており、エクアドルでは蚊を駆除することにより黄熱病は撲滅できつつあったために、功を焦ってまだ黄熱病が流行していたアフリカのガーナに渡ったということもあったようです。

 その最後の渡航にあたっては、彼は自身が開発したという黄熱病のワクチンを接種してガーナに出かけたそうですが、そのワクチンは効果がなく結果として感染して命を落としてしまったというのが虚しいです。

 実は20年ほど前に、猪苗代にある「野口英世記念館」に行ったことがありました。その時はまだこの人の研究がことごとく誤りであったなんて知らなかったのですが、その展示を見ただけでも「偉くなりたかったんだろうなぁ」「注目を浴びたくてアフリカまで行ったんだろうな」というのは感じました。確かにそういう人ではあったようです。

 ただ、貧しい家の出でありながら医師免許を取得するために必要な「医術開業試験」に合格した頭脳と努力はあったわけで、さらにこの試験は通常7年かかると言われる内容を1年でクリアしたという秀才ぶり。

 何しろ子供の頃のやけどにより左手が不自由なため、ゴッドハンド的な手術をする臨床医には向かないと思ったため、研究をしようという指向になったとか。そういう点は正しかったと思うのですが。

 なお、狂犬病も黄熱病も原因となる病原体は細菌ではなくウイルスであり、野口が活動していた時代の光学顕微鏡では発見できなかったのだとか。彼はかたくなに細菌だと信じていたようなので、そこはなんともやりきれないところ。彼に電子顕微鏡を与えていれば、綿密に研究を行う忍耐力とど根性で別の発見ができたかもとか思います。

 なお、野口英世の黄熱病の研究については「彼はワクチンなるものを作り出し誤った安心感を与え何の利益ももたらさなかった。」「そして記録には残っていないワクチンを受けた人々の多くの命が失われたのである。」なんて批判もあるようですし、彼のことを研究している人も「もう 安らかに眠らせてあげましょう。あれはまさしく 野口の心の問題です。」というコメントもありました。

 今も人物伝としては語られますが、実はもう医学の教科書からは彼の名前は消えているそうです。虚しい…。

 なお、野口英世記念館に行ったときはその生涯を映画にした「遠き落日」のポスターがあって、それを見た際には「母親役が三田佳子では子供がぐれるんじゃない?」と思ったり、「なんでお土産で木刀を売ってるん?」とか思いました。とにかく謎の多い人物です。あとは、私の中学の頃の化学の先生がもしゃもしゃの髪型だったので、ある人は野口英世だといい、ある人は刑事コロンボだと言ってました。まぁどっちでもいいですけど。

 なんにしても、結構衝撃の内容でした。コメンテーターで出演してた現役のお医者さんたちもかなり言葉を選びながら…ということだったという。とにかく勉強になる内容でした。興味がある方は、再放送があればご覧になるとよろしいかと。